指輪

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土日は疲れもあってゆっくり休んだ。

結果として肌艶がかなり良い状態に

なって迎えた月曜。



全く期待を残してへんって

言うたら嘘になるけど

一夜のことは自分なりに消化できて、

「貴重な体験やった」って

結構前向きな着地をした。



だから、表に出てるんは

自分でもあまり気付かへん

些細な変化のはずやのに

後輩の目ざとさ怖い.......


視線を向けても全く気付けへん

花園さんは、アタシがあの濃い夜の

ことを思い返している内に、

中津食堂に設置されている

テレビへ釘付けになっていた。


「好きなアイドルでも

出てるん?」


「はい! すんごく好きな

バンドがあるんです。

滅多にテレビに出ないけど

これから生放送に

出演するらしくて!」


つられて見てみると、

ちょうどCMが終わり、

スタジオが映し出された。



司会者の紹介で現れたのは、

4人の男性グループ。


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「はぁ~、雅也かっこいい!」


彼女のうっとりとした声が、

どこか遠くに聞こえた。



アタシの視線は、

画面上の2人に釘付け。




『ちょうどアルバムの収録が

大体終わったところなんです』


『今回は色々新しいことに

挑戦してるんでその辺りの

変化にも注目してもらえると

嬉しいですね』


『挑戦……、

具体的にはどういういった?』


『ベースだけ、ドラムだけから

始まる曲とかですね。

各自の個性をガツン!って

出していきたいと思って』


『頑張りました!』




揃っておどけたように

言うのは...........


えぇぇ〜‼︎

「タカヒロとナオさん?」


「え、工藤さんも知ってるん?

うわぁ嬉しい! 今度一緒に

ライブ行きません~!」


「…………」



彼女のハイテンションな言葉に、

何も答えることができへん。


固まったまま、ただただ

テレビに映るタカヒロと

ナオさんを見ていると、

彼女が不意に疑問の声をあげた。


「んん? タカヒロが

指輪してへんわ!」


「……っ!」



心臓が止まるかと思った。



ぎくしゃくとした動きで

テレビから花園さんへと

視線を移し、恐る恐る尋ねてみる。


「指輪がどうしたん?」


「あれ、知りません? 

タカヒロのトレードマークです。

インディーズ時代から

右手の中指にしてて。

シルバーのシンプルなやつで、

お守り的に思い入れのある

ものらしいから外すはずないと

思うんですけど……

どうしたんやろう?」




硬直するアタシをよそに、

彼女は真剣に考え込む。



奇しくもスタジオでは

客席から『タカヒロ‼︎

指輪はー?』と質問が飛び、

「ナイス!タイムリー」と

彼女は親指を立てた。



質問を受けて、タカヒロが

画面上に大写しになる。



『よく気付いたなぁ』



少し驚いた様子でスタジオを

見回したタカヒロはそれから

ふっと笑みを浮かべて言う。






『――置いてきたんですよ』





????????




何故に.........







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