「……あ」
夜が深まり
会話も弾んでいたころ。
カウンターの上へ無造作に
置かれたナオさんの
iPhoneが震えだし、
着信を告げる。
「雅也や！」
「呼び出しか？」
「縁起でもないこと
言うたらあかん…」
席を外し、店の奥で
電話を取るナオさん。
その間に周囲を見回すと、
ずいぶん人が減っていた。
時計を確認すれば、
既に日付が変わっている。
この時間帯は
終電に合わせて一旦引く。
この後は閉店まで
飲み明かす人達で
再び賑わい始めるから。
アタシはもうしばらく
飲んどこうかな？って
考えてたらナオさんが戻って来た。
「タカヒロ！」
ナオさんは明らかに
げんなりとした顔をしてて
電話を取る前にタカヒロさんが
言っていた『呼び出し』
が用件であったことがうかがえる。
「どんまい」
にやっと笑うタカヒロさんに、
ナオさんは渋い顔やった。
「お前ってエスパーなんか！
可哀想な俺に今日は奢って」
「はい了解！」
グラスを空にし、
「またなぁ、工藤さん。
マスター、今度は
のんびり来る」と
声を掛け、慌ただしく
去っていくナオさん。
やれやれといった感じで
その背中を見送り、
タカヒロさんは小さく
溜息を吐いた。
「騒がしくて
ごめんやで！」
「ううん。
お陰で楽しく飲めたもん」
「そかそか！
まだしばらくいる？」
「そのつもり」
「それじゃあ……」
おつまみの載った皿を
こちらへ少し押し出し、
ナオさんが居なくなった
空いた席をトントンと
指先で叩くタカヒロさん。
２つ分の空席は、
話すのにはやや遠い距離。
移動するのは道理だと、
立ち上がって詰める。
隣に座るか、
１つ空けて座るか
迷ってたら
「嫌ちゃうかったら」と
隣を示された。
一気に距離が縮まり、
微かに爽やかで甘い香りが
届いて胸がざわつく。
それを誤魔化すように、
度数の強いカクテルを
飲み干した。
正直..........何の嫌がらせかって
思うくらいに、タカヒロさんは
私の好みど真ん中を
撃ち抜いていた。
がっちり過ぎへん程度に
鍛えられてんのが見て取れる
引き締まった身体。
色気のある低い声、
節がしっかりしている割に
かなり繊細な手指。
やや彫りの深い顔は
整っといて鋭さを
感じさせてんのに笑うと
一気に雰囲気が柔らかく
なるのがすごいツボ。
好み過ぎて、下心を
持ちそうになってんのが
非常に申し訳なかった。
……ただでさえ結構
飲んでたし、終盤でペースを
上げてしまったのは、
きっと罪悪感と自分への
誤魔化しのせい。
そう思った。
今後は性描写も多くなって
来ますので予め
お知らせいたします。
