薄暗いリビングに、

浴室から聞こえる

シャワーの音が響く。


普段から散らかってはいない部屋を、

手持無沙汰を誤魔化すように整頓し、

ベッドに無印良品で購入した

お気に入りのアロマを

ディフューザーでほんのり

香らせて顔を埋める。



今日初めて会った人、

いや!さっき出会った人やん!

それもフルネームすら

知らん相手を自宅に

連れてくるなんて、

普段の自分からは考えられへん。


暴挙にも等しい無謀な冒険だ。


それでも緊張より期待で

鼓動が速まっているのは、

どうしようもなく

彼に魅かれているから。



中身も外見も好みど真ん中を

撃ち抜いけられた。

一晩だけでもいいや、

と思えるくらいに。


……勿論、一晩だけで終わらず

ちゃんとした関係になったら

それがベストやろうけど

それは高望みやわなぁ。



あんないい男、

女が放っておかへんわ!


深呼吸をして、ディフューザーの

ほのかな香りを吸い込む。



心は決まっている。

だったら、もうとことん

楽しんでしまった方がいい。


うんうん、そうすることに決めた。


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「お風呂、ありがと」


「うん」


タカヒロさんと入れ代わりで

軽くシャワーを浴びる。


タカヒロさんの髪も濡れてたし

さっきのBARでの煙草の匂いが

付いたので髪まで洗って、

せめて人並みに見えるようにと

改めて薄くメイクをして

リビングに戻った。


手招きされて彼の

ところへ近づくと、

抱き寄せられて、

軽く唇を噛まれた。。



無邪気にじゃれるような

触れ合いが、かえって

アタシの頬を熱くした。


「髪、乾かさんと!」


濡れた髪を一筋すくって、

タカヒロさんが呟く。



月1で長さやボリュームを

整えている髪やけど

ちょっと長めなので乾かすには

それなりに時間がかかる。



一夜の関係やのに

無駄に時間とらせてもうて

悪いことしたかな……と

彼の表情を伺ってみる。


「ごめんね、ちょっと

匂いが気になっちゃって」


「俺も。煙草臭いまま

ベッド入りたくないわな」


タカヒロさんも煙草は

吸わないんで臭いを気にしてた。


タカヒロさんはドライヤーを

手にしてアタシの髪を

丁寧にすいて

時々地肌に触れる指先。

心地よくて、それでいて

何故かしらとても緊張する。


これが終わったら――。




「こんな感じでいい?」


「うん。ありがとう」


髪を乾かし終えてドライヤーの

騒音が止むと同時に、

室内は静寂に包まれた。


激しく乱打する心臓の音が

余計にうるさく聞こえる。


「工藤さん」


「はい」


「名前は?」


「……由美子」


「そか〜由美子やな!」

確かめるように名前を呼ぶ。


背後から伸びてきた腕が

緩くアタシの身体を抱き寄せた。

髪を払い、露わにした肩口や

うなじに唇が触れる。





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