Temptation

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「家、この近く?」

「うん、歩きで10分くらい」


言いながら申し訳なくなって、

「やっぱり一人で大丈夫」


しかし、支えを緩められた

途端に面白いほどに

足元がぐらついて

転びかけたんで

「どこがやねん」

と一蹴された。


再び腰のあたりに腕がまわり、

密着度合いにドキドキして来た。



千鳥足で支えるためやって

わかってんねんけど

この距離感は心臓に悪い。


「ほんとごめんなさい。

普段は足にくることって

ほとんどないんやけど!」


「まぁ、体調によって変な

酔い方する事もあるやん!

まぁ、気にしやんでいい」


「タカヒロさん

面倒見良すぎ……」


「お礼はなんにしようか」


「あらら、

お手柔らかにお願いします」


また会えた時は、

迷惑料って奢って差し上げよう。


そんなことを思いながら

街灯に照らされた夜道を歩く。


普段ならやや遠く思える

10分の道やねんけど

こんな足取りで時間が

かかったはずやのに

あっという間に終着点を迎えた。


「ありがとう。ここです」


「……案外近かった」


どことなく残念そうな

響きを含んだ言葉に、

タカヒロさんも私と同じことを

思っていてくれたらええのにって

チョット思ってしまう。



自戒するように

こめかみを強く押さえ、

彼の腕から出て一歩を

踏み出した途端…。


「わっ」


「おい!」


-----Deja vu-----


そろそろ大丈夫かと

思ったんやけど今日は

とことん足が駄目らしい。


再び転びかけたところを

支えられ、頭上から

ため息が落ちてきた。


「部屋まで送るから、

一人で歩かんとき!」


「……ハイ」

反論のしようもない。


オートロックを解除して

エントランスを進み、

エレベーターへ。

5階建てマンションの

3階角部屋に私の部屋。


「着きました」


小さく伝えると、

「ん」と頷きが返ってくる。


ドアを支えにして今度こそ

タカヒロさんの手から離れ、

改めて度お礼を言おうとして.......


酔いと、このまま別れていいのか

という本能的な声と、

また会いたいという気持ち。


色々な想いがせめぎ合い、

気付けば引き止めるように、

彼の袖を引いていた。


半ば無意識のうちに、

ぽろりと言葉がこぼれた。


「まだ、一緒に

いてくれへん…?」


……数秒の沈黙が流れ、

自分が何を言ったのかを

ワンクション遅れて理解する。


深夜1時過ぎ。


部屋の前まで紳士的に

送ってくれた相手をわざわざ

引き止めたんやで!

まだ一緒にいたいと言う

意味ってひとつしかない。


サッと冷え始める頭と、

反対に熱が上ってくる頬。


『何でこんな事言うたんや!』

言った矢先恥ずかしくなって、

勢いよく顔を逸らす。


「ごめん、今のん、忘れて」


慌てて手を離しつつ言うたけど

その途中で素早く手首を

捕まえられた。


「無理.......」


短い拒否。


少し嬉しかった

その直後..........

唇に柔い熱が触れた。







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