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 年末にまとめる来年度税制改正に向けた議論が、自民党税制調査会で始まった。

 コロナ禍は収束のめどが立たず、生活に苦しむ家計や経営難の企業は少なくない。一方、税制を見ると、昨秋の消費増税に向けて実施された住宅ローン減税の拡充は年末に、自動車税の環境性能割の軽減とエコカー減税は来春に期限を迎える。固定資産税もコロナ前に上昇した地価をもとに算定されれば、来年度から負担増になる。

 住宅や自動車産業は経済への影響が大きい。赤字でも払わねばならない固定資産税は、経営が厳しい企業ほど重荷となる。「担税力が下がる中で、増税に該当する議論は例年以上に慎重にやる」という甘利明党税調会長の方針は、理解できる。

 ただ、税制は社会経済の情勢に応じて不断に見直さねば、副作用をもたらす恐れもある。

 例えば、住宅ローン減税は年末の借入金残高の1%分を所得税などから差し引く仕組みだが、制度ができた1986年に比べ、金利は大幅に低下した。足元では0・3%台の変動金利で貸し出す金融機関もあり、借りれば借りるほど「利ざや」が稼げることになる。

 逆進性のある消費税を増税しつつ、多額のローンを借りられる富裕層に有利な制度を続けるのは、公平性の観点から問題がある。政策効果の検証を求めた会計検査院の指摘を、真摯(しんし)に受け止めねばならない。

 エコカー減税では、走行中に二酸化炭素を出さない電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッド車(HV)の多くやディーゼル車も免税にしている。世界各国がEV普及を急ぐなか、HVなどを過度に優遇しては、国産メーカーの環境技術を「ガラパゴス化」しかねない。

 気になるのは、党税調の議論が、目先の負担の軽減ばかりに集中していることだ。

 コロナ禍を機に、ITを使ってフリーランスとして仕事をしたり、転職や副業をしたりする人が目に付くようになった。一つの企業で働き続ける日本型雇用を軸にする、いまの所得税の考え方は時代に合わなくなっていないか。働き方によって税負担が不公平にならぬよう、見直していく必要がある。

 コロナ禍で顕在化した格差への対応も重要だ。デジタル化が進めば、所得格差はさらに広がりかねない。株式の配当など金融所得への課税を強化し、国際的にみても弱くなっている日本の税制の所得再分配機能を、立て直すことが求められる。

 中長期的な課題への対応も視野に入れたうえで、当面の税制をどう描くのか。政府や与党の税調は熟議を重ねるべきだ。

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