「……あのなぁ、由美子ってその人と
どうなりたいん?」
「どう、って……」
唐突に、真剣な表情で問われて、
アタシは言葉に詰まった。
タカヒロと、どうなりたいんか。
「建前とか置いといて、
本当の気持ちを聞いてる!」
「まぁ..…ちゃんと付き合いたい」
「ほな相手の意図、早めに
確認した方がええと思うわ」
意図、と呟くと、愛海は深く頷く。
「ちゃんと付き合ってんのか?
中途半端やなくってどうなんか?
恋人ごっこみたいなんで満足か?
今後の二人はどうなるんかって
やっぱり最後は、本人に
聞いてみんと分からんやろ?」
「うん……」
彼の意図かぁ?ってため息をついた。
確認。この曖昧な関係性を、
何かしらのちゃんとした名前を
持った関係にしたいんやったら
その一歩を踏み出さんとあかんな。
「ま、離れないで今の関係の
まま変えたくないんやったら
割り切って楽しんだら、ええけどな。
でも本気で好きなら、お別れ覚悟で
早めに話さんと由美子自身の
傷が深くなるだけだと思うわ」
「うん……ほんと、そうやな」
愛海の言葉はきっと、アタシも
心のどっかで認識したかったと思う。
それを改めて親友の口から
真摯に聞かされてから
目を逸していた部分を直視
せざるを得なくなる。
……ちょうどタカヒロとしばらく
会われへんタイミングやったし、
この期に色々考えないと。
そう決心しながら、この話題は
幕を下ろしたのだった。
月曜日。
「おはようございます」
「おはようございまーす」
先週の金曜から日曜にかけての
3日で間で色々あったんで
なんか久しぶりにも思える会社。
一際明るい花園さんの声に微笑み
アタシはいつもより少し遅い
時間になって席についた。
普段はもう10分ほど早く到着
してるけど今日は “ちゃんと朝食” を
食べるって気まぐれを起こして、
家を出たんが遅くなったから。
タカヒロの家にいた2泊3日の間、
かなりきちんとした生活を送ってた。
なんとなくその習慣を続けて
みようかと思ってしまった。
男性に影響を受けるような
タイプじゃなくって、
らしくない自分が居心地悪い。
しかし、きっかけはどうあれ、
朝食を食べるのはええ事……と
内心で言い訳しておく。
「横山さん」
「はーい、なに?」
「今週からライターさんとの
顔合わせ入ってて行きたいねんけど
今日午後のミーティング出られる?」
「大丈夫!」
「了解。ほなスケジュールに入れとくわ」
「うん」
ウェブマガジンの記事を執筆する
ライターは基本的に業務委託のため、
完全にリモートで顔合わせを
全くしない場合もある。
ただ、会社では取材記事なども
多く手掛けてるから重要案件に
携わるのは社内で抱えているライターか
定期的にミーティングを設けている
外部のライター。
横山さんは今後本格的に
ディレクション業務に入って
もらう予定でアタシと同様、
そういった外部ライターとの
顔合わせが必要になって来た。
今後は単独での打ち合わせも
発生するやろうけど、まずは
予めやり取りをしているアタシが
同席した上で、挨拶を
しなあかん状態やった。
……まぁ、今日来訪がある3名は
いずれも穏やかで癖のない人柄。
横山さんやったら特に注意
することもなく進むと思う。
午前中はいつものように、
掲載する記事の監修で
バタバタと過ごし、
午後のミーティングまで
あんまし時間がなかったんで
コンビニで買ってきたおにぎりと
野菜ジュースを会社のデスクで
みんなと食べることにする。
ちょっと行儀が悪いけれど、
その傍らでiPhoneを開くと、
タカヒロからのLINE。
『週末はありがとな』
『ちゃんと飯食えよ』
彼らしい気遣いの言葉に、
自然と頬が緩む。
『こちらこそありがとう』
『今日はちゃんと朝食べたで』
しばらくして既読がつき
ピコンと返信が現れた。
『ちゃんとしたミルクティーを?』
画面の向こうで、ちょっと意地悪に
笑ってる彼がありありと想像できた。
ふっと笑って、
『パンとヨーグルトとサラダ』
『お、ほんとにちゃんとしてた』
『偉い偉い』
まるで小っちゃい子に対する
言葉やったけど彼からだと
思ったら別に嫌じゃない。
そう思うあたり、アタシはだいぶ
タカヒロのことが好きみたいだ。
『タカヒロは何食べた?』
『豪華なロケ弁もらった』
美味しそうな和食のお弁当の
写真が送られてきて
「ロケ弁……?」って頭の中に
なんや知らん疑問がよぎる。
『撮影なんや?』
『うん。ちょろっとドラマ出るから。
あ、これまだ内緒で』
『わかった』
さらっと非公開情報を暴露
しないでほしい。
一瞬ぎょっとしつつ、
安心感を補強すべく一言付け足す。
『そもそも言う人、』居てへんし
『なら安心(笑)』
そんな感じで少しやり取りをして、
休憩に使える時間の終わりが
迫ってきたこともあり
『ごめん、また夜に連絡する』
と送ってiPhoneを仕舞った。
おにぎりと野菜ジュースを
それぞれ最後に食べきって、
歯磨きとメイク直しに立つ。
午後は怒涛のミーティング
5連続で気が重かってんけど、
タカヒロとのやり取りを
挟んだお陰で、なんや知らん
これから頑張れそうな気がした。

