美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:煉瓦
そして季節は巡る。
なんと今日から2年生である。
この1年、本当に色々なことが……無かった。
そう、皆様のご想像通り。わたしはまたしても、毎年の如く。何かしようどうにかしようと考えながらも高校1年生の期間を無為に過ごしたのである。
友達? いないね。
恋人? ハハッ。
入学式のあの日、クラスの大半が参加したカラオケで既にグループ分けは終わっていたのだ。あのイベントに参加できなかった時点でわたしは自分が属するべきグループを見つけられず、かと言ってクラスの端にいる陰キャグループに混ざる勇気もなくふわふわとボッチライフを過ごさざるを得なくなった。
が、それも今日までだ。
進級でクラス替えをすれば友人関係は一旦半リセットされるのが定説。
ここで挽回しなくちゃあと2年、一番の青春ゾーンは灰色まみれになること間違いなしだ。
「はい無事進級おめでとさん。俺もあと2年お前らの顔見なきゃいけないと思うと涙が出るねぇ」
1年の頃の担任である、臥れた中年ヒゲおじがそんなことを言いながら教室へ入ってきた。
「まあ全員分かってると思うが、うちの学校は3年間クラス替えはなしだ」
え。
聞いてないんですが。
◆
『こんきりん〜。あるてま所属のバーチャルミャーチューバー、来宮きりんだよー』
画面の向こう側に美少女がいる。
それはリアルな人の形をしたものではなく、Live2Dと呼ばれるイラストをアニメーション化させたものだ。
2018年現在、オタク文化はバーチャルミャーチューバーによって新たなステージへと昇華していた。
『今日はねー、収益化おめでとう配信をしまーすパチパチー』
『わっわっ、スパチャありがとうございます! 名前全部読もうと思ってたのに、どーしよ早すぎて追いつけない』
『ありがとうございますありがとうございます! って、うわ!? 無言で5万円!? いいの!?』
秒でスパチャが流れていく。
その勢いは天井知らずで、少なくともあと10分はチャット欄がスパチャでカラフルに埋め尽くされたままなことは想像に難くない。
こんなに投げ銭されてもライバーの手元に入るお金は良くて2割から3割、最悪固定給なんだろうなぁと思うと得も言われぬ気持ちになる。世知辛いなぁ。
きりんちゃんの配信を聞き流しながら無駄に多い課題をコツコツと片していく。時折イヤホンから聴こえる声に集中し過ぎて手が止まるのはご愛嬌だろう。
それにしてもまさかうちの学校がクラス替えなしとは知らなかった。
確かに名前が書かれた貼り紙がなくて違和感を覚えはしたが、もしかしたら旧クラスに集まってそこから発表とか思っていたのだ。
それがまさかクラス替えなしとは……。
クラスの連中はクラス替えがないことに対して、友達と離れ離れにならないことを喜んでいたがわたしのようなボッチからすればむしろお前ら離れろ! って気分だ。
離れて友人関係リセットしろよ! そしてわたしと仲良くして!
まあ、過ぎたことは仕方がない。
大事なのはここからどう行動するか、だ。
流石のわたしもそろそろ灰色青春生活はヤバいと思っている。
というのも、昔はスラスラと会話が出来ていたのに、ここ数年はロクな会話をしてこなかったせいで喋ると言葉が詰まるようになってきた。
話し始めとかも「あー」とか「えっと」とか「その」とかまず一呼吸挟みがち。簡単に言えば声帯が退化してコミュ障になっていた。
これはヤバい。
人生イージーモードどころか前世より悲惨になっている。
最後に人の目を見て喋ったのはいつだろうか……。
取り敢えず小林くんを相手にトークスキルを磨こうか。
しかし相手は常に女子や男子に囲まれているクラスの人気者だ。今更話しかけて取り巻きから変に恨みを買うより、教室の端にいるオタク連中に混ざるほうがいいかもしれない。
けどなぁー、これでもわたし一応女の子だしなぁー。自慢するけど見た目だけは本当に美少女だしなぁー。おっぱいおっきい黒髪ロングのおとなしい美少女とかオタク大好きじゃん? そうなるとわたしってサークルクラッシャーみたいな存在になるわけで。かぁ〜困った! コミュニティを崩壊させたいわけじゃないしなぁ〜。
『で、最後に告知があります! 来週土曜日21時から、同期の世良祭ちゃんと初のオフコラボがあります! お泊りもしちゃうので皆さんお楽しみに!』
まつきりてぇてぇ
『そして! さらに! もう一つ重大告知です! な、なななんと! 私も所属しているバーチャルミャーチューバーグループあるてまの2期生を募集しちゃいます! 募集要項はバーチャルミャーチューバーになりたい! ただそれだけ! みんなのご応募、待ってるよー』
は?まじ?は?きりんちゃんに会えるの?
落ち着けお前らwあるてま所属なってもきりんちゃんに会えるわけじゃないしw
きりんせんぱい…?
きりんちゃん先輩、イイ……
公式サイト落ちてるんだが?
『あ、鯖落ちごめんなさい! また後で公式つぶやいたーの方でも詳しい説明があると思うのでしばらく待っててね! じゃあそういうわけで、ばいばーい』
こ れ だ。