アホなアタシ | ココ

ココ

筆文字アート作家として
歩み始めました。

感性を育みながら
言葉を必要とする方と
寄り添っていきたい。


テーマ:


自分のやったことからして、

そう思われるのも無理はない。


行為中『久しぶり?』って

聞かれた時も、数年ぶりだと

正直に打ち明けんのは恥ずかしい

気がして『ノーコメントで』と

はぐらかしたし。


いや、そのへんは身体の反応で

ある程度察してほしい。って言うか

あの時のリアクションからして、

タカヒロは察してたと思う。



性行為に多少ブランクがあっても

ああいうことを何回かした経験が

ある女やって思われている可能性も

否定できないしなぁ。

――それは嫌やって思った。


「あの、言いたいねんけど!」


iPhoneを持つ手に、少し力がここもった。


電話やから少し勇気を持って、

本音を言える気がした。


緊張で震えそうになる声を

おさえて、一度ぎゅっと唇を噛む。


「あんな事したんは…タカヒロが

初めてやってんもん」


『…………』


「別に、バーに男漁りに行ってる

わけ違うし、そんな柄ちゃうし」


『…………』


「あれは……その、タカヒロが

相手やったんで。タカヒロやなかったら

あんなことしてへんで。……

それだけは、言っておきたくて」


――言った。言うてもうたやんか!


だいぶ尻すぼみになってたけど

意図は伝わったと思う。


「…………」


『…………』


沈黙。長い。心臓がパンクしそう。


手のひらをきつく握りして

どんな反応が返ってくるんか

タカヒロの言葉を待っていると――。


電話口から、『はぁー……』と

深い溜息が聞こえて、身体が強ばる。


『…電話せぇへんかったらよかった』


小さく、しかしはっきりと耳に響く言葉。


剥き出しになった心臓に氷水を

浴びせられたような心地がして、

ズキッと鋭い痛みが走る。


――ああ、また、選択を間違ったんか?


衝撃で何も考えられないほど

呆然としているのに、

頭の片隅からそんな声が響いた。


iPhoneを耳から離して、通話を切る。


先程までとは違う意味で早鐘を

打つ心臓が鬱陶しかった。


再びバックライトが光った。


タカヒロからの着信を告げるけれど

――それを見ながら、電源ボタンを

ぎゅうっと強く長押しして、

スマホの電源を落とした。


重い足を引き摺るようにして

家に帰り、バッグやコートを

床に放ってバスルームへ向かう。


メイクも落とせへんまま頭から

熱めのシャワーを浴びて水音に

包まれるけれど、耳にこびり付いた

先ほどの言葉は消えないまま.....


『…電話せぇへんかったらよかった』


沈黙のあとに.......

ボソッと吐き出された言葉。


ごく小さい声やったから

タカヒロは聞かせるつもりは

なかったんかも知れんけど。


そやけど皮肉なもんで彼の低いけれど

よく通る声は、正確に届いてしまった。


「……アホみたいや!」


本当に、アタシはアホや!


タカヒロは本気で付き合う気は

きっとあれへんやろってわかってんのに

あんなことを言うて挙げ句拒絶されるなんて。


――ううん、本当にアホなんはそこちゃう。


心の奥底で、どこか期待していた。


『本気で好きやから付き合ってほしい』

と正直に気持ちを伝えたら、

タカヒロがそれに応えて

くれるんじゃないかって。


ワンナイトみたいな始まりやった。

継続を望むように積極的な行動を

起こしたのはタカヒロやったし

彼から向けられる眼差しや言葉で、

それなりに想ってもらえてるんやって

アホみたいに自惚れていた。


アタシなんであんな事言うたんやろ?


“本気なん” って伝えて、

どんなリアクションが返ってくると

思ったんがわからない。


わからないというか、考えてへんかった。


ただ、誰にでも誘いを掛けるような

女やと誤解されるんが嫌で、

後先考えず勝手にべらべら喋っただけ。


でも、「そっか。ならよかった」なんて

少し嬉しそうに言ってくれるん

じゃないかって沈黙の間に仄かに

胸を高鳴らせていた。


ほんと、アホで惨めで、消えて

しまいたいくらい。






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