恐竜絶滅の原因は、今からおよそ6600万年前にメキシコのユカタン半島に巨大隕石が落ちたため、というのが定説です。直径10キロほどの隕石が地球に衝突したのと同時に、世界中の恐竜が忽然と姿を消しているからです。
長い恐竜の歴史の中でも、6800万年前から6600万年前まで棲息していたティラノサウルスは、まさに隕石衝突の直前まで生きていた種のひとつ。この約200万年間のティラノサウルスの歴史を“保存”している場所が、アメリカモンタナ州北東部に存在します。「ヘルクリーク層」という地層です。
ヘルクリーク層は白亜紀の終わり(約6700万年前)から新生代の始め(約6600万年前)までの地層で、主に川の流れによって堆積したもの。この地層には、隕石衝突の痕跡が残されています。
隕石の衝突を境に恐竜時代(中生代)が終了し、新生代が始まりますが、この境界を「K/Pg境界」と呼びます。つまり、K/Pg境界から下の地層からは多くの恐竜化石が発見されているのに対し、それより上の地層からはいっさいの恐竜が姿を消しているのです。
世界で最も有名な恐竜化石の産地であるこのヘルクリーク層について、2011年に興味深い研究成果が発表されました。論文によるとまず、発掘された化石の数から割り出した、白亜紀の終わりにこの一帯に棲んでいた恐竜の数は次の通り。
1位 トリケラトプス 73個体(40%)
2位 ティラノサウルス 44個体(24%)
3位 エドモントサウルス 36個体(20%)
4位 テスケロサウルス 15個体(8%)
5位 オルニトミムス 9個体(5%)
6位 パキケファロサウルス 2個体(1%)
6位 アンキロサウルス 2個体(1%)
(計181個体)
この論文の著者も驚いているのが、ティラノサウルスの多さです。生物学的には本来、獲物となる非捕食者の割合は全体の75%以上、哺乳類に限っては90%以上を占めるのが一般的。そう考えると、獲物を狩る側であるティラノサウルスの24%は非常に高く、当時のモンタナ州にはかなりの数のティラノサウルスが棲息していたことになります。
『ジュラシックパーク』や『ジュラシックワールド』では、ティラノサウルスはラスボスめいた雰囲気で最後に登場しますが、実際には4頭に1頭がティラノサウルスだった可能性があるわけです。
さらにもう少し細かいデータを見てみましょう。この論文では、ヘルクリーク層の下部(より古い時代)と上部(より新しい時代)の比較に言及されています。見つかっている骨格標本を比べてみると、以下の通り。
▼下部(全体で39個体)
1位 トリケラトプス 11個体(28%)
1位 ティラノサウルス 11個体(28%)
3位 エドモントサウルス 6個体(15%)
4位 オルニトミムス 5個体(13%)
5位 テスケロサウルス 4個体(10%)
6位 アンキロサウルス 24個体(5%)
▼上部(全体で33個体)
1位 トリケラトプス 23個体(70%)
2位 ティラノサウルス 5個体(15%)
2位 エドモントサウルス 5個体(15%)
ここからわかるのは、白亜紀末のスタート時には6種類の恐竜が棲息していたのに、終わりになると3種類に減っていることです。
つまりこれだけ見ると、隕石衝突まで頑張れたのは、ティラノサウルス、トリケラトプス、エドモントサウルスの3種類のみ。また、骨格としての数だけで比較すると、隕石が衝突する前からティラノサウルスの比率は減っていることになります。
そこにはどのような理由があるのでしょうか。ティラノサウルスは隕石衝突による大量絶滅を迎えるまでもなく、そもそも滅びる運命だったのでしょうか。ただ、数を著しく減らしていても、ティラノサウルスが隕石を見ていたかもしれません。
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