美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:煉瓦

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#9 決戦前々夜とか言いながら逃亡3秒前

「黒音さん、よかったらこの後みんなで遊びに行かない?」

 

 オフコラボを日曜日に控えた金曜日だった。

 今日は最終調整を兼ねた配信をするために早く帰ろうと思っていたのに、クラスの人気者小林晴人くんが声を掛けてきた。

 

「え、あ、遊びに……?」

「うん。ちょっと遅めの親睦会をしようって話になってね。ほら、この学校ってクラス替えとかないしさ」

 

 親睦会?

 廊下で待っている連中はいつも小林くんの周りにいるリア充だ。

 彼らが今更集まって仲を深める意味なんて欠片もないと思うのだが、リア充とはそういう無意味な行為に意味を見出したがるものなのだろう。

 そして無意味に漢字を並べてちょっと大人気分に浸りたがるのだ。

 

 親睦会

 交流会

 忘年会

 

 言い方は色々だが要はお前らただ集まりたいだけだろ!

 そう言いたい。言ってやりたい。言えない。

 

「ご、ごめんなさい。あの、今日は、その……忙しい、です」

 

 相変わらず口は思うように動かない。

 連日の夏波結との特訓で少しは改善されたかと思ったが、やはりリアルで相手と顔を合わせて喋るのはまた違った緊張があった。

 こんな調子で日曜日のオフコラボを無事に乗り切ることが出来るのだろうか……。

 

 

▶ ▶❘ ♪ ・ライブ
 
 ⚙ ❐ ▭ ▣ 

 #黒猫さんの時間

【最終調整】コラボ詳細決めるから集まれ【あるてま/黒猫燦】

  18,198 人が視聴中・0分前にライブ配信開始
 
 ⤴234 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 … 

 
 黒猫 燦 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数 22,434人 

 

「こんばんにゃー」

 

 こんばんにゃー

 サムネええやんけ!

 今日って記念配信?

 

「サムネは視聴者さんに作ってもらいましたにゃ。すよさんありがとにゃー」

 

 にゃ、つけるな

 にゃ、つけろ

 媚びるな

 媚びてけ

 

「実はオフコラボのことしか考えてなくてチャンネル登録者数全然見てませんでした! そんなわけで決戦前々夜精神統一のありがとう配信をします」

 

 コラボの詳細とは

 タイトル詐欺

 コラボから逃げるな

 

 うるせぇ~~~しらねぇ~~~~!!!

 毎日毎日雑談配信してこっちは疲れてんだよ! オマケに学校ではリア充に絡まれるし!

 今日くらい自分からちやほやされにいく配信してもいいでしょ!

 

「まあそんなわけで2万人ですよ、2万人。デビューしてから1週間? 2週間? 3週間? よくわからんけど我ながらすごいと思う」

 

 すごい(小並感)

 語彙がタヒんでる

 小学生の方がかしこい

 雑談配信のし過ぎでトーク力が落ちちまったんだ…

 

「誰が小学生か!? 高2やぞ、花のJKやぞ、クラスの人気者やぞ!」

 

 最近の視聴者はわたしを舐めている気がする。

 最初の頃はあった遠慮というものが日に日になくなって全力でイジってくるのだ。

 ん? 遠慮、あったか……?

 

 と、ともかく!

 こんな視聴者ばっかりだが感謝しているのは本当だ。

 ついつい口から失言が溢れても笑ってネタにしてくれるし、個人的にはそんなに面白い配信をしているつもりはないけどなんだかんだ毎日付き合ってくれる。

 変な人が多いけどいい視聴者たちだ。

 

 まあ、それを言うと調子に乗るから口にはしないけどな!!!

 

「じゃあ恒例のマシュマロいくどー」

 

 

                                  

こんばんにゃー

黒猫さんはゆいままと仲がいいですけど、

他のライバーさんとはお話したりしてますか?

 

 

マシュマロ

❏〟

 

「お話……?」

 

 あっ

 なんで拾った

 他の同期は徐々にコラボ増えてるってのに悲しいなぁ

 

「まあ、まあまあまあ。……ところでね、今日学校でクラスメイトに遊びに誘われたんですよ。これ長年の疑問なんですけど、人を誘うのってどうやるんですか?」

 

 ?

 ??

 ???

 

 コラボは誘うか誘われないと成立しない。

 わたしの過去コラボは全部夏波結が持ってきたもので、未だに彼女以外へ自発的に声をかけられた試しがない。

 精々がデビューの時に先輩と同期へ挨拶チャットを送ったときぐらいだろうか。

 だから誘い方がわからないし、そもそものチャットの第一文が分からないのだ。

 

「なんであんなにリア充は気軽に誘ってくるの? 仲良くないのにカラオケ行こうとかコミュ力おばけじゃん……」

 

 こじらせ過ぎでは

 正直わかる

 黒猫さんかわいそう…

 

 まずカラオケってのが何よりハードルが高い。

 歌っている間は喋らなくて済むからコミュ障的には助かる空間なのでは、と思われるかもしれないが決してそんなことはない。

 そもそもコミュ障は人前で歌うことができないから。

 相手が仲良いか悪いかなんて関係なく、人前で歌うという行為そのものがコミュ障にとってはなかなか難しい行為だ。だって、恥ずかしいもんな!

 

 歌ってる間こっちをじーっと見たり聞かれたりするのだ、オマケに腹の底で音痴だなとか思われたりするのだ、そりゃ顔から火が出るような思いだ。

 言葉でコミュニケーションを取れないだけがコミュ障ではないと声を大にして言いたい!

 

 あれ、誘い方の話してたのにいつの間にかカラオケ談義に?

 

「リア充の謎が深まったところで次行きます」

 

 コラボ案件消えたままで草

 誰か誘ったげてくれ

 

                                 

    にゃおっす!    

性癖語って!

 

マシュマロ

❏〟

 

「キミたちねぇ、こういうセクハラマロ多すぎなんだよ。別に私は気にしないけど他のライバーさんに送るとき、ホントに送ってもネタとして消化してくれる相手か考えなよ? 特にゆいままの見た目がビッチっぽいからって理由だけで送ったら承知しないからな!」

 

 お前がセクハラしとんじゃい!

 一番の被害者はゆいゆい

 燦? 夏波 結✓

 

「ひぇ……」

 

なんで夏波結はいつもわたしの配信内容を把握しているのかと思ったら単純な話で、いつも監視されているらしい。

らしい、というのはちゃんと本人の口から聞いたわけではなくて推測でしかないのだが。

 

「え、えっと! 性癖ね、性癖。うーん……時間停止、催眠洗脳、調教されるやつ、あとは」

 

 アウトォオオオ!!!

 ストップ!一旦落ち着け!

 嘘みたいだろ女の子なんだぜこの子

 花のJKとは

 オッサンじゃん

 

「誰がおっさんじゃい! リアルJKぞ!?」

 

 JKだから問題なんだよなぁ

 性癖ってよりただのエ◯同人

 好みが受け身により過ぎてる

 なるほど!

 

 そういうマシュマロが多かったから応えただけなのに散々な言われようである。

 心にオッサンを飼ってるとかあるてまの汚れ枠とか言いすぎでは!?

 

「じゃあこれ」

 

                             

     早く引退しろ     

 

マシュマロ

❏〟

 

                             

   こんなマシュマロ読むぐらい暇なの?   

引退したら?

 

マシュマロ

❏〟

 

                             

    コミュ障コミュ障うるさい    

引退しろ

 

マシュマロ

❏〟

 

「うん、こういうのとても多い。とても」

 

 記念配信にそんなマロ拾わなくても

 毎秒デビューしろ

 

「見てたら正直泣きそうな内容とかあるけどね。けど不安な時とかこういうマシュマロ読むと気持ちが落ち着くよ」

 

 ちやほやされたいとは常々言ってるけど、だからって皆が助けてくれてうまくいってる現状や全肯定な感想ばかり読んでいると、たまに言いようのない不安に駆られる時がある。

 プレッシャーというやつだろうか、ある日突然足元が崩れ去って真っ逆さまに転落したらどうしようとか、そんな感情。

 けどそういうときはアンチ系の感想を読むと肯定と否定がバランス良く均衡して精神が安定するのだ。

 やはり陰キャには明るいものより暗いほうが落ち着く作用があるのかもしれない……。

 

「まあ、だからありがとうございます。過激な内容は控えて欲しいけど、ちょっと手厳しい感想は冷水ぶっかけられるみたいで冷静になれます」

 

 これがさっきまで性癖暴露してたライバーか?

 俺ももっと厳しいこと言うね……

 冷水ぶっかけて冷静になっても炎上して燃えまぁす!

 

「全部厳しい意見になったら普通に凹むからやめてくれよな! 次!」

 

                                  

【燦との出会い】

ある日一匹の子猫を見つけた。艶やかな毛並みの黒猫だ。

ダンボールに入れられてにゃーにゃーとか細く鳴き声をあげる子猫を見ていると、ペット禁止のアパートに住んでいるのに僕が保護してあげなきゃという気持ちにさせられた。

そっと近寄り抱き上げる。

ダンボールに入れられていたということは元は飼い猫なのだろう。そんなに人懐っこくはないのか、腕の中で子猫がジタバタと暴れている。

爪や牙がシャツ越しに肌を傷つけるが、それでも僕は決して抱く力を強めず、

「大丈夫だよ…」

と静かに語りかけた。

やがて疲れ果てたのか、それとも僕の思いが届いたのか黒猫は大人しくなった。その顔は諦めたような、しかしどこか安心を感じさせるもので僕は咄嗟に子猫へ名前をつけていた。

「燦、きみは今日から燦だ」

陽の光を受けて輝く黒の毛並みは彼女の名前にピッタリだと思った。

燦は短く「にゃ」と返事をするとすやすやと僕の腕の中でねむりはじめた。その顔はどこか満足気であったと、僕は思う。

 

マシュマロ

❏〟

 

「なげぇよ!!! 人のマロにSSなげんなし!!!!」

 

 草

 草

 続きはよ

 ご、ご主人〜

 

 嫌でも目につくわ!

 熱烈ファンによる長文褒めかなと思ったらただのSSだよ!

 確かに熱烈ファンだが求めてるものと違う……っ!

 

「つぎ最後にしよう。適当に新着の一番上から選ぶよー」

 

                         

   コラボの詳細決まった?   

 

マシュマロ

❏〟

 

「決まってない!!!!! 終わり!!!!!!!」

 

 

この放送は終了しました

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 #黒猫さんの時間

【最終調整】コラボ詳細決めるから集まれ【あるてま/黒猫燦】

  21,023 人が視聴中・41分前にライブ配信開始
 
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 黒猫 燦 
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