代わり映えのしない日常やった。
何気ないイレギュラーがあった。
ただそれだけのはずだった。
それだけ..............
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「工藤さん.........
お昼食べに行きません?」
土日の休日を挟み、
迎えた月曜日。
午前中のデスクワークが
遅くなってようやく
お昼にしようかって
思ってたところに
思いもかけず声を
掛けてきたんは
同じ部署で働く親しい後輩、
花園さんやった。
「せやなぁ!行こっか」
うなずいて立ち上がった
アタシは鞄を肩に掛ける。
「なん食べる?」
「はい。
あっさりしたもんが
良いですね。」
「そう。久しぶりに
中津食堂にしよか?」
この春できたばかりで
“ まいどおおきに” で
有名なフジオフードの
お店で人気やった。
「いいですねぇ~!」
社内にはテイクアウトのみの
購買部があるけれど、
食堂の類はない。
ランチは買ってきて各部署の
休憩スペースで食べるか、
外食で済ませるかだった。
会社周辺には飲食店が多くて
飽きへんしランチは日々の
ちょっとした楽しみ。
今日は『中津食堂』に
向かうことにして、
アタシたちは会社を出た。
「いらっしゃいませ。2名様で
いらっしゃいますか?」
「はい」
「お好きな
お席へどうぞ」
ピークタイムを過ぎていて
席に余裕がある店内。
客はほとんどが付近の
会社から昼食を食べに来ている
会社員なので、BGM替わりの
テレビ音声がある程度
聞き取れるほど、
静かで落ち着いている。
早速メニューを見てみると、
一番から五番までの定食メニュー。
「工藤さん、決まりはった?」
「うん、三番定食にする」
「お、一緒ですね。
了解です」
近くにいた店員を呼び止めて
早速注文を伝える。
花園さんはおもむろに
お茶を飲み干して、
肘をついて何か言いたげに
少し身を乗り出した。
口元には、何かを企むような
不敵な笑みが浮かんでいる。
「さてさて、工藤さんね」
「うん。どうしたん?」
「週末、
何かええ事あったでしょ?」
「…………」
なんか朝から時折視線を
感じると思ってたら
それが聞きたかってんや!
「無言は図星って
事でええですね」
「はいはい」
「工藤さん、何や知らん
さっぱりしたような……?
上機嫌っぽくも見えるし、
凄く気になります」
「上機嫌ねぇ」
「そうですよ、
ちょっとだけなんで
気付いてる人は
居たはらへんけど」
普段は大雑把であっけらかんと
してんのになぁ。
こういう時だけ妙な鋭さを
発揮する彼女に溜息を一つ零し、
湯呑みに手を伸ばす。
「……で、どうなんです?
もしかしてもしかして、
ええ男でも見つかった?」
「…………」
「無言は図星と理解します。
工藤さんっていつも
ポーカーフェイスの割に
結構分かりやすいです」
「……その鋭さって
他で発揮出来へんの?」
「はぃ。善処します」
勝ち誇った笑みを浮かべる
花園さんと、僅かに肩を
落とすアタシのところへ、
定食が運ばれてくる。
これで話題が少しは途切れる......
なんてこともなく、
お醤油をかけながら、
花園はさらに追撃を加えた。
なんやねんなコイツ。
「たまには工藤さんの
恋愛話聞きたいな~」
「アタシは聞く専門でええねん」
「ダメです。あきません。
今日は私が聞きたいんです」
興味津々、話すまでは
絶対に引かないことを
全面に出して
諦めの溜息が漏れた。
溜息の示すところを察し、
「わぁい!」
と歓声をあげる彼女。
その無邪気さが、
居た堪れない気持ちに
さらに拍車をかける。
「面白くもなんともないで!
飲んどったらタイプの人がいてな!
なんとなく流れでそのまま、
..............みたいな」
「そのまま……?
ど、どこまで……?」
「最後まで……」
「マジっすかぁ!
ひゃぁ……リアルで
そんなことあるんですねぇ」
「自分でもびっくりしてん!
雰囲気と流れって怖いね」
そう言いつつも、
少しも後悔はしてへんし。
成り行きでのいわゆる
“ ワンナイトラブ” やのに
自分でも驚くほど気分が
さっぱりしてんのは
一晩だけとはいえかなり
濃密な時間を過ごしたから。
「でもでも、それもアリだって
思えるくらい良い人だった
ってことですよね!
いやぁ、気になる!
詳しく聞かせてくださいよ~」
「……今度飲むとき、
気ィ向いたらなぁ!」
「ええーっ!」
きっと話すことはない
って思いながら運ばれてきた
定食を頬張った。
続く
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