このような所得と消費のデカップリングは、直近の所得上昇が一時的で、将来は低下するという予想が支配的な場合に生じる。前出の「賃金構造基本調査」では月々の給与よりも賞与の伸びが大きいことがわかる。その結果、勤労者にとって現在の収入増が一過性なのではないかという不安は払拭されていないようだ。
2017年以降、家計収入そのものは上昇トレンドに転じた。しかし、それが将来にわたっての所得上昇予想に結びつく前に、今次のコロナショックへと日本経済は向かうことになってしまった。
このようなアベノミクス、なかでも大胆な金融政策と雇用に関する振り返りから、次の政権に求められることはなんだろうか。コロナショックそのものに対して求められる政策は稿を改めるとして、ここではコロナ後の政策を中心に考えてみたい。
予想に働きかける金融政策は資産価格を通じて雇用拡大の力を持った。コロナショックにより失われた雇用を取り戻すプロセスにおいても、民間の低金利の長期化予想をより確固たるものにする政府・日本銀行の情報発信が必要である。そして、雇用拡大が賃金の上昇に結びつくには時間がかかる。さらに、それが賃金上昇によるものであれ雇用機会の増加によるものであれ、収入の増加が消費に結びつくには日本経済の未来に対する明るい予想が必要だ。
アベノミクスは企業や投資家の予想を転換させることで資産価格の上昇と雇用の拡大をもたらし、収入増加の入り口まで到達した。しかし、家計の将来への予想・期待を好転させて消費を刺激するところまでは達成できなかった。コロナショックを超えて、次代の政権にはアベノミクスがなしえなかった国民の未来予想の転換を果たすべく、新たな政策、新たなビジョンの提示に邁進していただきたい。