指輪の意味

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メインブログから
転記してるんで
投稿の前後があったら
ごめんなさい





気になるんは、“継続的に会う”ことの

意図がなんやって事なんやけど。


このまま固まっている

わけにもいかへんし洗面所の方へと、

軽くタカヒロの背中を押す。


「洗ったら……とりあえず、

ソファで座って待っとって」


「わかった」


アタシはキッチンで手を洗って、

ケトルを火にかける。


手洗いを終えたタカヒロが

ソファに座るのをちらっと見て、

キッチンの窓へ視線を向けた。


室内の明かりを反射した窓は、

鏡のようにアタシの姿を映し出す。


……目は二重やねんけど

ぱっちり可愛い系じゃない。


鼻も唇もどっちかって言えば

シャープで、綺麗系といえば

聞こえはええけども

ともすれば鋭い雰囲気に見える。


それを誤魔化すように、

アッシュ系のロングヘアは

いつも緩く巻いているが、

効果の程はどうかなぁ。


……会社がある場所は

お洒落エリアとされる場所。


見た目や服装はそれなりに

気を使っているつもり。


けど中之島辺りでたまに

撮影しているモデルみたいな

抜群のスタイルでもないし

振り返るほどの美しさもない。


せいぜい、普通の割と

綺麗な人レベル。(恥ずかしい)


おまけに26歳にもなれば、

BARで他愛ないお喋りをして

数時間で知らんかったとは言え

(人気バンドのメンバーに本命として

見初められた!)って思えるほど、

夢見がちでもないもん。


……キープか、所詮セフレって

感じなんかな!


都合のいい女か..........

ちょっと複雑やなぁ。


でも、しばらく恋愛から

遠ざかっていて「あ、いいな」

という感覚すら忘れかけていたから。


数年ぶりに心のド真ん中を

真っ直ぐに撃ち抜いてくるような

人に相手にされているだけでも、

かなりのラッキーやって

喜ばな!しゃあないやん。


今は仕事が楽しいねん。

付き合う云々が面倒な気もする……

そんな風に思っていたところだし。


考えてみたら、アタシに

とっても悪くない話やって思う。


……強火のファンやとか週刊誌の

記者たちに目を付られたら

正直ちょっと怖いっとは思ってる。


でも、人気急上昇中の大事な

時期ちゃうんかな?


だとしたら

事務所がそのあたりはうまく

カバーしていそうな気もする。


芸能界の事情なんて、

詳しくは知れへんけど。


ぼんやりと考えてたら

すっかりお湯が沸いていた。


寒いし緑茶でいいかなと

玉露を選んで少し冷ましたお湯で

2人分を淹れて。


湯呑はないからマグカップに注いで、

ローテーブルへ持っていく。


「はい。どうぞ」


「ありがと」


マグカップを受け取ったタカヒロは

暖をとるように両手を被せて

早速一口飲んでほっと息をついた。


アタシはカーペットの上に座って、

同じくカップに口をつけようと

しててんけど.........


「そこ、寒いやん。由美子んち

やねんから、ちゃんとソファ座って」


3人掛けソファの座面を叩いて示され、

すぐに立ち上がることになった。


並んで座ったとしても落ち着かへん。


うろうろと視線が彷徨って

ローテーブル上に置いておいた

指輪が目に留まる。



「あ、あんな!これ返さんと。

カーペットの上に落ちててん」


指輪を渡そうとしたら

タカヒロは右手を差し出した。


……右手の甲を上にして、

まるで“はめて”って言うかのように。


「…………」


指輪を持ったまま固まる。


タカヒロは少し鋭い目元をわずかに

緩めて、こちらをじっと見る。


「中指な」


……ちゃうねん!知ってんねん!

どの指にはめるんか分からんで

固まってんのとちゃうねん。


なんや気が抜けてもうてアタシは

大人しく、彼の意向に沿うことにした。



途中、第二関節のところで突っかった。

左手で中指をそっと支えながら

輪を通していく。


……人に指輪をはめるって、

普通はせぇへんやん!

連想してしまうものが

ものなんで落ち着かへん。


「はい、これでええの?」


あるべき位置に指輪が戻ったことを

確かめて声をかける。


こんなことさせて、タカヒロは

何がしたいんやろか?


思わずじとっとした視線を向けると、

吐息だけの笑いが空気を揺らした。


「……なに」


少し見上げた先にある彼の

口元には、小さな笑みが

微かに浮かんでいた。




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