Lead question | ココ

ココ

筆文字アート作家として
歩み始めました。

感性を育みながら
言葉を必要とする方と
寄り添っていきたい。


テーマ:

座ったはええねんけど

どうしよう。


ナオさんと飲んでるし醸し出す

雰囲気から同じ業界の人である

には間違いないと思う。


「……はじめまして、

工藤です」


ひとまず挨拶してみたら

彼の唇が笑みの形を描いた。


「どうも、隼(しゅん)です」


「……ああ!」


ナオさんと一緒にいる隼さんといえば、

『ぼんくら〜ズ』のドラマー。


確かにテレビで見てんけど、あの時は

タカヒロとナオさんが出演していた

衝撃であまりちゃんと

顔を見てへんかってん。


思わず目を見開くと、彼は

可笑しそうに軽く吹き出す。


「あはは!やっぱ誰かわかって

へんのやなぁ?」


「すみません、一度テレビで

拝見したんですけど、

雰囲気が違ってて……」


「まぁ気にしやんでいい。

一応変装っぽいことしてるし。

……はい、なに飲むん?」


「ありがとうございます」


一見とっつきにくい雰囲気のある

隼さんだが、意外と気さくな人。


……軽食を挟んでからもう2時間

近く経って小腹が空いてきた。


軽めのおつまみを頼もうかな。


「すみません」


通りかかった店員を呼び止めて、

「自分の分は別会計でオーダー

お願いね」と小声で言うと、

頷きが返ってくる。


「ミモザとあと、生ハムと

チーズバリエで。そして

ブラックペッパー多め」


「かしこまりました」

……うっかりテーブル会計に

まとめなくてよかった。


奢ってもらうことに

なりそうで、さりげなく

別会計に..........


咄嗟に気ぃ付いてナイス!と

思いながらシートに

座り直した.....その時。


「く、くどーさん」


「はい……、ん!」


名前を呼ばれたんで顔を向けた途端、

口の中に何かを入れられる。

それは殻を剥いたピスタチオ。


「おい、ナオ‼︎」


口に入れられたのでビックリしてたら

隼さんがナオさんの頭をパチンと叩く。


「いってぇなぁ!」


「こいつ酔うとウザ絡みすんねん!」


「いえ、大丈夫です。……この前は

あんまし酔ってへんかったし、

てっきり強いんかなぁって。」


「あ〜、空きっ腹にグイグイ

呑んでるもんなぁ。

今日は結構きとるわ!」


そう言いつつ、バーボンが

入ったロックグラスを傾けるナオさん。


隼さんがそれを止めへんから

酔ってんねんけど許容範囲内やろう。


「お待たせしました。ミモザと、

生ハムとチーズの盛り合わせです」


「うっわ〜!めっちゃオシャレ」


生ハムとチーズにブラックペッパーの

パンチの効いた香りと、そして

カルダモンの芳しい香りが拡がる。


ストーンプレートがええ仕事

してんなぁ。



オーダーが揃ったところで、

2人がグラスを手に取った。


「なんや知らんけど、かんぱーい」


「「乾杯」」


ナオさんの陽気な音頭で軽く

グラスを掲げて、鮮やかなオレンジ色の

ミモザを一口飲んで潤す。


シャンパンの細やかな炭酸が

乾いた喉に心地いい。


「それで……ナオさん、

アタシに何か用でもあったん?」


「用って! そんな大してない。

この間楽しかったんで

また一緒に飲もうと思って!」


「そうやったんや……ありがとう」


アタシも2人と喋りながら

飲むのは心から楽しかった。


ナオさんにそう思ってもらえるのは

素直に嬉しい。


しかし──。

あら........!



「それに、タカヒロとのことも

聞きたかってんや」


続けられた言葉に、

一気に血の気が引いた。


そやけどタカヒロはナオさんに

一体どこまで話してんのかな?


人によるとは思うねんけど

高校時代からの女友達は、

セフレの話などもサラッと

こぼすこともあるから。


ただし、相手はもちろんアタシの

知らない人やったから

軽く流して話を聞けてたわ。


男性同士やったらなおさら、

女性関係の絡み話をしそうな

イメージがあるけれど……。



いやでも、タカヒロってあんまり

軽々しくそういう話はしない

タイプだとは思ってんねん。


というか、そう信じたい。


「タカヒロとのことって、どんな……?」


不安を隠せない顔で恐る恐る尋ねたら

ナオさんはニヤっと笑った。


「あれ、由美子ちゃん、“タカヒロ”

って呼ぶようになったんか?」


「……!」


一体何を話してたんかそっちに

意識が向いていて、うっかりしていた。


彼の視線から逃れるようにして、

また一口お酒を含んだ。



「……ナオさん、いつの間に

アタシのこと名前で呼ぶようになったん?」


とりあえず話を逸してみようとしたけど

「いや、タカヒロが“由美子”って

呼んでるからつい」と返ってきて、

むせそうになってきた。


……本当に、タカヒロは何を話した?


もし全部筒抜けだった場合、

逃げるんも嫌やけど開き直れるほどの

胆力もないから、どうしたらええか悩む。


「…………」


無言でナオさんをじっと見てみる。


人当たりのいい笑顔は、うがった見方を

すれば胡散臭くも思えて、

内心どんなことを思ってんのか

読み取るのが難しい。






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