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2016年6月 2日 (木)

「イマジナリーな領域への権利」と参政権

突然ですが、「イマジナリーな領域への権利」であります。

ワタクシがこの用語を初めて観たのは、もう十数年前。
仲正昌樹「『不自由』論」(ちくま新書)の最後の方で、ドゥルシラ・コーネルの提唱する概念として紹介されていたのを読んだことだった。
この時は具体的にどんな場面で問題化するのかイメージが湧かず、ただ「自己決定権以前の、モラトリアム的な権利」として学習権の拡張型(どの辺がどう拡張されてどんな違いがあるのかは不明……いまだにようわからん)みたいに理解していた。
その後、仲正昌樹の著書ではしばしば言及されてはいたが、それ以外ではお目にかかることのない用語だったので、理解が深まることもなくそのままになっていた。

ところが、つい最近「こんな形で政治問題化し得るのか」と思う記事があった。

リンク: 個人売春=ワリキリ女性のアンケートで驚きの結果が…貧困が理由のワリキリの自民党支持はなんと“100%”!|LITERA/リテラ.

〈生活苦や借金苦を理由に、他の仕事も探しながら、せっせとワリキリを行っている。こうした彼女たちは、ワリキリ頻度が多めで、ネットで喫茶を知った割合が最も多く、全員子どもはいない。そしてなぜか、支持政党のある場合、みんな「自民党支持」となった。(中略)一方で、「夢がある」「貯金」「旅行費用」「欲しいものがある」を挙げた人は、クラスターの傾向として「他の仕事がある」「住居がある」「貯金あり層が多い」。そして、こちらはなぜか支持政党のある場合は、みんな「民主党支持」といった傾向が出た〉
 貧困が理由で売春している女性は100%が自民党支持、夢の達成や貯金を目的に売春している女性は100%が民進党支持──。いったいこの結果は何を意味しているのか。

 

サンプル数も多くないので、断定的なことはいえないが、売春せざるをえないところまで追い詰められている最貧困層や、生活に困窮しても行政に頼れないような層はやはり自民党に取り込まれてしまっているということなのか。
 そう考えると、これは自民党やマスコミの問題であると同時に、野党の問題でもある。たしかに安倍政権がナショナリズムを煽り、マスコミがそれに協力することで、貧困層の目を不平等からそらしているという側面はある。しかし、一方で民進党はもちろん共産党も生活の党も本当の経済的困窮者を取り込めていない。だからこそ、こういう調査結果が出てきてしまうのだ。
 実際、ワリキリ調査の極端な数値は別にして、朝日新聞の調査でも年収300万円未満の層でまだ36%という自民党支持率があるのだ。
 格差を助長する政策を前面に出している政党にその犠牲者である貧困層までが取り込まれている──。野党は、この現実を真摯に受け止め、上から目線ではない、本当に貧困層に届くようなわかりやすいメッセージを出す必要がある。

このように政治問題として浮上しても、どうやって具体的な方策や戦術を打ち出すことができるのか? はっきり言って至難の技だろう。
格差の最底辺で現実に貧困に喘いでいる人にとって、たとえ不本意な現実であっても、それを「所与のもの」として受け容れ肯定する以外に生きていく術はないのだろう。

例えば、生活保護を申請している人が、福祉事務所の担当者から「軽でも自動車があると保護の決定は下りませんよ」と言われれば、軽自動車を処分してしまう。(実話)
田舎に住んでいれば、それでどれほどの不便を強いられるか判っていながら、それでも担当者の指示に従うのだ。
周囲の者が「軽自動車は生活の足で必要不可欠なんだから、そこをアピールして交渉しなさい」と言っても、「生活保護受給を邪魔するワルモノ」として非難される。(これも実話)
それどころか、円滑な受給のためにアドバイスしてくれた担当者に感謝さえするかもしれない。
こうした場合に、「(軽自動車の処分を)自己決定したのだから(不便になっても)仕方がない」と突き放すのは、単に気の毒というだけではなく、アンフェアと言うべきなのだろう。
自分のあるべき/望ましい状態をイメージできずにいるせいで、不適切な「自己決定」を強いられているからだ。(下世話に言えば「貧すりゃ鈍す」のスパイラルということか?)

従来の社会問題では、このような「弱者を守ってあげる」ために後見人のような制度が必要だ、というような流れになっていたことだろう。
しかし、コーネルのようなフェミニズム法学からは、このようなパターナリスティックな「保護」は自由の制約として却下されるのだろう、多分。ようわからんが。

「弱者」であっても自分自身のあるべき/望ましい状態の具体的イメージを描けるよう、適切な自己決定を自ら下せるようにサポートする義務が、社会の側にある。
これを基礎づけるのが、「イマジナリーな領域への権利」なのだろう。
10年以上経って、やっと具体的イメージが掴めた気がする。

で、これを政治問題化する――しかも与野党逆転を狙う政局の問題として具体化するというのは、どうも根本的に無茶な話なのではないか。
なぜかというと、「そもそも自己決定権の主体たり得ない者が、政治的な自己決定権たる選挙権を行使するって、どうなのよ?」という話になりかねない(つーか、ワタクシ的には必然としてそうなる)からた。

18歳選挙権も実現したし、成年被後見人の選挙権も認められた。
自己決定権の公的展開とも言うべき選挙権は、権利主体を拡大する方向にある。
そんな中で、「イマジナリーな領域」を閉ざされている人たちにとって、選挙権の行使がどんな意味を持つのか。あるいは、選挙権の行使を迫ることが果たしてフェアなのか。

これって、ある意味「日本国民」と「日本ピクミン」を区別しようって話でもあるから、どーしても差別的になってくるよなあ。
何とか差別色を払拭する手立てはないものか。
うーん、難しい。

 

「自己決定権の主体たり得ない」と言えば、津川雅彦や百田尚樹あたりを有難がってる「中二病ネトウヨ」もそーだよなあ。
自己の確固たるアイデンティティも、その基礎となるべき関係性も築けていないから、いきなり日本という国家に同一化してしまうわけで、その国家の出発点が占領と「押し付け憲法」という極めて不本意なものであるわけで。
でも、こーゆーアホどもには同情の余地はほとんどない(とワタクシは思う)から、思いきりコケにして、差別してやってもかまわんと思っとります。

 

さて、ドゥルシラ・コーネルか…
読んだ方がいいんだろうなあ。でも、難しそうだなあ… 高いし。

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