「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は、地域に分断をもたらしたり、軍事的な緊張を高めたりするものであってはならない。対話を重んじる地道な外交努力こそ、日本が果たすべき役割だ。
菅首相が就任後初の外国訪問で、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のベトナムと、地域の大国インドネシアを訪ねた。いずれも政権が、FOIPを実現するうえで重要なパートナーと位置づける国だ。
首相はきのうのジャカルタでの会見で「南シナ海では(FOIPに)逆行する動きが起きている」「日本は南シナ海の緊張を高めるいかなる行為にも反対する」と述べた。ベトナムでの政策演説でも強調した点だ。
名指しは避けたが、念頭にあるのは中国である。その強引な海洋進出に、日本を含め、多くの関係国が懸念を深めている。
両国との首脳会談では、コロナ対策への支援や経済協力に加え、安全保障分野もテーマとなった。ベトナムとは防衛装備品の移転に関する協定で実質合意し、インドネシアとは外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の早期開催で一致した。
ただ、中国との決定的な対立は両国とも望んでいまい。ASEAN諸国は政治体制も文化も様々で、中国との距離感は一様ではない。米中の覇権争いが激しさを増すなか、どちらにつくかの選択を迫られれば、地域がまた裂きになりかねない。
ASEANが一体性を保ちながら、地域の安定と繁栄に中心的な役割を果たしていく。それを支えることが、日本外交の目標であるべきだ。
一方で、菅政権は発足から1カ月余り、中国を意識した安保協力の強化を矢継ぎ早に打ち出している。日米豪印4カ国外相会談の定例化に続き、安全保障関連法に基づいて自衛隊が他国軍の艦船などを守る「武器等防護」の対象に豪州を加える方針も固めた。日米印が毎年行っている海上共同演習に、今年は豪州の参加も決まった。
中国を牽制(けんせい)する狙いは明らかだが、軍事への傾斜を強めれば対立が先鋭化しかねない。
首相はきのうの会見で「(FOIPは)特定の国を対象としたものではない」「(中国が反発する)インド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)をつくる考えは全くない」と言明した。南シナ海をめぐる問題でも「すべての当事者が力や威圧によらず、国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することが重要」と語った。
力や威圧によらず――。その言葉は、FOIPの実現をめざす日本自身もまた、心に留めねばならない原則である。
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