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兇手死侠 作者:忠行
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雪山血烟

 兇手死侠デスブレイブと称するアメコミ男を蜂の巣にすべく、56式自動歩槍から放たれた銃弾はしかし、彼――兇手死侠の体には一発もあたらなかった。


「まだ銃なんて使ってるのか、原始的だな。遅れてるぜ」


 手にした刀を風車のように旋回させ、銃弾を一発も残さず弾き飛ばしている。


「あ、今の科白『ブラックパンサー』のオコエが槍で敵を瞬殺するシーンの真似ね。だが俺の武器は槍じゃない。刀だ」


 瞬時にして間合いをつめて、一閃。

 胴を両断された骸がひとつ、できあがった。

 切断面からあふれ出た赤黒い臓物が純白の雪を血で汚し溶かす。


「ちゃ、着剣!」


 彼らは辺境の警備隊にしてはよく訓練されていた。非武装の人民を虐殺する性根の腐った輩ではあるが、兵士としては弱くはなかった。白兵戦の距離になったと判断した隊長の命令に速やかに銃剣を装着する。


シャア!」


 銃剣による刺突をかがんで避けると同時に斬り上げる。銃を手にした両の腕もろともに首が斬り落とされた。


「いいね。ドンパチするよか、そっちのほうがよっぽどかっこいいよ。でも死ね」


 兇手死侠の身体が颶風と化す。

 右、左、右、左、右、左――。

 左右の片足を交互に軸にして回転を繰り返し、その遠心力を利用して連続斬りを放つ。


「ぎゃあ」

「うぎゃ」

「げふっ」


 四肢や首を断たれた死体の山ができあがる。

 中国武術ウーシューにはない、倭刀をもちいた疾風迅雷の絶技。この男は、夷狄の武器と技をもちいて中国人を殺しているのだ。


「わ、我ら中国共産党に、人民解放軍に刃向かってただですむと思うなよ!」

「ただですまねぇのは言論の自由もなく、少数民族を弾圧し、自国民を平気で戦車で轢き殺すてめぇらの国だ! 野党も議会もない一党独裁体制の国が長続きすると思うなよ」


 最後のひとり――隊長の首が兇手死侠の振るう刃に斬り飛ばされた。


「毛沢東は『夷をもって夷を制す』と言って日本と米英を戦わせた。たいした策士だぜ。二虎競食、借刀殺人の計てやつだ。だが『俺は夷をもって漢を殺す』だ」


 無論この場合の『漢』とは漢王朝や漢民族のことではない。

 漢王朝はすでになく、純粋な漢民族はもはや客家はっかなど、小数のみだ。

 この漢とは、国を指している。

 共産党の支配する中華人民共和国を。


「俺はこれから中国共産党の連中をひとり残らずぶち殺す。ひとり残らずだ!」


 兇手死侠の雄叫びが血臭ただよう雪山にこだました。

 作中で中国には議会がないと言っていますが、実際は全国人民代表大会がそれにあたるかと。

 開催中はインターネットが規制されるらしく、LINEのやり取りもできなくなると中国の人が言っていました。

 こわい国だなぁ。

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