待ち伏せ | ココ

ココ

筆文字アート作家として
歩み始めました。

感性を育みながら
言葉を必要とする方と
寄り添っていきたい。


テーマ:

悲しさよりも自己嫌悪が勝って

涙も出ないし悲劇のヒロインにすら

向いてへんって思う。


お風呂から上がり、電源を切った

iPhoneは視界に入らんように電気を消す。


静かで虚しい金曜の夜に、幕が下りた。



----------------



土日は一度もスマホを触っていない。


気分転換で部屋を片付けたり

模様替えをしてみたり。


時折やっぱりスマホが気になるけれど、

『本気になられても」とか言われてたら

メンタル凹むから勇気が湧かへんかった。


今は仕事が忙しいねんから無駄に

心にダメージを負って、

これ以上負担を増やしたくない。


少しは気持ちの整理がついて、迎えた月曜日。


いつもより30分ほど早めに会社に

行って仕事を片付けていると、

しばらくして花園さんが出社。


「おっはようございまーす」


「おはよう」


今日も元気な彼女は、アタシの姿を

見つけると、少し心配するように

様子を探って来た。


「工藤さん、昨日は忙しかったん?」


「え、どうして?」


「既読になってなかったんで

よっぽど忙しいかスマホ壊れたん

かと思ってました。


「…………」


金曜の夜以来、ほとんど触れても

いなかったスマホをバッグから取り出す。


ボタンを長押しすると現れる、

リンゴのロゴマーク。


「……ごめん、電源落としたままやってん」


さすがにこの言い訳は苦しいわな!


軽く花園さんの方を見たら

彼女はあまり気にした様子もなく

「え〜、マジですか!」と笑っている。


「あ、私も映画館行った後とか

うっかりやっちゃうことあります……」


「連絡気づけへんでごめんね」


「いえいえ、気にしやんでください。

急で時期外れな誘いだったし」


起動が終わって開いてみると、

日曜日に『唐突であれなんですが、

かき氷食べに行きませんか?』と

謎の誘いが入っていた。

この寒いのになんで?


「なんでかき氷……?」


「冬でも美味しいかき氷屋さんが

あるって友達に聞いたんです。

夏だとズラっとウエイティングで

大変みたいやしこの時期が

狙い目かなーって。

ついお誘いしちゃいました。

ここなんですけど。


チョコレート研究所 大阪新町店(かき氷研究所)


「おっ、ええねぇ!

今週末とか予定合いそう

やったらまた誘って」


「はーい!」


突拍子もないねんけどいつもと

変わらん元気で明るい花園さんから

元気を分けてもらえた。

週末の逢瀬がなくなっても、

アタシには仕事がある。

そう思えるだけで、

少し前向きになれる。


トーク一覧に戻ってみると、

タカヒロからは5件の連絡。


最後は、日曜昼頃の不在着信。


その前には何を言われてんのか

怖くって開く気にはなれなくて、

未読のままアプリを閉じた。


―仕事が忙しいんで今ばかりは

とてもありがたかった。


お陰で余計なことを考えずに済む。


週明け早々から外部との打ち合わせや

新規記事についての会議、

リニューアル周りでの仕様固めや

通常業務などなど……。


大量の仕事に追われてたら

1日はあっという間に終わっていた。


「お疲れ様です。お先に失礼します」


「お疲れ様です」


22時過ぎ。人がまばらになった

オフィスをあとにして、

冷たい風に身体を震わせながら

駅へと向かう。


月曜だというのに、電車の中には

酔っ払いサラリーマンが結構いてて

週の頭からよく飲んでられるんやな

って半ば感心すら覚えた。


……普段なら大して何も

思うところのない光景に眉を

ひそめる辺り、やっぱり今日は

多少気分が荒れているのかも。


車窓に映る、疲れた顔をした

自分をぼんやり眺めてたら

いつの間にか自宅最寄り駅に到着。


軽く溜息を吐きながら下りて、

いつもの帰り道を辿った。


入居しているマンションは、

住宅地にあって大きな道路に面して

いないため、閑静で住心地がいい。


そこはとても気に入ってんねんけど

……夜になると、帰り道の人通りが

少なくなるから、少し怖いポイント。


一応、街灯が等間隔にあって

真っ暗ではないし、治安もええ

エリアやからそんなに心配は

してへんのは確か。


今日も今日で、人通りの少ない

暗い夜道を進んでいき、

マンションへと足を向けたときだった。


「……工藤由美子さん」


「……!」


突然名前を呼ばれたアタシは

反射的に立ち止まった。


……人がいたの、

全然気ぃつけへんかった。


それも無理はない。


声の主は、街灯の光があまり

届かないマンション入り口付近の

塀にもたれかかっていた。


おまけに、黒いスキニーに

黒いパーカーという

黒づくめの格好で黒髪。


少しぼんやり見てたんやけど

暗闇に同化している彼を遠目で

察知できるはずもない。


……それより、これ、誰?


記憶をたぐってみるけれど、

見覚えのない人やった。


高い身長。ひょろりと細めの、

20代らしき男性。


よく見ると整った顔立ちやけど

威圧感のある鋭い目つきの印象が強すぎる。


じっと見つめられて、

思わず後ずさりした。

「工藤由美子さんですよね」


「…………」


得体のしれない人に、

名前を知られている。


そう認識した途端に湧き上がるのは、

紛れもない恐怖だ。


「あの、俺……」


「ひ、人違い、です」


震える声でなんとか絞り出して、

さらに数歩後ずさりする。


人って、本当に怖いとなかなか

身動きが取れないものなんや!


こんな時でも妙に冷静さを残している

頭でそんなことを思うけども

呑気に考え事をしている場合ではない。


拳で太ももを叩いて喝を入れ、

踵を返してダッシュする。


足がもつれてローヒールの

パンプスが脱げそうになったけども

駆け込んだのは、マンションから

数十メートル先にあるコンビニだ。


「いらっしゃいませ」


夜間帯バイト青年の声に、

こんなに安心感を覚えるなんて。


ホッとした途端、無意識のうちに

詰めていた息を大きく吐き出していた。


走ったことで荒くなった

呼吸を整え、へたり込みそうに

なるのをなんとか堪えて

窓の外の様子を見てみる。


追いかけてこられたら

どないしよ!思っていたけど、

黒づくめの男の姿はどこにもなかった。





AD

ココさんをフォロー

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

SNSアカウント

Ameba人気のブログ