久しぶりの声 | ココ

ココ

筆文字アート作家として
歩み始めました。

感性を育みながら
言葉を必要とする方と
寄り添っていきたい。


テーマ:


『今日明日でだいぶ落ち着くな』

という先日の部長の言葉通り、

サイトのリニューアル周りの

業務は木曜までに一段落ついて、

金曜には少しゆとりが

できるほどになった。


この2週間みっちり働き詰め

だったんで久々の平穏だ。


それは嬉しいねんけど仕事に

集中することで意識の外へ

無理やり追いやっていたタカヒロの

一件について、ふと思い出す時間が

増えてしまったんは辛いところ。


でも、あれからもう1週間経つ!


いい加減ちゃんと現実と向き合って、

タカヒロとの気持ちを終わらせないと。


――そうしてるうちに

週明け分の先取り仕事も

終わってしまい、

時刻は21時過ぎ。


ホンマやったらもっと

働いときたい

所やねんけどなぁ......


過剰な残業してたら部長の

管理不行き届きになるし、

今日は早めに帰って週末

ゆっくり休むようにと

念を押されている。


半ば無意識に溜息を吐き、

PCをシャットダウン。


花園さんは一足先に帰り、

横山さんは取材への同行のため

午後の外出後直帰になった。

同じ島には誰も残ってへん。


離れたエリアに数人いるけれど、

挨拶するには遠いんで軽く会釈

だけしてオフィスを出た。


……このあと、どうしょっかなぁ?


この数ヶ月、金曜の夜はいつものバー

『Bar Stax』行くんがルーティンの

ようになっていた。


しかし、しばらくは行かれへんかなぁ!

『ぼんくら〜ズ』のメンバーに遭遇

してしまう可能性があるなぁ。


マスターはタカヒロの親戚だ。

気まずいにも程がありすぎて。


でも一方で、先週から2週間、

仕事を頑張ってんから久しぶりに

思い切り飲んでしまいたい気持ち。


新しいお店を開拓するか……

とも考えるけれど、この精神状態で

合えへん雰囲気の店に当たったらって

考えると何や辛いもんがある。


……宅飲みがええかな?


そう決めて24時まで営業している

スーパーに立ち寄ってお酒や

アテになるもんを買って出た。


「……重」


後先考えずにあれこれ買いすぎて

マイバックの手が千切れそうだ。


いつもなら12分ほどで帰れる

マンションまでの道のりが、

やたらと遠く思える。


途中で音を上げたアタシは誰もいない

ベンチに荷物を置いて腰掛けた。


明日は何をしようか?

天気が良くて暖かかったら

花園さんとかき氷を食べに

行くのもええ感じやわ。


天気予報のアプリを開いて見たら

明日は晴れで最高気温は15度前後

という予報で文句なしの外出日和だ

……って思っていた時だった。


「……!」


スマホのLINEのピコって言う音。

開いて見ると驚きに目を見開いた。

音声通知に表示されている

名前は“nao”――

なんとナオさんやん!


「えっ」


思わず小さな声が漏れる。


……ナオさんがなんの用やろか?


連絡先を交換してから一度も

やりとりをしてへんしおまけに

タカヒロとの関係もあんな形で

切れてしまった後やのにいきなりの

電話で困惑してしまう。


どうしようかって迷っている間も

一向に切れる気配がないんで

恐る恐る応答ボタンをタップ。


「……もしもし?」


『よかった!!! 

生きてた!!!!!』


「うわっ、うるさ……」


第一声からボリューム全開の声に

、耳がキーンとなって思わず

スマホを遠ざける。


大声が止んだことを確認して

そーっと耳元へスマホを戻すと、

『もしもーし! 聞こえてるー? 

おーい!?』と、声が大きくなって

いくんで、慌てて「聞こえてる』

と返した。


また叫ばれたら

堪ったもんじゃない。


「あの……“生きてた”ってなんなん?

アタシ殺されそうになってんの?」


『それを聞きたいのはこっち! 

タカヒロとの電話が途中で切れて

1週間既読もついてへんって

今さっき知らされた俺の身になって! 

なんか事件に巻き込まれたんかと

思って心配してんからな!』


「はぁ……」


ナオさんにはなんや中途半端な形で

話が伝わっているみたいやった。


電話は切れたのではなく切った。


タカヒロが『電話するんじゃなかった』

と言うててんもん!


それをどう伝えたらええか

伝えん方がいいのか迷ってたら

電話口がにわかに騒がしくなる。


『おい、何してるん!」


『工藤さんと電話―』


『はぁ!? おい、俺がちゃんと

話すねんから余計なことする

なって言うてるやろ!』


『だってマジ無事か心配やんか!

安否確認したって言うけどなぁ』


『……つーかそれ、

まだ繋がってんのか?』


『うん』


『チッ……』


『うーわ、ガラ悪っ!』


『……おい』


『うわ、ちょっ!』


マイク部分を押さえたんか

ガサゴソと大きな物音がしたあと、

しばらく音声が聞こえなくなる。


……さっきの声、タカヒロには

間違いはないねんけど

記憶にある声より一段も二段も

低くって不機嫌さを何も隠くせへん

声音は、あまりにも馴染みがなかった。


高校時代からの気心知れた間柄やから

ナオさんには、あんな感じなんかな?


『あー、ごめん工藤さん。聞こえる?』


「あ、うん」


タカヒロとのバトルが終わったんか

静かになった電話口からナオさんが

呼びかけてくる。


『今どこ?』


「ベンチに座っている。家の近くの」


『え、これからどっか行く感じ?』


「いや、帰り途中でちょっと

疲れて休んでるだけで」


『ならよかった。

頼むからそこから

一歩も動かんといて!

おらんようになったら

俺が殴られて泣くから』


「はぁ……」


大の大人に“泣くから”という

謎の圧をかけられる謎の状況に、

気の抜けた返事しか出てこうへん。


それより、さっきのタカヒロの

言葉の方が気になった。


『おい、俺がちゃんと話すねんから

余計なことするなって言うたやろ!』


タカヒロ『話す』というのは、

やっぱり、この間の電話の続きのこと!


ここで動くなということは…

もしかして、タカヒロが今から

ここに迎えに来る気なんやろか?






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