新しい仲間

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そういうわけで、

とりあえず今週の金曜日も、

いつものBar  Staxへ向かおうと

思っててんけど..........


「今日からお世話になります、

横山亮二です」



「横山は俺の知り合いで、

エンタメ系に強い頼れるヤツ。

みんな、色々教えてやってくれ。

あー、それと、金曜は

横山の歓迎会やるから。

運営チームで来れる人は

できるだけ参加で」


水曜日の朝。

定例ミーティングで部長から

そう告げられ、予定を変更

せざるを得なくなる。


この会社では、新メンバーが

加わった時の歓迎会や

四半期ごとの飲み会などは、

経費で賄われる。



人数もあまり多くないし

社内の人間関係もいい上に

会社のお金で飲み食い

できるとあって、飲み会への

参加率はほぼ100%だ。



現に、部長の言葉を聞いて


「やったー!」


「横山さんよろしく

お願いしまーっす!」


って早速盛り上がりを

見せている。



この雰囲気の中で

「私はパスです」なんて

言えるはずもないし、

せっかく新たな仲間が

加わったんやから

参加したい。



タカヒロやって今週もStaxに

来るとは限れへんし

また来週行ってみればいい。



そんなことを考えてたら

何やら横山さんと話していた

部長に手招きされる。



「工藤さん、こっち来て」


「……? はい」


運営チームの輪から

少し外れて2人のところへ

向かったら部長は横山さんを

軽くこちらへ押し出した。


「横山、こちらが工藤さん」


「……ディレクターの

工藤由美子です。

よろしくお願いします」




とりあえず簡単に自己紹介

をすると、彼も改めて

「横山亮二です」と言い、

頭を下げた。


ふわっとした明るい

キャラメルブラウンの

髪が揺れて、人懐こい

笑顔が真っ直ぐに

向けられる。




……部長の知り合いって

言うてたけども

一体何歳なんやろう。



下手すると、大学を

卒業したばっかり

くらいにも思える。


「工藤さん、ウチの

ウェブマガ、リニューアルの

話出てるやろ?」


「はい。エンタメ系にもっと

力を入れていこうって

話でしたよね。

それで横山さんが?」


「そうそう。

横山には工藤さんと

同じでディレクターやって

もらうねんけども本格的な

立ち上げまではOJTで

(On-The-Job Training)

仕事を介した訓練みたいな

感じで、ウチのこと色々

教えたって欲しいねん!


「んじゃ、外出あるから

あとは頼むから.....」


さっさと去っていく部長の

背中を見送り、何となく

2人してしばらく沈黙。


気を取り直して、

横山さんに向き直る。



「それじゃあ……まずは、

フロアの案内からしますね」


「はい、よろしく

お願いします」


パントリーやら休憩室、

給湯室など、日常的に

使う場所を案内する傍ら、

横山さんは簡単に経歴

などを話してくれた。



入社前はフリーで編集者や

ライターをやっていて、

その関係で部長と知り合った。


年齢は私と同じ26歳だった。


「え、同い年?」


「あ、やっぱり年下に見えます?

 実年齢より何や知らんけども

下に見られがちなんです」


「ごめん……大学出たて

くらいかなって思って……」


「それは、えー!」


そう言いつつ本人が陽気に

笑ってたんでこちらまで

思いっきり笑ってしまった。


これが逆に和気あいあいと

打ち解けてフロア案内を

終える頃には和やかムード。


年齢も同じだし、役職も同じ。



今後連携して業務に

当たるのんやから

敬語はお互い辞めて

気楽に話すことになった。





──そうしてやってきた、


歓迎会の金曜日の夜。



「それでは、横山さん

これからよろしく

お願いしますって事!

かんぱーい!」



会社のすぐそばにある

『ラ・バルカッチャ』

言う名のイタリアンバルに、

賑やかな声が響いた。



持ち前の明るさと

人懐こさで、わずか3日で

横山さんはすっかり皆に

馴染んでる様子だった。



そのため歓迎会も手探り

といった感じはなくって

最初から打ち解けた空気が

充満して漂っていた。


「工藤さぁん!」


「わ、ちょっと。花園さんって

飛ばしすぎちゃうん?」


開始から30分ほどで既に

頬を赤くした花園さんが、

スパークリングワインの

入ったグラスを片手にやって来る。


近くにいた店員にお冷を頼み、

ニコってと笑っている

彼女をしっかり座らせた。


「工藤さん、絶対に

ライブ行きましょーよぉ」


「あー……、うん、

考えとくわ!

行けたらね」


彼女が言う“ライブ”

とはもちろん、彼女一押し

『ゴールデンぼんくらーず』

のライブのことだ。



タカヒロの指輪の件も

片付いてへんし何とも

言われへんからアタシの

返事は微妙なものになる。




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