ナーベラルがちょっと勇気を出すだけ   作:モモナベ推進委員会

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2話

 

 

 

 

「……では、アインズ様。いえ、モモンガ様は、為政者としての経験は無く、あくまで組織運営にかかわる一人でしかなかった、と。」

 

「ああ、俺は皆が思っているような大それたものじゃない。俺はただ、皆の意見を聞き、それを集計、調整していただけに過ぎないんだ。皆のリーダーではあったかもしれないけど、頂点なんかじゃ、ない」

 

 

 意を決した俺は、ほとんどの事実をナーベラルに打ち明けた。

 

 それを聞いていたナーベラルは時折目を見開き、時に唖然とし、そして今は真剣な表情で俺を見ていた。

 

 

「ユグドラシルと異なる文字の解読はできておらず、先刻の冒険者登録も自分で書かなくていいことに実は安心していた、と。」

 

「うぐっ……。いや、言い訳はしない。その通りだ。俺には瞬時に文字を理解できるような学や頭があるわけじゃない。小卒……物心ついた時には組織運営の為に働いていたからな」

 

 

 ここも決して嘘をつかない。

 デミウルゴスやアルベドのように、先々を見据えての行動なんて到底できはしない。

 

 ましてや異なる世界の文字の判別など当然できはしない。

 

 

「……かつてモモンガ様は人間であり、過酷な環境下にその身を置かれており、『ユグドラシル』に現身を作ることで娯楽としていた。そして世界の行き来が不可能になった為、そのお姿でいらっしゃる、ということで合っておりますでしょうか……?」

 

「……そうだ。ナザリックに住む者の多くが、人間を嫌う。そんな中、俺が元々人間であったと知れたら。そう思うと、みんなに嫌われるのではないかと、恐ろしかったんだ……」

 

 

 説明は難しかったが、俺がリアルでは人間であることも伝えた。

 言う直前まで、本当に言うべきかどうか迷った。

 

 でも、それを黙っているのは、なんというか、不誠実のような気がした。

 

 

「……このような発言は不敬である、ということは承知しています。もし不快だと思われたのなら即座に、私の首をお刎ねください。」

 

「……どんな言葉だって、受け入れるよ。俺は、それだけのことをした。覚悟は、決めてる。」

 

「でしたら、申し上げさせていただきます。」

 

 

 その表情こそ伺い知れないが、ナーベラルの言葉には迷いが無い。

 失望されただろうか、幻滅されただろうか。

 

 ……もう、ナザリックにはいられないだろうか。

 

 

(後悔は、ない。嫌われても、憎まれても、それは受け入れなきゃ───)

 

 

 

 

 

 

「我々はモモンガ様に、必要とされている、と感じました。……そのことを心から、嬉しく思います。」

 

 

 

 

 

 

「……そんな、バカな。ありえない。幻滅、しただろう。」

 

「いいえ。私は嬉しく思いました。貴方様は真に、私達のことを想ってくださっているのだと。」

 

 

 嘘だ、そんなわけがない

 

 

「俺のことを、知っただろッ!?俺はッ!どうしようもなく嘘つきの卑怯者なんだぞッ!?」

 

「貴方様はッ!私達を傷つけない為にそうされたのですッ!!それは我等を慮り、愛してくださったが故!!」

 

「違うッ!!それはただの自己保身だッ!!俺はただ、皆に嫌われるのが怖くてッ!それに、俺は人間だったんだぞッ!?お前の嫌いな、大ッ嫌いな虫以下の存在だったんだぞ!?どうしてそれなのにそのようなことが言えるッ!?」

 

 

 やめてくれ、俺は既に忠誠を誓われるような存在じゃない

 

 

「かつて人であったからなんだと言うのでしょうか!今のモモンガ様は死をも統べる支配者!敬意を払わぬ理由とはなりません!!」

 

「ならどうして!?そこまでして俺を信じられるんだッ!?。俺は、どうしようもない奴なんだぞ……!?誰にも本音で語ることもできない臆病者なんだぞ……!?」

 

「……モモンガ様、お手を、お借りします。不愉快だと思われましたら、お手払いを」

 

 

  彼女はそっと立ち上がり、俺のすぐ傍に跪き───

 

 

 

 

そっと、その手を俺の手に重ねた。

 

 

 

 

 

 

「……私に、話して下さったではありませんか。」

 

「───」

 

 

 

 

 

「私は、モモンガ様の本音を、嬉しく思いました。」

 

「それでは、いけませんか……?」

 

 

 

 

 

 

「……嘘だ。お前も思っているんだろう?こんなものが主では、ナザリックは、と……」

 

「支配の魔法をかけられたとしても。この想いは変わりません。この忠誠を疑われるならば、それは私の献身の不足。貴方様が気に病むことでは決してありません。」

 

「違う、違うんだ。俺が、俺が悪いんだ。仲間を、家族を。信じきれない俺が……」

 

「……申し訳ありません。この態度が、恭しく傅かれることが苦悩の一助となっているのに。貴方様への態度を、崩すことができません。……これほどまでに、至高の御方々に創造されしこの身を、モモンガ様の前で態度を崩せないこの身を、恨めしいと思ったことはありません。」

 

 

 彼女はまるで、自分自身に問題があるような言い方をする。

 全て俺が悪いのに、俺が不甲斐ないせいなのに。

 

 そう考えていると、心が急に静まり返ったような感覚になる。

 精神抑制が働いたのか、忌々しい……

 

 

「……いいんだ。俺もどこか、まだ頭の中が整理できていないからな。また後で、振り返るとするさ。……ナーベラル、こうしてお前に話せただけよかったんだ。」

 

「……しかし、どうしても腑に落ちない点があります。」

 

「なっ、なんだ?何かおかしなところがあったか?」

 

 

 ここまで俺の境遇を話し続け、一息入れたところでナーベラルが問う。

 

 

「モモンガ様は自らを「臆病」と評されました。同時に、ナザリックの者達を失うことを強く嫌っておられます。……外部には、どのような脅威があるのかわからないのだから、と。」

 

「……す、すまん。質問の意図が分からない。何が言いたいんだ?」

 

 

 言っていることは分かるんだが、やはり要領を得ない。

 一体何がナーベラルの疑問点となったのだろうか。

 

 

「も、申し訳ありませんっ!……その、御方を臆病とするなら、自らを守る手段を取るなら尚のこと、外に出るという手段は取らないのでは、と。」

 

「……?……ああ!そういうことか!」

 

 

 合点がいった。要するに『未知であることの危険性は分かってるのに、なんで外に出るのか?』ということだろう。

 

 

「いやすまんすまん、それなら理由は簡単だ。大した理由じゃないさ。」

 

「な、何故でしょうか。」

 

「俺はさ、ナーベラル。冒険がしたかったんだ。」

 

「冒険、ですか……?」

 

「そうだ。未知の領域を探索して、凄いアイテムを手に入れて、強い敵と戦って。……それを、また、誰かとしたかったんだ。」

 

 

 まだ皆がユグドラシルにいた頃、楽しかった日々の思い出は未だに色褪せてはいない。

 

 皆でもう一度……というのは難しいかもしれない。

 

 けど、俺はあの時楽しかったワクワクをもう一度、確かめたいんだ。

 

 

「…………そう、でしたか」

 

「俺はお前達の主失格だ。お前達のことを置いて、楽しく遊びたかったんだよ。」

 

「そのようなことは決してございませんッ!モモンガ様のお気持ちを優先せず、何がシモベでしょうか!」

 

「ありがとう。でも、理由はそれだけじゃない。」

 

 

 

「……仲間を、この足で探しに行きたかったんだ。」

 

「……ッ!」

 

「分かってる。この世界にギルメンはいない。……いや、いないと決まった訳じゃないが。だが少なくともナザリックにはいなかった。」

 

「俺はそれを、探したいんだ。……俺の手で、足で。やるべきだと思ったんだ。」

 

「……モモンガ様の御心のままに。我等はただ、付き従うのみです。」

 

「ありがとう。……できたらもう少し、態度を緩めてくれると嬉しいんだがな」

 

 

 

いやしかし、随分話した。

いくら眠らず疲れずとはいえ、話し続けるのは精神的にクるものがある。

 

 

「さて、長話に付き合わせて悪かったな、ナーベ」

 

「いえ!お役に立てたのなら本望でございます!」

 

「はは、ありがとう。さて、俺は周辺の地理を確認してくる。定時連絡を頼む」

 

「かしこまりました。……お気をつけて」

 

「ああ」

 

 

 正直なところ、ナーベラルになら話してもそこまで大事にはならないだろうという下心もある。

 それでも、きっとこの冒険はただ外を眺めるより有意義なものになる。

 そんな確信が、今の俺にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガ様がお話になられたことは、ナザリックにいるものは誰も知らない。

 私と、モモンガ様だけが唯一知っているユグドラシルの真実。

 

 そして、それを共有しているという状況に、誠に不謹慎ながらも胸が高鳴る感情を覚えてしまう。

 

 

「……アインズ様はアルベド様を「あれほど信頼できるものはいない」とおっしゃっていました」

 

「くふー!よーしいい子よナーベラル。その調子で私をアピールするのよ!これはナザリック守護者としての命令よ!」

 

 

 モモンガ様の命を受け、現在は守護者統括であるアルベド様に定期報告をしている。

 

 大きな歓喜の声を少々煩わしく思いながらも、細心の注意を払い、先に話した内容に関しては一切触れず、本日の行動のみを伝える。

 

 

「しかし、どうしてあなた達は力を貸してくれるのかしら?欲しい物でもあるの?」

 

「……いいえ、私はアルベド様こそがアインズ様にお似合いと思っておりますので。」

 

「くふー!素晴らしいわ!あなたこそナザリックの大局が見える者、感心してしまうわ。」

 

 

一瞬、返答に間が空いてしまい冷や汗が出るが、どうやらアルベド様は気づかなかったようだ。

 

 その後プレアデス内の派閥なども聞かれ、最後にモモンガ様の近況報告を済ませ、伝言の魔法を切る。

 

 

 

 ……モモンガ様が、かつて人間であったことに驚かなかったわけではない。

 

 しかし、至高の御方が私に本音を打ち明け、頼ってくださったという喜びに勝るものはない。

 私が今成すべきなのは、冒険者となり、モモンガ様の無柳を慰めるために最善を尽くすこと。

 

 全てはモモンガ様の孤独を癒やす、その一助となること。

 

 

 

 

 

「……ええ、嘘は言ってません」

 

「アインズ様に相応しいのは貴女です。そこは認めます。命令にも従いましょう」

 

「だからこそアルベド様。貴方といえど……」

 

()()()()()の御心だけは、譲れません」

 

 

 





 元々アイデアだけあった話なので、もう一話投稿したらそこで打ち止めとなります。

 読んでいただき本当にありがとうございます。

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