首相 東南ア歴訪 心と心は触れ合えたか
2020年10月23日 07時38分
東南アジア諸国連合(ASEAN)は日本にとって重要なパートナーだ。しかし、対中姿勢には各国間で温度差がある。中国けん制の押し付けになっては「心と心の触れ合う」関係にはなり得ない。
菅義偉首相が十八日からの四日間、ASEAN議長国を今年務めるベトナムと、インドネシアを訪れた。首相就任後初めての外国訪問先としてASEAN諸国を選んだのは、第二次内閣の安倍晋三首相から二代連続だ。
多くの首相が初訪問先に選んできた米国が大統領選の最中だったり、中韓両国との関係が良好とはいえない事情があるにせよ、ASEAN諸国は妥当な選択だろう。
歴代首相は東南アジアを訪問した際、政策演説を行い、日本がこの地域とどう向き合うか、明確なメッセージを発信してきた。
例えば福田赳夫首相が一九七七年八月、フィリピンのマニラで行った政策演説である。日本の軍事大国化を否定し、心と心の通う友好関係の樹立や、対等なパートナーとして東南アジアの地域的共存と安定に寄与することなど三原則を打ち出した。演説は「福田ドクトリン」と呼ばれ、日本の対ASEAN外交の指針になってきた。
その後、橋本龍太郎、小泉純一郎、安倍各首相が政策演説で、日本がASEAN諸国とどう向き合うのかを、国際情勢の変化に対応する形で具体的に語ってきた。
菅首相がハノイの日越大学での政策スピーチで、ASEANと日本を「心と心の触れ合う関係」と述べたのも、福田ドクトリンの延長線上にある。残念なことは新味のある力強いメッセージを打ち出せなかったことだ。双方の経済的なつながりの深さには言及したものの、現状の説明にとどまった。
南シナ海情勢について、首相は「緊張を高めるいかなる行為にも強く反対」と日本政府の立場を繰り返した。名指しは避けたが、中国けん制の意図があるのだろう。
ただASEAN内の対中姿勢は一様ではない。日本が対中けん制を押し付けては各国は股裂きになりかねない。「心と心の触れ合う関係」というのなら、各国の事情に一層配慮して当然だ。分断をあおってはならない。
首相が外国を訪問したのは国会での所信表明演説前だ。国会を開きたくなかったのか、外交不得手との印象を払拭(ふっしょく)したかったのか、そのいずれでも順序が逆だ。なぜ外国訪問を優先したのか、それに見合う外交成果はあったのか、国会で明確に説明すべきである。
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