「中国資本」の大手に対抗する「独立書店」がいま若者に人気の理由

香港デモの中で果たした役割
石井 大智 プロフィール

――最後に、社会運動の中で大手書店と比較して独立書店はどのような役割を果たしたと思うのか、お考えをお聞かせください。

和泉さん「独立書店は『親中派』と言われる大手書店が扱わない民主派寄りの本も扱うので、雨傘運動以降は雨傘運動関係の本を読みたいという人たちのニーズがあって、特に若者たちが独立書店に足を運ぶようになったと聞きます。2015年以降、社会運動によって独立書店が活性化し、緩やかながらも年々盛り上がっているような気がします」

大久保さん「そういえば、聯合出版グループは本の流通会社も持っています。独立系出版社が出しているような政治的に敏感な本はこうした大手の書籍流通会社は扱いません。だから、独立出版社の社長がスーツケースに本を入れて自ら独立書店に配送に行くという例もあります」

――独立書店と独立出版社が大手書店の中では生じ得ない出版言論空間を作り上げてきたとのことですね。ありがとうございました。

独立書店の中には中国本土では販売できないような反中国共産党・反体制的な書籍もある
 

大手書店の「独占」を打ち破る

インタビューからは、香港の独立書店が台湾と同様に既存の大手書店のあり方に捉われず、様々な形で文化発信の拠点となってきたことがわかるが、政府の助成金で独立書店が増加した台湾とは異なり香港の独立書店と政府の距離は近いとは言えない。

このような独立書店は香港で次々と生まれているが、書店数が増えてもお互いをライバルとして見なすのではなく、独立書店同士で店長の一日交換をするなど全体で独立書店文化を広めていこうという動きがある。

独立出版社が集まって小さな書展を開いている様子

そこに昨年からの香港での大規模な社会運動という文脈が加わり、出版ビジネスの大半を支配している体制寄りの大手書店では扱わないような民主派寄りの書籍を読者に届ける場にもなった。

香港国家安全維持法は香港の様々な場所に「萎縮」をもたらしているが、このような香港の独立書店がこの香港の新たなフェーズにおいて、どのような役割を果たし、どう生き残っていくのか注目していきたい。