ナオさん相手の駆け引きは骨が
折れそうやと早々に白旗を
上げてんけどもストレートに
もう一度尋ねた。
「タカヒロさんは、何か言うてた?」
「それが、あいつあんまり
教えてくれへんのよ。送って行って
iPhone忘れて来て連絡先代わりに
指輪置いてきた、ってことまでは
聞き出してんけど。あと、まめに
連絡取り合ってるって」
「そう、なんや!」
あっけらかんと言われて、
安堵の息が漏れる。
若干込み入った事情つまり
タカヒロとの情事まで大っぴらに
されてなかってんや。安堵。
「ゴメン!知らんとこであれこれ
話されてんの、嫌やんな!」
「いえ、大丈夫やから」
「あ、ごめんな!工藤さん。
タカヒロが指輪外してんの、
俺らもびっくりして色々
聞いてたりしててん!」
「高校ん時から付けてたやんな!」
「そうそう。俺と組み始めた頃に、
なんやトレードマークあったらええな!
この指輪にするわってなった」
花園さんがあの指輪は
“トレードマーク”って言うてたけど
トレードマークを作ろうと思って
付け始め、ちゃんとそう認識
されてんのが面白いわ。
しかし.....そんな大事なもんを
ホイホイ置いていくなんて。
ノー天気って言うか思い切りが
ええって言うか……なんとも
タカヒロらしい感じはする。
「いや〜、指輪置いて来たって
タカヒロが言うから案外ロマンチストな
とこあんねんなぁって笑ろた!
なんかアレみたいやん。ほらアレ
…シンデレラ!」
「ぶふっ」
最後の一言で吹き出した隼さんは、
顔色こそあまり変化がないけども
案外酔ってんのかも知れへん。
タカヒロもまさかシンデレラ
呼ばわりされてるっては思えへんわな!
……と、アタシはクスッと笑った。
ひとしきり笑ったあと、眼鏡を
浮かせて笑い涙を拭った隼さんは、
こちらへ柔らかい視線を向ける。
「まああれやなぁ!タカヒロは
ちょっと抜けてんねんけど
ええ奴やからな!」
「…………はい」
なんと答えるべきか分かれへんで
無難に相槌を打った。
タカヒロがちょっと抜けてんのは
共通認識なんだなぁ、
なんて少し微笑ましく思った時、
突然肩を組まれて身体が揺れた。
「わっ」
「ていうかなぁ!工藤さんに最初に
声かけたの俺やったやろ?」
「そうだけど……」
「だよな!そやのにタカヒロと
関係を持って俺寂しいわ……」
隼さんが、「あー、また
ウザ絡みモード!」と呟く。
いや、ポテチ食べてないで
助けて欲しいけど....
「ってことで、連絡先教えて」
酔っぱらいのくせして素早く
スマホを取り出したナオさん。
さりげなく距離を詰めてくる。
アタシは少しのけぞった。
「スマホ出すから、
もうちょっと離れて……」
「うんうん」
そう頷くのに、組まれた肩は
ずっとそのまま。
「……隼さん。このナオさんの酒癖、
早いとこ直さんと。そのうち立派な
セクハラオヤジの仲間入りやん!」
ボソッと呟くと、相変わらず
ポテチを食べていた隼さんは、
またしても「ぶふっ!」と
吹き出すように笑った。
「普段はタカヒロに絡んでるから
たぶん大丈夫や思う」
「今日はアタシに絡んでるんで
大丈夫じゃないです……」
「あはは」
いや、『あはは』じゃなくて
助けて欲しいねんけど。
酔っぱらい2人組には期待しない。
早いところ満足して離れてもらおうと、
LINEの登録を互いにし合った。
「はい、追加完了! 」
“知り合いかも?”のところに
新しく表示された“nao”を見せた。
「そう、それそれ」
斜め後ろからの姿だが、
ストリートスナップのような
洒落た写真がアイコンになってんのが
ナオさんらしい。
タップして友達に追加したんで
スマホの出番はおしまい。
バッグの中に放り込んで、
未だに肩を組んでいるナオさんの腕を
剥がしにかかった。
「ふんふ〜ん♪」
しかし、鼻歌を歌いつつゆらゆら
左右に揺れ始めたナオさんは、
完全にご機嫌酔いどれ“絡み酒モード”で
なかなか離れてくれへん。
さっさと酔いつぶれて、花園さん
みたいにスリープモードに
入ってくれへんかなぁ。
「ちょっと、ナオさん!」
「ふ〜ふふふ〜ん♪
「だめだこの人」
「ぶはっ!」
吹き出したのは、言うまでもなく隼さん。
半ば諦めの心地になったアタシは
ゆらゆら揺られながら、
生ハム&チーズに手を伸ばした。
「ぷっ、ふふふ……」
「隼さんもあかんヤン!」
隼さんは酔うと笑い上戸になるのか、
テーブルに突っ伏し小刻みに震えている。
アタシが席についた頃は、
ナオさんをセーブする心強い人って
思とってんけど……ちょっぴり
裏切られた気持ちやわ。
こうなったらアタシも強めのお酒を
入れて愉快な酔っぱらいになろうかと、
メニュー表に手を伸ばしかけた時...…。
「おい」
低い声が響くとともに、
影がさした。
あぁ..........

