ここ数年、香港では「独立書店」への人気が若年層を中心にじわじわと広がっている。独立書店とは大手書店グループに属さない個人経営の小規模な書店のことだ。
香港の大手書店の多くは、中央政府の香港での出先機関である中連弁(中央政府駐香港連絡弁公室)と資本関係を持つ聯合出版グループのもとにある。
しかし、近年いくつかの独立書店・独立出版社が新たに生まれ、書籍の内容や政治的姿勢で大手書店にはない独自色を出そうとしている。
今回、筆者は香港の独立書店への取材を続けている編集者の和泉日実子さんと翻訳者の大久保健さんに話を聞いた。
香港在住の日本人である二人は、東京神保町で中国関連の書籍を専門とする東方書店のウェブサイトに香港の独立書店についての連載コラムを執筆している。
インタビューを通して、香港における独立書店が、台湾の独立書店のような読書文化をはじめとした文化発信の場であることにとどまらず、昨年から続く社会運動の中でどのような役割を果たしているのか明らかにしていきたい。
――香港において独立書店とはそもそもどのようなものを指すのでしょうか?
和泉さん「香港でよく見かける書店は聯合出版グループ傘下の三聯書店・中華書局・商務印書館で、このグループの出版社と書店が香港の出版業界のシェアの大半を占めています。一方で独立書店というのは、個人経営の書店のことを指します。現在香港には40店ほどあります」
大久保さん「個人経営中心の独立書店は家賃の高い香港では路面店を出すことができず、ビルの2階以上にあることから、もともと二樓書店や樓上書店と呼ばれていました。独立書店という言い方は中国資本であるとされる聯合出版系の書店と対比させたものと言えるかもしれません」