午前1時を回を回って
名残惜しいねんけど
これ以上飲んだら金銭的にも
酔いの回り具合的にも
微妙に危ないって判断した。
カウンターで会計を済ませ
店を出ることにした。
「マスター、今日も
美味しかった。
ご馳走さま」
「いつもおおきに!
またね」
「はーい」
鞄の中に手を突っ込み、
見納めにタカヒロさんの
横顔を眺めていた。
「それじゃあ、
アタシはこれで!
今日はありがとう」
「ん、気を付けて。
また今度」
言葉は短いけれど、
声音は柔らかかった。
下心はさておき、傍にいて
気楽で居心地が良かったし
趣味も合うたなぁ!
『また』という言葉通り
又会えたらええのにって
思いつつ、おしゃれで
高いスツールから下りた。
しかし..........
「あっ‼︎」
自分で思ってたんより
酔ってた感じで、しかも
それが足にきてたみたい。
上手く力が入らず
体勢を崩してしまう。
慌ててスツールに
手を伸ばしてんけど
滑らかな革張りに指が
掛かれへん。
踏ん張りも利かず
大きくよろけて、
転びそうになったその時。
「……っ、危な!」
腕を掴まれ、それと
同時に背中へ手が回る。
力強い腕で支えられて
転ばんで済み、
ホッと息が漏れた。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫……、
ありがとう」
バクバクと胸の鼓動が
小刻みにうるさい。
あわや転倒やってんけど
そそっかしいところを
見られた羞恥......
さりげなく支えた腕の力強さ。
ほんで又でき過ぎた
状況に対する動揺。
ただお礼を言うことしか
出来へんアタシの代わりに
タカヒロさんは........
マスターを呼んだ。
「マスター、俺もおあいそ」
「送ってくんや!」
「うん。そう」
「そかそか。
ちょっと待っといて」
無造作に差し出された
諭吉さんを受け取り、
レジまで引っ込むマスター。
流れからして送られるんが
決定みたいやねんけど……。
え、ちょっと待って‼︎‼︎
確かに別れが名残惜しいな
って思っててんけど
こんな急展開が起きると
ときめきより動揺が上回る。
「え、いや、大丈夫……」
「迷惑ならやめるけど、
遠慮やったらアカンで!」
「でも、飲み途中じゃ……」
「ちょうどグラス空けたところ。
ほんでこのまま帰したら
心配で落ち着いて
飲んでられへんやん!」
少し高めのヒールが失敗やった。
足元がおぼつかない
アタシを見下ろし「転びそうやん」
眉をひそめるタカヒロさん。
心底気遣ってもらってんのは
察せられるし、予想以上に
酔いが足にきてるため、
支えられるのは正直助かる。
「はい、お釣り〜」
「うん。また来る」
「お待ちしてます。
2人とも、気を付けて帰って!」
結局、笑顔のマスターに
送り出されてタカヒロさんに
身体を支えられながら
お店を出たのだった。