日本人の、このスタイルで、 やるべきダンスを探る。

Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
泊 貴洋・文
text by Takahiro Tomari

日本人の、このスタイルで、
やるべきダンスを探る。

ミキコ MIKIKO
演出振付家
1977年、広島県生まれ。Perfumeの振付・ライブ演出をはじめ、数々のMV・CM・舞台などの振付を行う。また国内外で高い評価を得ているダンスカンパニー「ELEVENPLAY」も主宰する。グッドデザイン賞やACCグランプリなど受賞歴も多数。

http://www.mikiko0811.net/#home

Perfume、BABYMETAL、星野源らの振付で知られるMIKIKO。主宰するダンスカンパニー、ELEVENPLAY(イレブンプレイ)やPerfumeの公演では、メディアアートを交錯させた演出も行う。

「ダンス甲子園世代」という彼女が踊りを始めたのは、高校2年の終わり。1年後には教える立場となり、小学5年のPerfumeらを指導した。「教える=クラスの振付をつくらないといけなくて、最初はそれが苦手だったんです。でも、そのうち振りで人の魅力を引き出すことが面白くなってきて。踊るより、振付のほうが楽しいかも、と思うようになりました」

28歳の時、才能を見抜いたアミューズ会長・大里洋吉の勧めを受けて、1年半、ニューヨークで活動した。

「日本のダンス業界では、いかに黒人っぽいグルーヴを出せるかが〝かっこいい〞の基準でした。でもニューヨークに行って、彼らのダンスを真似するだけではダメだ、と思いました。日本人の、このスタイルでやるべきダンスはなにか探るようになったんです」

そうして生み出されたダンスの流儀は、たとえば手の動きやリズムとの距離感に顕著に表れる。

「もともと手の動かし方が苦手だったこともあり、どうすればしっくり来るか、ひたすら研究したんです。そうしたら『この位置に手があるとキマる』という自分なりの型が見えてきた。私の場合、踊りというより、型でリズムをデザインしているという意識があるのかもしれません。音楽を直球で表現するだけだと、面白くないなと思ったことがあって。あえて音がないところに動きを付けたりもします」

昨年手がけたリオ五輪閉会式の東京引き継ぎセレモニーが話題となり、星野源の「恋ダンス」も大流行。日本を代表する振付家になったMIKIKOの、「アイデアの扉」とは。

「楽曲の第一印象と、誰が踊るのか。アーティストの仕草や、日常で目にした人の動きから着想することもあります。特に子どもって、恥ずかしがって手で顔を隠したり、緊張して肩を上げたりするじゃないですか。そういう動きは、考えても絶対出てこない。『最っ高!』と思いながら見てます」

夢はブロードウェイのように、海外の人も来る劇場をつくること。「最っ高!」にイケてる日本のカルチャーを発信してくれそうだ。

works

2015年の公演『ELEVENPLAY×Rhizomatiks Research「モザイク」』。自分がやりたいことを、きちんとできた作品、と語る。

4/15~16、ギャラリーアーモで公演『Rhizomatiks Research×ELEVENPLAY Dance Installation at Gallery AaMo』を行う。

※Pen本誌より転載
日本人の、このスタイルで、 やるべきダンスを探る。
大切な日々のための、 最良の寝具をつくりたい。

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アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
高橋一史・文
text by Kazushi Takahashi

大切な日々のための、
最良の寝具をつくりたい。

荒川 祐美 Yumi Arakawa
「YARN HOME」デザイナー
1983年、広島県生まれ。バンタンデザイン研究所卒業。2017年から商品を店頭展開する。「ヤーン ホーム(YARN HOME)」をスタート。「ヤーン ホーム ポップアップショップ」が、銀座三越7階で5/15~30、伊勢丹新宿店本館5階で6/28~7/11に開催される。

http://yarn-home.jp/

外出時に着る華やかな服より、家で寛げるお気に入りのパジャマを。日々のストレスを夜更かしで解消せず、肌触りのいい寝具に包まれて睡眠でリラックスする。こうした生活を楽しむ人が増えているいま、アパレル勤務経験のある荒川祐美が、理想とする日常のプロダクトを求めて寝具ブランド「ヤーン ホーム」を立ち上げたのは、時代の必然かもしれない。

生産や流通にノウハウが必要な寝具を一個人が手がけるのは、そう簡単なことではない。彼女が本格的なシーツ、ブランケット、タオルからパジャマまで揃えたコレクションを生み出せた背景には、荒川が設定したブランドのコンセプトがある。「ヤーン ホームは、日本全国にある良質なモノづくりの業者さんを集めたブランドです。あまり世に知られていない、彼らが得意とする生地や製造工場の特性を活かしつつ、現代の室内空間に合うデザインに仕上げています」

製造業者とタッグを組むことで、少数ロットの生産が可能になった。このやり方は、小さなアパレル企業が近年行っている製造手法にとても近い。

荒川は広島から東京に出てファッション専門学校に通い、販売仕事に従事。そののち、イギリスに渡りワーキングホリデーで滞在。現地での生活がヤーン ホームの立ち上げへとつながった。「昔ながらの街並みが続くイギリスのカンタベリーの家にホームステイしました。その家ではお母さんが毎朝きちんとテーブルセッティングしてくれて、週に一度シーツを別のものに替えてくれるんです。生活を大切にすることの素晴らしさを知り、そのサポートをする寝具について考え始めました」

彼女の父親は広島で寝具の会社を経営している。幼い頃から囲まれてきた寝具の世界に、再び気持ちが戻ってきた側面もあるのだろう。父親の日本国内の取引先を活用し、「和」と「西洋」を融合させ、2016年にデビューコレクションを発表した。

アイテムは、スモーキーな中間調の優しい色彩が目を引く。ガーゼで中綿を挟んだ洗えるブランケット、瞬間消臭機能やPhコントロール機能付きのシーツ、「今治タオル」のブランケット、デニム織りの色落ちしないパジャマなど長く使えるものばかりだ。
「色と肌触りにこだわっています。それに赤ちゃんの肌にも優しいです。西洋でも展開し、日本製品のよさを世界にアピールしたいです」

works

福岡県のメーカーが手がける、脱脂綿とガーゼを重ねて縫い合わせた快適で安全な寝具、「パシーマ」とのコラボ商品を多数展開。 写真:清水通広

インディゴ染料を使わず色落ちが少ないデニム織りのパジャマは、シーツやピローケースと同素材でのコーディネート使いがお薦めだ。 写真:清水通広

※Pen本誌より転載
大切な日々のための、 最良の寝具をつくりたい。
気張らない撮影現場から、 愛されるCMを生み出す。

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アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
泊 貴洋・文
text by Takahiro Tomari

気張らない撮影現場から、
愛されるCMを生み出す。

浜崎 慎治 Shinji Hamasaki
CMディレクター
1976年、鳥取県生まれ。2002年にTYO入社、ディレクターに。13年よりワンダークラブ所属。おもな仕事に、KDDI au「三太郎」、日清カップヌードル「OBAKA'S UNIVERSITY」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、ネオファースト生命「◯◯の妻」、トクホン「ハリコレ」など。

KDDIのau「三太郎」や家庭教師のトライ、日野自動車などを手がける、おそらくいま日本一忙しいCMディレクター、浜崎慎治。CMディレクターとは、プランナーが考えた企画に磨きをかけながら、映像を撮って仕上げる、映画でいえば監督だ。

大学4年の時、サントリーBOSSのCMを見て衝撃を受け、業界入り。26歳で大手制作会社の企画演出部に入ったが、実績のない新人監督に仕事は来なかった。そこで、実家の醤油店のCMを自主制作する。

「賞を獲って、人を振り返らせたいと思いました。でも自腹ですから、お金をかけずに撮りたい。テーブルの上だけで撮影できる企画を考えたんです」
活け造りの魚と醤油をコミカルに描いたCMが、2005年の「ACC CMフェスティバル」で受賞。依頼が舞い込み始め、出合ったのが、電通のプランナー・篠原誠だ。パイロットや家庭教師のトライなどの作品でタッグを重ね、au三太郎を立ち上げた。

「篠原さんとは、なんでも話せる間柄。人物設定も、ダベりながら考えたんです。たとえば『桃太郎は正義感が強いけど、正義感強いヤツっていま、いる?』『いない。正義感、なくていいんじゃない?』とか。『浦島太郎は漁師で毎日陽に当たってるから、サーファーみたいな感じ?』『ロン毛でチャラくて、バカキャラだったら?』とか」

こうして誕生した三太郎のCMが、老若男女に愛され、浜崎の代表作に。ディレクターとしては、中島哲也(温泉卓球の「サッポロ黒ラベル」)や、山内ケンジ(ソフトバンク「白戸家」)に影響を受けたという。会話劇を面白おかしく見せる手腕が光る。

「僕自身ゆるいから、役者さんにまず自由に演じてもらって、『いいですね〜。今度はこうやってみます?』と修正していくんです。特に三太郎は、和気あいあいと、貪欲に面白さを追求していくことが大事だと思うので、現場はゆるく、アドリブも活かします」

CMに対する絶妙な距離感も、面白さを生んでいる要因かもしれない。
「好きだけど、しょせんCM、と思ってるんです。その方がリラックスして演出できるし、監督は緊張するといいことない。緊張しながら『こうして』と言っても、相手が身構えますから」
するっと懐へ入り、役者やスタッフから、100%以上の力を引き出す。そうして今日も、愛すべき「しょせんCM」を撮り続けている。

works

日野自動車 「デュトロ 大工篇」(制作:博報堂+博報堂プロダクツ)。リリー・フランキーと堤真一の不条理劇で「日野の2トン」を訴求。

KDDI au 「三太郎シリーズ」(制作:電通+AOI Pro.)。それぞれのキャラクターが個性的で愛らしく、2年連続CM好感度1位を独走中。

※Pen本誌より転載
気張らない撮影現場から、 愛されるCMを生み出す。
見えるもの以外の何かを、 画づくりに込めたい。

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アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
細谷美香・文
text by Mika Hosoya

見えるもの以外の何かを、
画づくりに込めたい。

石川 慶 Kei Ishikawa
映画監督
1977年、愛知県生まれ。東北大学物理学科卒業後、ポーランド国立映画大学へ。短編映画の製作で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)主催の国際映画祭などで数々の賞を受賞。長編監督デビュー作となる『愚行録』はベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出された。

妻夫木聡をはじめ、日本映画界を牽引する俳優を揃えて、直木賞候補にもなった人気ミステリー小説を映画化した『愚行録』。これほど大きなプロジェクトに、この作品が長編デビュー作となる若き才能が抜擢されたことは、事件と言っていいかもしれない。石川慶監督は東北大学物理学科を卒業後、ロマン・ポランスキーらを輩出したポーランド国立映画大学に進学したという、異色の経歴の持ち主だ。

「両親が映画好きで、子どもの頃は留守番の間に『ブリキの太鼓』とかを観させられていました。いつか自分でも映画をつくる側に立ちたいと思っていたんです。興味があった物理学科を選びましたが、映画を学んでみたいと、ヨーロッパの映画を志す若者たちが切磋琢磨する学校に進みました」 

大学の先輩でもあり、昨年亡くなった巨匠、アンジェイ・ワイダ監督が企画の相談に乗ってくれるような〝素晴らしい環境〞の中で演出を学びながら短編映画の製作を中心にキャリアを積み、母国語で長編映画を撮りたいという思いを胸に帰国した。短編を通じて石川監督の才能に惚れ込んだプロデューサーとのタッグにより「現代日本の縮図が描かれている」と言っても過言ではない小説『愚行録』の映画化が実現。大学の友人であるポーランド人の撮影監督が東京でカメラを回し、一家惨殺事件の被害者を知る人々の告白が、観る者を思いがけない場所へと連れて行く作品が完成した。

「日本をそのまま土着的に撮るのではなく、見えているもの以外のなにかが込められている、メタファーになり得る画づくりがしたいと考えていました。知っている街なのに、どこかパラレルワールドに見える。そこから、日本独特の階級社会が浮かび上がってくるのではないか、と。誰も泣かない湿っぽさのない脚本も含めて、僕たちの挑戦が成功しているかどうかを、ぜひ映画館で観て判断してほしいです」 

さまざまなジャンルの短編映画を撮っていた頃「作家性が見えないと言われることがコンプレックスだった」と語る。けれどもいま、その思いにも変化が訪れている。

「これはスタートであり、いままでの集大成。言葉では伝えられない自分の癖や好み、こだわりが詰まった作品になりました。これから先の願いは、ていねいに映画を撮っていくこと。その瞬間の最高傑作だという意気込みで映画を残していきたいです」

works

ミステリー小説を妻夫木聡主演で映画化した『愚行録』

短編作品『Dear World』(2008)。過去、SFから人間ドラマまで、これまでに幅広いジャンルの短編映画を手がけてきた。

※Pen本誌より転載
見えるもの以外の何かを、 画づくりに込めたい。
モノトーンの絵から、 温もりが伝わってくる。

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アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
小池髙弘・文
text by Takahiro Koike

モノトーンの絵から、
温もりが伝わってくる。

平松 麻 Asa Hiramatsu
画家
1982年、東京都生まれ。大学卒業後、設計事務所で空間デザインを学ぶ。その後、銀座のギャラリーに勤め、2012年より本格的に制作を始める。美術の枠にとらわれない自由な発想で、絵画の新たな世界を追求している。寺田美術(東京・青山)にてこの夏、新作展を開催予定。

平松麻が本格的に筆をとったのは5年前。設計事務所や銀座のギャラリーで古美術や現代作家の作品に触れながら感性を磨き、じっくりと熟成させながら描いた世界は独特だ。「立体的に絵具を積層させ、乾いたらペーパーで研磨し、ミリ単位で細かな凹凸をつくっていきます。絵は平面であると同時に立体でもあると思っていて、自分が絵と過ごした時間と、その時々の気持ちの積層なんです」 

白いカンヴァスではなく、床材やベニヤ板の木っ端に描く。いまは額装しないことの方が多い。「絵は正面からだけでなく、横から見るのも絵具がこぼれた様子が見えて私にとっては見どころのひとつです。額装すると空間との境界線が生まれて、厚みや凹凸が見られなくなる。空間に馴染んで暮らしの中に絵が溶け込むのが、いまの私にとっては豊かなこと」 

キュレーターを志した学生の頃は、手当り次第に展覧会へ出かけ美術と対峙した。気に入った作品の前で、その理由が浮かぶまで、何時間でも立ち続け、答えを探してきた。「美術に興味をもち始めたきっかけは、子どもの頃のお膳の準備でした。母が集めた食器の中から、料理に合わせて器を選び、並べる仕事を毎日任されました。その中にあった漆器の表面が経年変化で変わっていく。その漆の肌に憧れて絵を描いています」

絵具を厚く塗り重ね、下地をやすりで砥ぎ出す描き方のベースにあるのは、和歌山の伝統工芸、根ねごろ来塗りだ。「根来塗りは下地に黒漆を、その上に朱漆を塗る。使えば使うほど朱色が透けて、下の黒色がにじんで出てきます。お椀の使い方ひとつで透け方やにじみが美しく変化すると、愛着も増していくんです。自分の感覚で自由に、経年変化を絵具で再現してみたい」 

感情を一気に叩きつけるのではなく、冷静に時間をかけて描かれる作品は、モノトーンだが、なぜか温かみがある。画家の温もりが絵から伝わる。「油絵はゆっくりと固まるので、積層した時に絵具と一緒に自分自身が埋もれるように気持ちも少しずつ固まっていく。ネットリとした泥の中を歩くような泥臭い感じがいまの私には合っているのかな」

神秘的で大胆さを備えた素朴で温かな作品は、観る者の純粋な心をわしづかみにする。

works

最新作『轍』(わだち)。木板に幾重にも絵具を塗り重ね、やすりで研磨したなめらかな絵肌が印象深い。

幼少時から平松自身が好んだ雲をモチーフにした『皿の上の黒煙』(2016年)。上部に見える木肌から画材が床板の木っ端であることがわかる。

※Pen本誌より転載
モノトーンの絵から、 温もりが伝わってくる。
モノトーンの絵から、 温もりが伝わってくる。