少子化対策 雇用安定こそ最優先に
2020年10月22日 07時49分
菅義偉政権が、少子化対策の議論をスタートさせた。解決すべき対応策を掲げてはいるが、どうしたら少子化に歯止めをかけられるのか、その根本にある課題に向き合っていないように見える。
全世代型社会保障検討会議が首相交代後初めて開かれた。団塊世代が七十五歳になり始める二〇二二年に向けて制度見直しを議論するため、安倍晋三前政権が設置した会議である。菅首相は少子化対策を取り上げ、政権が重要政策に掲げる不妊治療の保険適用や、待機児童の解消、男性の育児休業取得促進を示した。
首相自身が「安心して子どもを産み育て、女性が活躍できる社会を実現する」と言うように、いずれも進めるべき対策ではある。
特に、待機児童対策は二〇年度にゼロを目指していたが、達成が困難になった。政府は今後四年間で約十四万人の受け皿拡大を目指す方針を示すが、早急に解決すべき課題だろう。
ただ、これらの対策は主に出産・子育ての問題に直面している既婚者への支援だ。少子化の根本的な問題は、若い世代が結婚を思いとどまる現状にこそある。
家庭を持つには安定した雇用や収入が必要だが、非正規雇用の増加がそれを阻んでいる。就学や就労などを巡る女性差別もなくならず、社会的な自立が困難な状況がなかなか改善しないことも、少子化に拍車をかけている。
さらに、コロナ禍で非正規の雇用も脅かされている。自治体が受理した妊娠届が昨年より減っている実態が明らかになったが、雇用情勢の悪化も影響したのだろう。
日本世論調査会の調査では、必要な少子化対策として「非正規の待遇改善」を求める人が44%(複数回答)と最多だった。多くの人が共有する思いではないか。
社会保障制度を巡っては、若い世代が将来も安心して生活できるような見直しとともに、労働環境整備などの議論も急ぎたい。
もう一点、指摘したいのは財源問題だ。例えば新たな保育所整備。約千五百九十億円が必要と見込まれ、その確保のため現在子育て中の保護者が受け取る児童手当を巡り、一定所得以上の世帯への給付を廃止する案が出ている。給付廃止は公助である子育て支援を後退させかねない。
首相は今後十年間は消費税を増税しない考えを示すが、少子化の流れを根本から変えるには、税制の在り方を含めた財源確保の議論を早急に始めることも必要だ。
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