「中国資本」の大手に対抗する「独立書店」がいま若者に人気の理由

香港デモの中で果たした役割
石井 大智 プロフィール

――独立書店が並べている本についてはいかがでしょうか?

和泉さん「独立書店に並んでいる本は、親中派と言われる聯合出版グループが出すものではなく、基本的には小規模な独立出版社のものが中心です。ベストセラーや大衆本、金融本と言われるものはほとんどなく、似たような書籍ばかりが並んでいる大手書店よりも独立書店の本棚の方が個性があります。中には香港での出版ができず、台湾の出版社が出したものもありますし、新書もあれば古書もあります」

大久保さん「書店スタッフがまず自分で読んで、これは読者に薦めたいという本に『良書』というシールをつけて店頭に目立つように並べている書店もありました。いい加減な本は置きたくないとのこと。例えば歴史的事実に基づかない本とかですね。何でもかんでも新しい本を置いているわけではなく『それが個人経営の独立書店の強み』という書店スタッフの言葉が印象に残っています」

全体主義を批判してきたジョージ・オーウェルの著作に挟まれるもともと日本語で出版された香港デモに関する漫画の中文版。本の配置にもメッセージ性がある。
 

香港デモの中での独立書店の役割

――香港の社会運動と独立書店の関係性についてはどう思いますか?

和泉さん「ここは強調したいところですが、書店を始める人はそもそも本好きな人です。最近は、社会運動と独立書店の関わりは比較的最近強まってきたものだと思います。とある書店では客のリクエストに応えていった結果、現在のような社会運動本や香港研究本が多い書店になったそうです」

大久保さん「私の仮説は、香港で社会運動が盛んになるにつれて、書店の経営者や店員が『デモに対して書店は、何ができるだろう』と考え、社会運動を取り扱った本を多く置くようになったというものです。そこから『民主派寄りの本を出版する出版社を支えていこう』とか『うちは直接的に社会運動にもかかわっていこう』という姿勢が生まれるようになったとも考えられるかと思います。最近は社会運動に積極的に関わってきた人が開いた書店もあるので例外はあると思いますが」

――社会運動との関わりは後でついてきたという感じですね。では、書店が社会運動に積極的に関わったことがわかるようなエピソードはありますか?

大久保さん「デモが頻発した銅鑼湾から湾仔にかけての大通り沿いにある独立書店の店員さんはインタビューに対し『デモの時には、ちょっと歩き疲れた人が登ってきて休憩のついでに本を読んでいく』という説明をしていました。ただ、この書店はそうしたデモの時に大きな垂れ幕を窓から垂らすなど、社会運動への積極的な支持を表明していたのです。この書店では、『これまでは本を読まなかったのに、社会の混乱の中、精神的支柱として思想書を読もうとする若者も増えた』という声も聞きました」