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 平和の祭典の計画に、どんな悪意が向けられたのだろうか。

 東京五輪パラリンピックを標的に、ロシア当局がサイバー攻撃をした疑惑が浮上した。

 ロシア政府は否定しているものの、その情報機関は近年、さまざまな国際的犯罪への関与が指摘されている。

 重大な疑惑に対するロシア政府の態度は誠実とは言えない。国際社会に対し、説明を尽くす責任を自覚すべきだ。

 英国外務省によると、東京五輪パラリンピックの関係者や組織への攻撃は、「GRU」の略称で知られるロシア軍の情報機関が仕掛けたとされる。

 米司法省も、平昌冬季五輪のほか、フランス大統領選などの際に攻撃をした疑いで、GRUの当局者ら6人を起訴した。

 五輪を狙った動機は不明だ。ロシアの選手団は、国ぐるみの薬物使用を理由に五輪から締め出されており、その不満が背景にあるとの見方もある。

 薬物疑惑をめぐっては、これまでもロシア当局の工作活動が世界反ドーピング機関などによる調査でわかっている。

 14年のソチ冬季五輪では、ソ連国家保安委員会KGB)の流れをくむロシア連邦保安局が、選手から採取した検体をすり替えていた。18年には、反ドーピング機関の情報システムに侵入した疑いで、GRU当局者らを米司法省が訴追した。

 前回の米大統領選挙をめぐる世論操作や、18年に英国で起きたロシアの元スパイの毒殺未遂事件でも、GRUの関わりが米英の捜査で指摘されている。

 信頼性のある証言や状況証拠が積み重なっているのに、「欧米による虚偽の宣伝」だと繰り返すロシア政府の釈明は、国際社会の納得を得られない。

 近年のロシアは、プーチン大統領を頂点とする権威主義が強まっている。民主的な透明さを欠くなかで、情報機関が何をやっても責任を問われない状態になっているのではないか。

 ただ、ネット空間の安全を脅かしているのはロシアだけではない。

 今年、三菱電機が中国の集団から攻撃されたとみられる事例が発覚した。米政府はかねて、中国によるサイバー不正を非難してきたが、その米国も世界中に盗聴網を張り巡らしている実態が、スノーデン事件などで明らかになっている。

 国境越えの攻撃や情報戦を正すすべは残念ながら当面確立されそうにないが、少なくとも不正が明るみに出れば、国際社会から責任を問われるべきだ。

 サイバーリスクは政府や五輪関連を含め、どんな組織も免れない。その現実を前提に、対策を強める必要があるだろう。

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