「あれって寝ぼけてやんやな!」
「……そう、みたいかなぁ」
……これってアタシの方が
罪深い気がしてきた。
タカヒロは「付き合って」とは
言ってへんけど、ちゃんと好意を
言葉にしてくれてた。
アタシは寝ぼけつつ彼と同じ気持ちを
返したのかどうかも、その時の
記憶は綺麗サッパリなし。
挙げ句、彼の言葉が紛らわしく思って
勘違いを正当化して連絡を無視
しまくっていたわけで、
マジで最悪な振る舞いやった。
「……ごめんなさい」
「いや……言うたタイミングも
悪かった。ごめん」
「ううん……アタシがアカン」
タカヒロの立場になって考えたら
怒れへんのが不思議なくらいの
アタシのやらかし具合やん。
申し訳なくてコクリとうなずいたら
こちらへ伸びてきた彼の両手が
頬に添えられ、顔を持ち上げた。
「由美子」
「はい」
「もう、変にすれ違うんは嫌やねん。
ここで、はっきりさせとこ!」
「……うん」
頬に添えられていた手が下へと
降りていってアタシの両手を
タカヒロの両手がぎゅっと
包み込むように握りしめてくれる。
大きな手のひらから伝わってくる、
あったかい体温が心地いい。
「俺、由美子ことが好きやねん」
「…………」
「だから、真剣に付き合うから」
真っ直ぐな眼差しと、
それに負けへんストレートな言葉。
鼓動が高鳴って、言い様のない
幸福感に包まれていく。
「……由美子は」
「アタシは……」
静かに息を吸って、大きく吐いて。
切れ長で形の良い彼の目を、
真っ直ぐに見つめる。
「タカヒロが好き。真剣に付き合うん
やったら滅茶苦茶....嬉しい」
言い終えるなり、照れくさくなって
顔を逸らしてしまった。
「由美子」
低くて甘さのある大好きな彼の声に
呼ばれたら吸い寄せられるように
そちらを向いてしまう。
「こっち来て」
腕を軽く広げられて、
ソファの上を移動する。
二人の距離を詰めるとすぐに
抱きしめられて、アタシの身体は
すっぽり彼の腕の中におさまった。
久しぶりのぬくもりにほっとして
身体から全身の力を抜きながら、
彼の腰のあたりへ緩く腕を回す。
アタシの髪を優しく撫でてくれ
こめかみに軽く頬を寄せた。
「若干、聞きたない気もするねんけど」
「うん?」
「俺と付き合ってないって思ててん
やったら俺のこと、なんや思とったん?」
「…………」
そこツッコむか〜。ちょっと痛い。
でも、これ以上会話不足で
誤解やら、すれ違いが発生すんのは
避けたいんで腹を括ることにする。
「……なるべく怒らんといてな!」
「うん、怒れへんから」
「……めちゃくちゃ都合のええ
セフレって思われてんのかと!」
言い切った瞬間
タカヒロが軽く吹き出した。
「なんやそれ!」
「いや、でもな!遊んでそうな
感じはなかってんけどモテそうやん!
こっちは一般人やし会ったその日
やったからワンナイトと思っててん。
その日にエッチしたから……
逆に何でタカヒロが本気で好きになって
くれたんかが分かれへん」
「んん……なんかその辺も
色々ズレてそうやなぁ。
1つずつ答え合わせしよか」
「はい」
抱擁を解かれて、少し緩くなった
お茶を手に、近い距離で向かい合う。
「まず、俺はそんなにモテへんし。
売れ始めてからは、声掛けられる事は
ちょっと増えてんけどな。
そういうんはモテてるのとチャウし
音楽関係の仕事してるから言うて
全員が全員遊び人でもない。
分かってくれた?ここまでOK?」
「オケ」
……正直、タカヒロ気付いてへんだけ。
普通にモテてるとは思うわ。
彼がモテてへんって思ってるんやったら
それだけライバルが少なくてええし。
一旦そっとしておく。
「それから、初めて会った日のことな。
これは、俺が聞きたい。
この間言ってくれたことも含めて」
「……うん」
改めて話すとなると、かなり恥ずかしい。
大きく一口お茶を飲んから
タカヒロから少し視線を外し、口を開いた。
「直球に言うたら、かなりタイプでした」
「……顔が?」
「顔もやけど全部。最初はクールやなぁ
って思ってんけど笑った時に
雰囲気が柔らかくなる感じとか
意外と天然で........ごめん!
ちょっと可愛くて面白いし
めちゃタイプって思って」
「…………」
「飲んでる時から、また会えたら
ええのにって思ってたんやんか!
それで……送ってもらった時に、
ちょっと欲が出て。このままバイバイは
嫌やなぁ、まだ一緒にいたいのにって
思って、つい。……あー、......待って、
恥ずかしいこれ」
「…………」
両手で顔を覆ってソファの
隅っこに倒れ込む。
タカヒロの顔がまともに見られへん!
顔を覆ったままモゴモゴと続けた。
「あとは、この間、電話で言った通り。
金曜は1人飲むが多いけど、
ただ美味しく飲んでるだけやし。
あんなことしたんはタカヒロが初めて。
……それくらい、タカヒロに惹かれてた」
「…………」
「以上、です……」
指の隙間をあけて、沈黙している
彼の様子を片目で見てみる。
彼もいつの間にかマグカップを
テーブルに戻して、目元を
片手で覆っていた。
「あの……何か言うて欲しいねんけど」
「……ヤバい」
「ごめん、なんか初っ端から重くて……」
「そうじゃなくて。……ドキってきた」
落ち着かへん様子で胸元をさすってる。
手の影から見える少し色白の頬は、
ほんのり赤みを帯びてて
照れ臭い様子も感じ取れた。
「あー……マジでヤバいわ!
由美子、中毒性が半端じゃない」
おもむろに立ち上がったタカヒロは、
アタシのすぐそばに腰を下ろして、
自然と距離を詰めてきた。
「顔、見せて」
「無理やん」
「なんでや」
手首をそっと掴まれて、優しいけれど
強い力で顔から離される。
ポッと赤くなってる頬を見つめた
タカヒロは優しく笑みを浮かべた。