彼女の手から鍵をとって
玄関の扉を静かに開けた。
キスをしながら雪崩込むように
部屋に入った。
悪いって自覚はあるねんけど
アルコールで頭が少し鈍ってるし
好感を抱いている彼女からの
思わぬ一声がぶっ刺さって、
理性と冷静さを放棄している。
なんて、言い訳してんねん!
早く彼女を手に入れたくて
性急になってんのは
紛れもない俺自身の意思。
「……んっ」
強く抱きしめて背筋に指を
這わしたら、彼女がぴくりと
身体を震わせて、吐息と
色気のある微声を上げる。
堪らないと目を細めて、
服のボタンに手をかけ.........
そこでふと、あることに気づく。
……ヤバい。ゴムあれへん!
彼女が持っている可能性も
あるかもしれんけど、
毎週金曜日1人で飲んでいる
って言うていたんで少なくとも
『Stax』に通いだしてからの
3〜4ヶ月は彼氏なしと思う。
ゴムは男側が用意するもんやし
彼女って遊び慣れてへんと思うから
やっぱりないんとちゃう?
……それに、勢いでエチするより
一旦冷静になって明確な同意の上で
エチした方が今後の関係を
思うといいに決まっている。
ここまでの逡巡、躊躇い
グズグズ時間は2秒ほど。
最後に優しく唇を重ねて
キスを終わらせ、
「シャワー浴びたい」
と切り出した。
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俺がシャワー浴びて終わったら
彼女はソファにちょこんと
座って待っていた。
「シャワーありがと」
「うん」
小さく頷いて、彼女も
バスタオルと着替えを
持って立ち上がる。
「……あたしも浴びてくる」
俺の勢いに流されたんじゃなくって
彼女の意思で乗っているのだとわかり、
少しほっとする。
髪を拭いて、ザックリ服を着て。
鍵を拝借し、足早に部屋を出る。
目指すはすぐ近くにあったコンビニ。
往復しても5分かかれへんから
彼女が風呂から上がるまでには
何事もなかったように戻れる。
潔くゴム1箱だけを買って
彼女の部屋に戻り、
中身をいくつかポケットに
突っ込んでおいた。
……10分ほど経って、
俺と同じく髪も洗った
彼女がシャワーして出てくる。
手招きするとおとなしく
こちらへやってきて、
どこか所在なさげに視線を
彷徨わせてんのが可愛い。
抱き寄せて軽くキスをすると、
身体から少し力が抜ける
自然で素直なところもぐっときた。
「髪、乾かさんと.......」
濡れた髪を一筋すくったら
今の俺と同じ匂いの筈やのに
より甘く感じる香りが漂う。
それだけでも気持ちが湧き上がって
“ガキやん”って内心で自嘲する。
心を落ち着ける儀式のように、
丁寧にそっと彼女の髪を乾かして、
少しクールダウン。
「こんな感じでええん」
「ありがとう」
少しの沈黙。こちらに背を向けた
ままの彼女の名前を呼んでみる。
「……工藤さん」
「はい」
少し緊張してんのか返ってきたんは
敬語で、さっきはあんなことを
言って俺を引き止めたくせに、
と口元が緩んだ。
「名前は?」
「……ゆみこ」
ゆみこ。工藤ゆみこ。
「どんな字?」
「由緒ある美しい子」
「由美子か」
ゆっくり名前を呼んで、
後ろから彼女を抱き寄せる。
髪をそっと払って首筋をあらわにし、
うなじや肩口へキスを落とすと、
腕の中の身体が小さく震えた。
「こっち向いて」
数秒固まった彼女やけど
ゆっくりとこちらを向く。
一瞬目を合わせたら落ち着かん
様子ですぐに逸らされて、
小さく笑った俺は、彼女にキスした。
角度を変えつつ軽いキスを繰り返し、
徐々に深く、絡ませて侵食していく。
「……っ、んっ……」
鼻にかかった微かな声が、
火種となって本能が燃える。
身体ごと振り返った由美子が
俺の頬に手を添えるから
口づけは食らいつくような
激しいものになった。
「たかひろ、さん……っ」
「タカヒロ....」
キスの余韻か、少し舌足らずに
言う由美子はめっちゃ可愛い。
感じて来て口の端に軽くキス。
「掴まって」と告げて彼女を
抱きかかえる。
「え、わっ!」
驚いて首元に腕を回し、
体勢を安定させる由美子。
慌てる様子に少し笑ってから、
奥の寝室へ向かい、ベッドに
そっと身体を横たえる。
リビングの電気を消して
薄いレースのカーテン越しに
差し込む淡い月光が、
室内をぼんやり照らしていた。

