「おけー!タカヒロとナオは
一旦上がろうか?」
夜になって雅也から声がかかり、
俺とナオは揃って立ち上がった。
「お疲れ」
「お疲れ〜」
「明日も朝からやんなぁ!」
「そやで!」
「うん、じゃあ!」
まだブースの中にいる隼には
手をあげて、お疲れサイン。
スタジオを出ると、外は冷たい風が
吹いていて寒いけれど、
ずっと缶詰状態やったんで
外の新鮮な空気が癒やしみたいやった。
「タカヒロ!久々に行こうか!」
「ええな」
俺たちが飲みに行く所は
『Bar Stax』って所。
遠い親戚がマスターをしてて
酒が揃っていて、居心地がいい。
早速タクシーを拾って
お目当ての場所へと向かった。
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2階にあるドアを開けると、
軽やかなドアベルの音が鳴る。
カウンターにいたマスターが
俺たちの姿を見て微笑んだ。
「お久しぶり〜」
同じように挨拶を返して
マスターに視線で促されて
カウンター席に座る。
時刻は23時を少し回ってて
店内は人が少なめで落ち着いていた。
カウンター席には他に、
仕事帰りのサラリーマン?3人と、
初老の男性――それから、
ナオの席を1つあけて、
若い女性の姿がある。
年齢は20代半ばくらいやな。
緩いウェーブのかかった長い髪を
耳にかけていて、耳には小さな
ピアスが特徴的やった。
ええ雰囲気をした、綺麗な人。
「工藤さん、次いく?」
マスターにオーダーを聞かれて
彼女は、少し考えたあとに小さく
微笑んで「マティーニお願い」
マティーニ????
…通称、「カクテルの王様」。
若い女性が........
「おっと、気合を入れるわ!」
シャキッと肩を竦めたマスターは、
滑らかな手付きで作りはじめた。
それ眺めながら、彼女は
残っていた酒を綺麗に飲み干し、
ナオが「おお」と小さく声を上げる。
「おい」
軽くナオを小突いてんけど
笑うだけで微塵も響いてへん。
「…………」
「…………」
ナオの声に反応して彼女がこちらへ
視線を向けたんで俺とナオそして
彼女の3人で顔を見合わせる格好
数秒の沈黙が流れた。
「どうも、お一人様」
ナオが挨拶をしたら
「はい、そうです」
と落ち着いた声が返ってくる。
……俺はともかく、ギターで派手めな
ナオを見ても特に反応がないんやから
『ぼんくら〜ズ』
のことは知らない感じやな。
曲は耳にしたことはあっても、
顔までは知らへんのやな。
どっちにせよ、今日は久々に
ゆっくり飲みたかったので
好都合だった。

