美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:煉瓦

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前回までの美っち生イき!

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こんな感じ!(すよさんありがとー!)


#17 あの日食べた焼肉の値段をわたしはまだ知らない

「ひとりで出来るなんてえらいじゃん」

「ば、ばかにしてるな!?」

 

 夏波結と並んで107号室へ入る。

 頭上にミラーボールが回っているギラギラした部屋だった。

 お、落ち着かないなぁ。

 

「十六夜さんが来るまで歌う?」

「う、歌わない」

「えーなんで? まだ時間あるよ?」

 

 こ、この女!

 祭先輩とのコラボの時の仕打ち、わたしは忘れてないからな!

 鼻歌だけの女と言ったこと忘れてないぞ!

 

「ほらデュエットならいいでしょ? 何がいい? 好きな曲入れていいよ?」

「だから歌わない! えぇいこの陽キャめ、離れろー!」

 

 リアルでもバーチャルでもやっぱり夏波結は陽キャだ。

 これからヤバい女がやってくるというのに時間があるから歌おうなんて、頭がゆるゆるの陽キャでないと出来ない提案だ。

 リアルとバーチャルでギャップのあるライバーなんてたくさんいると思っていたが、祭先輩に始まり夏波結も姿は変わっても印象が変わることはなかった。

 

「祭先輩とはノリノリだったのに私とは歌ってくれないんだ」

「え、べ、別にノリノリじゃないし」

「ふーん?ちょっとだけとか言いながらソロで歌ったりしたのに?」

「ぁぅ……」

 

 た、確かに歌ってるとテンションが上がって2、3曲で切り上げるつもりがたくさん歌ってしまったのは事実だ。

 けどそれを夏波結に今指摘される謂れはない。

 改めて言うが今日は歌いに来たのではなく、話し合いに来たのだ。

 そんな余裕、わたしには無いね!

 

「あ、これとかどう? ロキって最近流行ってるよね」

「ぅぅー、一曲だけ、だから」

 

 ま、まあ、これから舌戦が繰り広げられるんだから喉の調子を慣らしておかないとな!

 そんなわけで1曲だけ歌って、おまけでもう1曲追加。

 気がついたら14:58で、約束の時間がすぐそこに迫っていた。

 

「あっあっ、どうしよどうしよもう時間ないじゃん!」

「まあまあ落ち着きなよ。慌ててもどうしようもないんだし、せめてリラックスしたまま迎えよう」

「おなかいたい……かえる……」

「んー、けどもう手遅れみたい」

「失礼します」

 

 え。

 ドアを開けようとしたら向こうから勝手に開いて額にゴンッとクリティカルヒット。眼の前が真っ暗になってチカチカと星が舞った。

 こ、これだから内開きは……!

 

「あ、ゴメン! 大丈夫!?」

「もうムリ、やっぱかえる……」

 

 現れたのは十六夜桜花で……ってあれ、この人──

 

「店員さん?」

 

 先程受付にいた格好良い感じの女性だ。

 てっきり時間通り十六夜桜花が来たと思ったけど、何だろう夏波結がドリンクでも注文したのだろうか。

 額を抑えながら混乱していると店員さんはニコリと笑い、

 

「はじめまして。ボクが、十六夜桜花だよ」

「え、えぇ!?」

 

 衝撃発言だ。

 あるてまに合格した時以来の衝撃だ。

 

「て、店員さんが十六夜桜花……?」

「うん」

「十六夜桜花が店員さん……?」

「うん」

 

 嘘や冗談の類には見えないし、何より前回来た時もこの店員さんには見覚えがある。

 あの時わたしたちは行き当たりばったりで適当なカラオケ屋に突撃したわけだから、そこに十六夜桜花がいるかどうかなんて知らなかった。

 と、いうことは……、

 

「同じ生活圏って運命だよね」

「偶然な。偶然って言おうな」

 

 本当にコイツは言葉選びが一々大仰だな!

 

「えっと、それでそっちの女性は──」

「こうしてちゃんと喋るのは初めてかな、夏波結です」

「あぁ、夏波さん! はじめまして、十六夜桜花です」

 

 一瞬、空気がぴりっとひりついた。

 

「んー、夏波さんが来ることは聞いてなかったんだけど。もしかして黒猫さんの保護者役かな?」

「まあ、そんなとこ」

 

 そう言って夏波結は立ち上がり、ドアを背にしてこちらへ視線だけ投げてきた。

 どうやら見守ると言った通り、余計な口出しをする気はないのだろう。

 少し不安だが誰かが傍で見守ってくれているのは素直に嬉しい。

 

「あ、あの、えっと」

「呼ばれた理由は分かってるよ。どうして名前を知ってるか、だよね」

 

 そうだ、身バレの理由と今後の為に話し合いの場を設けたんだ。

 しかしここまでの流れから身バレの理由は何となく察している。

 

「名前や服装を知っていたのは前回のオフコラボの時にボクが受付をしたからだね」

「じゃ、じゃあ祭先輩も身バレした……?」

「いや、あの時登録をしたのは黒猫さんだけだからね。本名を知ってたのは受付時に情報が出るから」

 

 そう言って十六夜桜花はピッと人差し指を立て、

 

「ダメだよ、Vtuberがリアルで不用意に『黒猫さん』なんて特定されるワードを出しちゃ」

「う、気を付けます……」

 

 確かに夏波結や祭先輩の名前なら比較的特定には繋がらないかもしれない。

 けど黒猫さんなんて明らかにハンドルネームなものは、まあ、特定される危険があるよなぁ。

 

「今回は同期のボクだったからよかったけど、オフコラボで会員登録なんて気を付けてね。下手したら住所までバレるんだから、ネットに流されたら一生モノの傷だよ」

「ぐぅ、気を付けます……」

 

 あ、あれ。

 今日はチャット内容について話し合いに来たのに何でわたしが一方的にお説教を受けているんだ。

 内容的にわたしが一方的に言う権利がありそうなのになんか騙されてないか!?

 

「あ、あのチャット! まるで脅迫だった! ストーカーだ!」

「……それは、ゴメン」

 

 十六夜はさっきまでの世話焼きモードから一転、しゅんっと怒られた犬のように落ち込んだ。

 チャットや通話では分からなかったけど、意外とコロコロと表情の変わる人だ。

 

「ふ、不安になった。もしかして住所がバレてるのかもって。監視されてるのかもって。初通話からヤバい人だったし……」

「本当にごめんね。ただ、怖がらせるつもりはなかったんだ。ほんのちょっと驚かして、実は前にリアルで会ってたよってすぐにネタバラシしようと思ってた」

 

 その顔は本当に申し訳なさそうな、反省しているものだった。

 あれは彼女なりの冗談だったのだろうか。

 いや、リアルを持ち出すなんて普通にタチが悪い!

 

「けどね、あれは黒猫さんだって悪いとボクは思う」

「わ、わたしが?」

「だって、折角の初コラボなのに最初から最後までずっとミュートだなんて、いくらボクでも傷つくよ……」

「そ、それはそっちが──」

 

 言い返す前に十六夜桜花は目元に手を当てる仕草をする。

 その瞳は僅かに濡れている気がした。

 

「ねえ、もしかして十六夜さん怒ってるんじゃない?」

 

 今まで黙っていた夏波結が堪らず口を開いた。

 その目はじとーッとこちらを見つめている。

 んん? もしかして流れ変わった?

 

「燦、謝るなら今のうちよ」

「き、貴様はどっちの味方だ!?」

 

 最後の砦、夏波結が陥落してしまった!

 これは圧倒的に不利な状況だ。

 未だにジンジンと痛む額からつぅーッと嫌な汗が流れていくのが解る。

 撤退──は夏波結によって塞がれている。

 

「十六夜さんはね、拗ねてるのよ。初コラボが適当に扱われたからせめてオフコラボがしたい。けど直後で素直に誘うのも癪だから仕返しのチャットを送ることで鬱憤を晴らそうとしたの」

「うん夏波さん、察しが良すぎるから少し黙ってもらっていいかな。ボクの色々なものが崩れそうだからさ」

 

 そう言って十六夜桜花は持ってきていたオレンジジュースをグイッと一息に呷った。

 見れば耳まで真っ赤になっている。

 

「返信が来たらすぐにネタバラシをするつもりだった。けど黒猫さんがオフをしてくれるって言うし、その時に実はあの時の! って直接驚かした方がいいかなって」

「お、お前はおバカか!?」

「よくズレてるって言われるよ」

 

 こ、コイツは本物の大馬鹿だ!

 そういうのはわたしや夏波結みたいに仲の良いライバーだから成立する身内ネタだ。

 よく知りもしない、苦手意識を持った相手にしたら不信感を抱くだけに決まってるだろ!

 距離感を考えろ、距離感を!

 こちとらコミュ障だぞ!

 

「これはどっちも悪いというかなんというか。同期なんだからちゃんと歩み寄りなさいよ」

「あぅ……」

「反省してます……」

 

 で、でもでもでも!

 あんな言い方はないと思う! どう見てもヤバい奴じゃんか! 身の危険を感じる系の奴じゃん!

 冗談にしてももう少し笑える系にしてほしいんだけど!

 と、最後まで駄々を捏ねたいところだが夏波結の言うことはもっともだった。

 つまりミュートコラボが全部悪いってことだな!

 

「け、けどミュートの原因になる十六夜桜花の発言が、問題だと、思います……!」

「だって好きなんだもん」

「んなぁっ!?」

 

 な、ななな、なんなんだこの女!?

 

「確かにキミのことが好きすぎておかしなことを口走っている自覚はある。けどそれも仕方ないんだ、好きだから」

「ま、ままたすけてー!」

「お母様はお仕事中でしょ」

「んにゃー!」

 

 こういう事ばっかり言うから通話しながらコラボしたくないんだよ。

 絶対ヤバいこと言って放送事故起こるじゃん。

 だったら対策立てるのも仕方ないと思うんだけど!

 

「そもそも十六夜さんは燦のどこが好きなの?」

「好きになるのに理由がいるかい?」

「そ、そりゃここまで熱烈にアタックするなら、ね」

 

 そう言われると十六夜桜花は静かに目を閉じた。

 さっきまで真っ赤に染まっていた耳は鳴りを潜めている。

 

「一目惚れだった。始めはバーチャルのキミだから好きかと思った。けどリアルのキミを見て、リアルのキミも好きだと思った。バーチャルとかリアルとか一目惚れとか関係なく──キミだから好きなんだ」

 

 本気だった。

 十六夜桜花は嘘や冗談を一切含まずに、そう言い切った。

 その瞳に見つめられて、ちょっとドキッとした自分がいる。

 ……顔がいい奴のこういう言葉は卑怯だ。

 

「だからコラボしたいと思ったんだよ。……まあ、1回目のチャットを無視されたあと、ムキになって毎日送ったのは我ながら子どもっぽいと反省してる」

「……チャット関係全部燦が悪いんじゃ?」

 

 既読無視に始まりミュートコラボ。

 あ、あれ、今回の件はもとを正せば全部わたしが原因なのか?

 

「ご、ゴメンナサイ」

「ううん。こちらこそ怖い思いをさせてごめんね。ここに来てようやく理解したよ。1人で舞い上がって空回りしたボクが全面的に悪いと思う」

「はぁ……結局こういうオチかぁ。見事に沈んだね」

 

 なんだか一気に脱力した。

 勘違いと行き違いとコミュ障が複雑に絡み合って爆発したのが今回の詳細だったわけだ。

 まあ、わたしは別に実害を受けてないし十六夜桜花は致命的に空気が読めないだけで、そもそもわたしの無視が発端なので今回の件は綺麗サッパリ解決とみていいだろう。

 てか振り返ると全部恥ずかしい出来事だったからもう終わらせて!

 

「じゃ、じゃあ、また後日コラボ、する……?」

「いいの? ボクのこと嫌いになってない?」

「苦手。相性が悪い。我王の方がマシ」

「ず、ズバズバ言うなぁ……」

 

 言いたいことを言わないと問題になると今回の件で理解したので、本音で語ると十六夜桜花は傷ついた表情でうなだれた。

 もう少しゆっくり距離を詰めてくれるならわたしも平気なんだけど……。

 

 そして十六夜桜花は休憩時間が終わるとのことで部屋から出て行った。

 折角の休憩時間を丸々潰して少し申し訳なかったが、本人は「念願のオフ会が出来たし、黒猫さんと歩み寄れたからよかった」と言っていた。

 歩み寄れたのか……?

 

 しかしわたしがオフに誘えば絶対に来るとか高を括っていたが、カラオケ屋さん以外を指定していた場合普通に来れない可能性もあったのか。

 そうなると断りのチャットを入れられて、なんか気まずい空気のまま通話で全部済ませていた未来があったのかもしれない。

 なんか、小一時間でどっと疲れた。

 

「歌う?」

「歌う」

 

 激しい曲とか歌いたい気分だった。

 

 

 2時間ぐらい歌い続けて十六夜桜花に見送られながらカラオケ屋さんを後にした。

 彼女としてはこの後一緒に遊びに行きたかったらしいが、まだ少し仕事が残っているとのことでお別れだ。

 次こそはちゃんとしたコラボをしようと約束を取り付けてきたのはちゃっかりしていると思う。

 

 そして車に乗って夕飯へ行くことに。

 

 初配信の焼肉が好きという言葉を覚えてくれていたようで、お肉をご馳走になった。

 シルクロースとかいう店員に焼いてもらってライスボールに包むやつが特においしかった。

 良いよと言われたからついつい2回ぐらいお代わりをしてしまったけど、食い意地が張ってると思われてないかが心配である。

 ちなみにお昼と違って値段は知らない。

 メニュー表も最初に夏波結が持っていてコース的なのを注文したからわたしは見てすらないないのだ。

 ただ、お手洗いに行くと言って支払いを済ませておくのは格好良すぎないだろうか。わたしが男なら惚れてたな。

 

「はい、今日はお疲れさま」

「う、うん。わざわざ付き合ってくれて、ありがとう」

「乗りかかった船、だからね」

 

 家の前まで送ってもらった。

 色々お世話になったし上がっていくかと誘ってみたが、流石に時間も遅いので帰ると言われた。

 どうせ誰もいないし遠慮しなくていいのに。

 

「そういえば夏の話は聞いた?」

「夏?」

 

 夏の話って何だろうか。

 

「夏コミでリスナーさんとお喋りイベントするってやつ」

「え」

「あれ、聞いてない? 8月末のカラオケ大会は?」

「???」

 

 まったく聞いてないんですけど。

 え、リアイベするんですか。


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