序
まいん先生に対するあれやこれがマジムカついたんで書きました。
人類の歴史上、もっとも中国人を殺しているのは毛沢東と張献忠。どっちですかね。
中国チベット自治区とネパールの国境地帯。標高五〇〇〇メートル以上の山中を、一〇〇近いチベット人が一列になり登っていた。
男、女、老人、子ども――。
彼ら彼女らは中国の国境警備隊の目を避けながら、ネパールへの亡命を試みていたのだ。
中国共産党の少数民族に対する弾圧は筆舌に尽くしがたい。
チベットの人たちは思想や宗教を変えることを押しつけられ、少しでも反抗する者は逮捕・拘束され、生爪を剥がされたり、逆さ吊りにされて鞭や棒で打たれたりといった凄惨な拷問を受ける。
民族浄化によって大量の漢人を移住させると共に、チベット人の男は断種、女は人民解放軍の兵士に犯されて妊娠。強制的に結婚させられている。
この世の地獄であった。
「もう少しだ、もう少しで国境を抜けられる! あの樹の先がネパールだ」
先頭を歩いている若い男が声を上げた瞬間、数発の銃声が乾いた音を立てて雪山にこだました。
数人がたおれ、白い雪上を朱に染める。
撃たれたのだ。
悲鳴が上がり、散り散りに逃げ出そうとした人々の足が止まった。濃緑色の軍服を着た兵士たちに囲まれている。
人民解放軍の国境警備隊だ。
「我々の手から逃れられるとでも思っていたのか」
「……」
人々の表情に絶望の色が広がる。兵士たちにくらべて数こそ多いが、彼らは善良な市民であり戦う術も武器も持たない。
武装した兵士たちの輪を突破するのは無理だ。
「向こう側に行きたいか」
「なんだって?」
「国境を越えたいかと訊いている」
「と、当然だ! 私たちはもうおまえたちの横暴な支配には耐えられない」
「本来ならば違法越境者は問答無用で逮捕するところだが、我々にも〝仏心〟がある。そんなに行きたいならば行け。ただしひとりずつだ。それに、三〇を数える間にあの樹を越えられなければ射殺する」
兵士たちの顔に嘲笑が浮かぶ。彼らはあきらかにチベット人たちを嬲るつもりだ。
「……老人や子どもの足で駆け抜けるのは無理だ」
「そうか、なら抵抗せずに縛につけ」
「私がやる」
「ん?」
「私が、一〇秒で樹まで駆ける。そうしたら、みんなも一緒に連れて行かせてくれ」
「一〇秒でだと! はっはっは。おもしろい、やれるものならやってみろ」
足に自信のあるひとりの青年が合図とともに駆け出した。
「
思いのほか、速い。これならば時間内にたどり着けそうだった。
「一〇(シー)!」
本来ならば
地面にたおれ、生き物のように血が広がった。
「なぜ撃った!」
「時間だからさ、おまえら
「嘘だ、約束がちがう!」
「黙れ!」
兵士の銃把が抗議するチベット人の顔に叩き込まれた。
「我々に楯突くのならおまえらこの場で全員処刑する」
「こんふうにな」
怯える子どもに銃口を向けた兵士の顔が、突如として爆ぜた。
熟れた柘榴のように血肉と脳漿が四散する。
「だ、だれだ!?」
「俺様だ」
「ギャッ!?」
声のしたほうに向きを変えようとしたひとりの兵士の首が落ちる。
そこには、白刃を手にした奇妙な装束の者がいた。
赤と黒を基調にしたウエットスーツのようなデザインの服は、まるでアメリカン・コミックスに登場する キャラクターのようで、頭部は京劇で使うような仮面で覆われていた。
白地に赤と黒の
「だれだおまえは!」
「だから俺様。丸腰の人間を後ろから撃つようなやつに名乗る名前なんてねぇよ」
「韓国人か?」
アメコミ男の額にある太極図から韓国の国旗を連想した兵士がそう口にする。
「
その言葉に気分を害したアメコミ男の手が翻ると、兵士の胸に拳大の穴が開いた。一拍の間の後、おびただしい量の鮮血が噴き出す。
銃火器のたぐいを撃ったのではない。
石だ。
そのあたりにある石をひろって投げつけたのだ。
先ほど顔を砕かれた兵士もこれにやられた。
ただの石とあなどることなかれ、投石は飛礫術や指弾。日本では印字打ちと呼ばれる立派な武術だ。
もっともこのアメコミ男の投石は常軌を逸していた。投石機も使わずに銃撃並の威力を発する投石など、聞いたことがない。
「俺を
くるりと向きを変え、虚空を指差す。
「俺の名前は
「う、撃てぇっ!」
音楽が奏でられる代わりに、数十発の銃声が鳴り響いた。