▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
精霊幻想記(Web版) 作者:北山結莉

第四章 再会、その裏で

69/206

第63話 これから先の生活に向けて

「少し突拍子もないことを尋ねます。前世とか、人が生まれ変わるとか、先生は信じますか?」


 落ち着いた声でリオが尋ねた。

 普通ならば耳を疑うような話だ。

 セリアは信じてくれるだろうか。

 少し不安を抱いたが、それを隠し、リオは柔らかく微笑んでセリアを覗き込んだ。

 セリアも大きな瞳でじっとリオの顔を見つめ返す。


「……信じるわ」


 一瞬の沈黙、だが、即答だった。

 その言葉に疑いはない。

 リオにはそう思えた。

 間髪をいれないセリアの返答に、僅かに眼を見開くと。


「ありがとうございます」


 リオは微笑を浮かべて礼を告げた。


「俺達が初めて会った頃、先生は俺に違和感を抱いたんじゃないですか?」

「……そうね。たかだか七歳にしては異常なくらいに落ち着きすぎだとは思ったわ。孤児なのに妙に知識があるし、かと思えば偏りがあってちぐはぐなところも多かったし」


 思い当たる節があるのか、考えるそぶりを見せながら、セリアは答えた。


「当然です。俺には前世の記憶があったんですから」

「前世の記憶……」


 ぼそりとセリアが呟く。


「少し長い話になりますけど、聞いてください」


 リオは語る。

 自分は元々は地球と呼ばれる世界で学生として暮らしていたこと。

 ある日、気がつくとベルトラム王国のスラムで今の自分として生きていたこと。

 前世の記憶を取り戻してすぐにクリスティーナとフローラの誘拐現場に出くわして二人を助けたこと。

 それからなし崩し的に王城で容疑者として捕えられたこと。

 気がつけば王立学院に入学することになったこと。


「後はセリア先生もご存知の通りです」


 言って、リオは小さく肩を竦めた。


「……私と出会った頃は記憶を取り戻したばかりだったってことよね。前世は何歳だったの?」


 黙ったまま話を聞いていたセリアだったが、口元に手を当てて考えるそぶりを見せて、そう尋ねた。


「二十歳です」

「二十歳って、今の私とほとんど変わらないじゃない」


 セリアが目を丸くする。


「まぁ前世の年齢を足すと先生よりも年上になりますね」

「年上……。だから……」


 呟いて、セリアがまじまじとリオを見つめる。

 視線を上から下へ、そして下から上へと戻し、最後にその顔に視線が固定された。

 そうしてじっとリオの顔を見つめていると、リオが不思議そうにセリアの顔を見つめ返してきて。


「っ……!」


 セリアは顔を赤く染めて、リオから視線を逸らした。


「どうかしましたか?」


 リオが不思議そうに尋ねる。


「う、ううん! 何でもない!」


 と、少し上擦った声でセリアが答える。

 セリアは胸の鼓動が急速に高鳴り、全身が熱くなるのを感じた。


「そう……ですか。本当に大丈夫ですか?」


 少し挙動不審なセリアの顔をリオが覗き込む。


「う、うん! 大丈夫よ! ほら、ミハル達を待たせちゃ悪いし、早く話を進めてちょうだい」


 向かいのソファに黙って座っている美春達に視線を移し、慌てた様子でセリアが言った。

 リオも美春達に視線を移す。

 言葉が解らず雅人は不思議そうな顔を浮かべていたが、美春と亜紀は少し気まずそうに笑みを浮かべていた。


「えっと、わかりました」


 僅かに首を傾げて、リオが首肯する。

 少しセリアの様子がおかしいように思えるが、本人が何でもないと言うのならばこれ以上は追及しにくい。

 具合が悪いというわけではなさそうだ。

 咳払いをして調子を整えたセリアを見て、リオは話を元に戻すことにした。


「と言っても俺から語ることはもうないんですけどね。とりあえずは俺が彼女達と同じ言葉を喋れる理由を納得していただけたでしょうか?」

「したわ。この世界に存在しない言葉を操ってあの子達と会話が成立している時点で状況証拠は揃っているし。それに、そうでなくとも……あ、えっと……」


 努めて真面目な顔を浮かべて語るセリアだったが、途中でハッとして言いよどんだ。


「それに?」


 不思議に思って、リオが続きを促すと。


「あ、えっと、リ、リオの言う事なら何だって信じちゃうからね、私。……な、なんちゃって」


 と、顔を赤くして答えるセリア。

 すると、リオは目をみはって、


「えっと……どうも」


 照れくさそうに礼を告げた。

 数瞬の気まずい沈黙が二人の間に降りる。


「えっと、この話は他言無用でお願いします。人によっては異常者と思われかねませんから」


 と、先に沈黙を破ったのはリオだった。


「う、うん。無暗に人に教える話ではないものね。わかったわ」


 セリアもリオの話に合わせるように少し焦ったように答える。


「じゃあ、お願いしますね」

「ええ。それにしても言葉が通じないのは不便ね」


 言って、セリアがちらりと美春達に視線を移す。

 美春達は少し戸惑い顔で笑みを浮かべて応えた。

 目は口ほどに物を言うという格言が存在するが、こうして視線だけのやり取りで交流を図るのは限界がある。

 現状、美春達にとって最優先で行うべきは言語の習得だろう。


「はい。なるべく早く彼女達に言葉を教えるつもりです」

「そうね。私もその方がいいと思うわ。出来ることがあれば協力するから言ってちょうだい」

「助かります。言葉が通じなくともなるべく積極的に会話をするようにしてくれると嬉しいです」

「ええ、そうさせてもらうつもりよ」


 リオだとどうしても日本語でコミュニケーションをとりがちになってしまうが、セリアとならばこの世界の言語で会話をするしかない。

 セリアの言葉遣いは綺麗だし、良い話相手になってくれるだろう。


「じゃあ少しだけ教えておきたいことがあるので、彼女達と話をさせてください」

「わかったわ」


 頷くセリアに目礼をすると、リオは美春達に視線を移した。


「三人ともごめんなさい。ちょっと話し込んでしまって」


 と、頭を下げてセリアと二人っきりで喋っていたことを謝罪する。


「いえ、何か大切なことを話していたんですよね?」


 柔らかい笑みを浮かべて、美春が答えた。


「はい。どうして俺達が言葉が通じるのか尋ねられてしまって。俺の前世について簡単に説明しました」


 と、リオが事情を説明すると。


「えっと、教えてしまってよかったんでしょうか? その、私達がいなければ教える必要はなかったことですよね? ……ごめんなさい」


 美春が戸惑った様子で謝罪した。

 リオが天川春人であったことを除いて、美春はリオが転生した話を簡単に聞いている。

 そして、いつか聞いてほしい話があるとも言われた。

 それがどんな話なのか、美春には想像もつかない。

 だが、リオにとってはすごく大切で、軽く教える話ではないことはわかる。

 そんな話を自分達の存在がきっかけで他者に話させてしまった。

 それが申し訳なくて、美春はリオに頭を下げたのだ。


「いえ、セリア先生にはいつか話していたかもしれないことですから。これがきっかけになって良かったと思っています。美春さん達がいたからとかは関係ありません。だから気にしないでください」


 美春を不安にさせないように、リオは軽い調子で語りかけた。


「はい……」


 それでもまだ申し訳なさそうに俯く美春。

 亜紀と雅人は、リオの前世について聞いていなかったため、あまり事情を呑みこめていないようで。


「前世って何だ?」


 と、雅人が少し呑気な声で尋ねる。

 横にいる亜紀が「うわぁ、それ聞けちゃうんだ」と少し引きつった声で呟く。

 その反応でリオは二人が美春と同じ勘違いをしていることに気づいた。

 そう、リオが転生者ではなく美春達同じ漂流者であると勘違いをしていることに。


「言っただろ? 俺は日本で暮らしていたって。俺は日本人だったんだ」


 と、簡潔にその勘違いを訂正するべくリオが説明を行う。


「日本人……だったんですか?」


 亜紀が少し呆気にとられたように尋ねる。

 リオは傍目から見ると純粋な日本人には見えない。

 顔つきは東洋と西洋の血が入り混じったようなハーフのようだし、魔道具により髪は灰色に変えてある。

 それに長年のブランクにより操る日本語もどこか発音がたどたどしい。


「そうだよ」


 ぎこちなく笑みを浮かべて、リオは頷いた。

 少し遠くを見るような目つきで亜紀の顔を眺める。


「……」


 亜紀も黙したままリオの顔を見つめた。


「だから日本語を喋れたのか。ずっと外国人か何かだと思ってたわ」


 亜紀の隣にいる雅人が腑に落ちたような表情を浮かべた。


「確かにこの顔は日本人には見えないよな。けど本当の髪の色は黒なんだ」


 言って、リオは首飾りを外した。

 瞬く間にその髪の色が灰色から黒へと変化する。


「おぉ! それも魔術か何かなのか?」


 雅人が目を輝かせる。


「ああ、魔道具って言ってね。この首飾りに魔術が内蔵されているんだ。これには髪の色を変える魔術が込められている」

「へぇ、本当に便利だな。魔術って」


 と、感心したように唸る雅人。


「ああ、きちんとした知識があれば色々とできるよ」

「いつか俺にも魔術を教えてくれよな!」

「先にこの世界の言葉を覚えないといけないけどな」

「あー、うん。そっちが先だよな……」


 雅人が苦い表情を浮かべる。

 この様子だとあまり勉強を好きではないようだ。


(大丈夫かな? 術式ってかなり複雑なんだけど)


 そんなことを考えながら、渇いた笑みを浮かべ、リオが雅人に答える。


「それはそうとみんなに伝えておくことがあるんだ」


 少し含みがある視線を送り、リオは三人に語りかけた。

 美春達の意識が自分に集まったのを確認すると。


「おそらくだけど、みんなの知り合いが何をしているのか見当がついた」


 と、そう言った。


「ほ、本当ですか?」


 亜紀が驚きの声を上げる。


「ああ、確信は持てないけどね」

「お兄ちゃん達は何をしているんですか?」

「勇者……かな」


 端的にその答えを示すリオ。


「……え?」


 亜紀は耳を疑った。

 いや、亜紀だけではない。

 美春と雅人も亜紀の隣で目を丸くしている。


「勇者だよ。君の……お兄さんと沙月さんと言ったかな。その二人はおそらく勇者としてこの世界に召喚されている」

「勇者……」


 呆然と亜紀が呟く。


「勇者ってゲームに出てくる主人公だよな? マジで?」


 雅人が僅かにひきつった笑みを浮かべて尋ねた。

 俄かには信じがたい話だ。

 無理もない反応だろう。


「たぶんね。現状だと可能性が一番高いと思う」

「まぁ兄貴ならなぁ」


 それもありえるか、と言わんばかりに雅人は唸った。


「で、勇者って強いの?」

「俺も詳しいことはよくわからないけど、お伽話によるとかなり強いみたいだよ。少なくともそこら辺にいる騎士よりは強いはずだ。それに何らかの魔道具でも使っているのか、言葉も通じているみたいだしね」

「ええ、いいなぁ! 勉強する必要がないじゃん!」


 雅人が羨ましそうに声を漏らす。


「そうなるね」


 苦笑してリオが答える。


「それで、勇者は六人いるんだ。たまたま勇者二人の名前を知ることができたけど、君たちの知り合いじゃなかった。残り四人がどこにいるかは俺にもわからない」


 言って、困り顔でリオは亜紀達に視線を送った。

 勇者となるとどこかの国に所属している可能性は高いが、それも絶対とは言えない。

 もしかしたら誰もいない場所に召喚されてそこら辺を放浪している可能性もあるのだ。

 そうなるとそう簡単に見つけることはできないだろう。


(けど、いつまでも家族の安否が不明なままっていうのも不安だよな……)


 大切な人がどこにいるのかわからないという不安な気持ちはリオも痛いくらいにわかる。

 そんな気持ちを抱えてリオは、天川春人はずっと生きてきたのだから。

 だから、リオとしてもできることならばなるべく早く亜紀達を知り合いに会わせてあげたい。


(でも、再会して、そうしたらみーちゃんはどうなるんだ? そのまま別れる……のか?)


 最悪の未来を想像して、リオは急に足場を失ったような感覚に襲われた。

 美春と会えたことが嬉しくて、リオは今の今までその可能性を失念していたのだ。

 そもそも美春にとって貴久という少年はどんな存在なのだろうか。

 もしかしたら恋人なのだろうか。

 そうではないかもしれない。

 けど、リオは直感的に悟った。

 その男は天川春人が高校に入学した時に見た美春の隣にいた人物だと。 


(そういうことか……)


 リオは自嘲めいた笑みを口元にたたえた。

 その僅かな変化を隣からさりげなくリオの顔を覗いていたセリアは気づく。

 だが、セリアは何か言葉をかけるでもなく黙っていた。

 リオが何を思っているのかがわからなかったというのもあるが、美春達の不安そうな視線を受けて、その笑みはすぐに消えてしまったからだ。


「とりあえず俺も情報は探してみるけど、少し気長に待っていてほしい。遅かれ早かれどこかの国が勇者を囲っているのならその存在を公表するだろうから、基本的には待ちの姿勢にならざるを得ないんだ」


 国が勇者を確保したのならば権威付けのために大々的に宣伝を行うはずだ。

 そのタイミングは国次第だろうが、ずっと隠蔽したままということは考えにくい。

 待っていれば勝手に勇者の噂は流れてくるだろう。

 都市に行くたびに噂に耳を傾けていれば聞き逃すことはないはずだ。


「いえ、無理を言ってお願いしているのはこちらですから。お願いします」


 と、亜紀がリオに頭を下げて頼む。


「ああ、わかった」


 答えて、リオは少し寂しそうな笑みを覗かせた。


「さて、とりあえず話しておかないといけないことはこんなところかな。これからは五人でこの家に暮らしていくことになるけど、よろしくな」

「はい。こちらこそよろしくお願いします!」


 美春達も頭を下げる。

 それを受けてセリアも笑みを浮かべて頭を下げた。

 ひと段落したところで、リオがセリアに視線を向ける。


「話が終わりました。それで先生を部屋に案内しようと思うんですが」

「部屋って、個室をもらえるの?」

「ええ、部屋はまだ余っていますから、どうぞ」

「ありがとう。リオ」


 セリアはフフッと嬉しそうに笑みを浮かべた。


「美春さん、申し訳ないのですが、セリア先生の部屋を用意したいので、夕食の用意を任せてもいいですか?」

「はい、任せてください!」


 意気込んだように手を握って、美春が答える。


「お願いします」


 そう言うと、リオはセリアに視線を戻した。


「じゃあ、セリア先生。部屋に案内しますので、付いて来てください」

「うん。よろしくね」


 そのままリビングを立ち去り、リオはセリアを連れて空き室へと案内した。


「この部屋を使ってください」

「わぁ、結構広いのね。本当にこんなに良い部屋を一人で使ってもいいの?」

「はい。基本的に部屋の間取りはどこも同じですから」

「時空の蔵だっけ? つくづく出鱈目な代物ね。こんな立派な家も持ち運べちゃうんだから」


 興味深そうに室内を見渡すセリア。

 快適な空間に申し分はないようだが、同時に驚きを隠せないようだ。


「研究室から持ってきた物で必要な品があればここに出しますけど、どうします?」


 そんなセリアの反応に苦笑しつつ、リオが尋ねる。


「んー、上手く整理すれば全部入りそうね。とりあえず一通り出してもらってもいいかしら?」

「わかりました。一つ一つ出すので、必要な物があれば先に言ってください。配置も手伝いますから」

「ありがとう。それじゃあ――」


 それから、一度、室内の家具を撤去し、リオはセリアの研究室にあった荷物を出していった。

 まずは家具の配置を決め、その通りに設置していくと、魔道具や細かい荷物を出していく。


「この魔道具はどうしますか?」


 黒い水晶型の魔道具を手にしてリオが尋ねる。


「ああ、それは……。そうだ」


 セリアは何かを思いついたような表情を浮かべると。


「リオ、貴方の魔力がどれくらいあるか測ってあげるわ」


 と、少し得意げな表情を浮かべてそう言った。


「魔力の量ですか?」

「ええ、私が開発した魔道具でおよその魔力の量を測れるようになったのよ。ちょっとその水晶に触れたままでいてちょうだい」

「ええ……」


 自分の魔力総量に興味を覚え、リオは言われるがまま水晶に手を触れさせた。


「『計測メジャー』」


 セリアが呪文を唱え、魔道具を起動させる。

 すると水晶が光を放ち始めた。


「水晶の光の色と強さによっておおまかだけど魔力の量を測定することができるの」


 自らが発明した魔道具の性能を語るセリア。

 水晶は魔力の量によって黒、白、黄、赤、青、紫の濃淡によって十二段階で色が変化していく。


「ひとつ前のモデルはだいたい宮廷魔道士二百人ちょっとの魔力量が限界だったんだけど、勇者にそれを使ったら測定不能っていう結果が出たのよ。それでちょっと性能を引き上げて倍の四百人分くらいまで測定できるようにしたものを作ったんだけど、これあまり細かい数値を測るのには向いてないのよねぇ」


 多量の魔力を測れるようになった代償として、細かな数値を測るのには向いていないのがネックなようだ。

 しかし、現状だとセリアの手元にあるのはこれ一台なので、リオの魔力はこれを使って測るしかない。


「まぁこれしかないから我慢して。宮廷魔道士四百人分の魔力なんて馬鹿げた……え?」


 薄黒、濃黒、薄白、濃白、薄黄、濃黄、薄赤と、セリアが喋りながらも水晶は急速に色を変えていく。

 その変化にセリアが目を丸くする。


「嘘……。濃赤って約百八十人分よ。まだ上がるの……。濃青、二百八十人分……」


 やがて水晶は紫へと色を変え、測定限界値に到達したところで強い光を放ち初期の真っ黒な状態へと戻った。

 唖然としていたセリアだったが、ぎぎぎと顔をリオへと動かすと。


「嘘ぉぉぉ! 測定不能って何よ!」


 叫んで、四つん這いになって地面に膝をついた。


「あはは。故障……ですかね?」


 苦笑しながらリオが尋ねる。


「んなわけないでしょ! 術式の数値をいじって、私が作ったのよ! 故障なんてありえないわ!」


 勢いよく顔を上げて、リオの投げかけた質問を力強く否定するセリア。


「まぁ俺は人間族にしては魔力が多いみたいなんで……」


 人間族にしては魔力総量が多いことは精霊の民の里で指摘されている。

 とはいえまさか宮廷魔道士四百人以上の魔力総量があるとは思わなかったが。


「限度があるわよ、限度が! 私だって人間族にしては魔力はかなり多いのよ。それだってこの水晶で薄白が限界よ! だいたい宮廷魔道士二十人分ってところなの!」


 伊達に魔道の名家と呼ばれているわけでなく、セリアはベルトラム王国でも有数の魔力総量を持っている。

 だが、リオはそんなセリアの少なくとも二十倍以上の魔力を持っているというのだ。


「ま、まぁ、休憩はここら辺で中断して、今は作業の続きをしましょうよ。俺の魔力量についてはそのうちきちんと調べることにしましょう」


 押し倒すかのような勢いでリオに迫るセリアをなだめる。

 現在ここにある装置だとリオの魔力量を測ることはできないのだ。

 議論したところで何かがわかるわけでもない。


「むぅ。まぁ事実は事実だから認めざるを得ないけど……」


 言って、ジトっとリオの顔を見つめるセリア。


「さて、この机はどこに置きましょうかね」


 そんなセリアの視線から逃れるようにリオは作業に取り掛かった。

 その後もリオは十秒ほどたっぷりとセリアの視線を浴び続ける。

 やがて思わずといった感じでため息を吐くと、セリアも作業に加わった。

 小一時間で作業は一段落し、その頃にはセリアもひとまず先の一件を忘れたようだ。

 部屋に設置された椅子に座って、二人は向き合う。


「リオ、本当にありがとうね。一方的に私が貴方に迷惑をかけてしまうことになるけれど、私にできることなら何でもするわ。必要なことがあったら言ってちょうだい」


 と、柔らかい笑みを浮かべてセリアが言った。


「いえ、先生はどっしりとこの家で構えていてください。俺は少しあちこち動き回るかもしれませんが、頻繁に帰って来るようにしますから」

「そう……。わかったわ。これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします。外を出歩けるように、近いうちに髪の色を変える魔道具を作っておきますから」

「あ、今、リオが使っている魔道具ね。たしかに髪の色が違うと印象はだいぶ変わるものね。お願いするわ」

「はい。出来あがったら身の回りの物を買いに都市に行きましょう」

「ええ」


 などと、二人が話し合っていると。


「ハルトさん。夕ご飯ができましたよ」


 開きっ放しになっていた部屋の扉から顔を出して、美春が声をかけてきた。


「すみません、美春さん」


 リオが顔をほころばせて返事をする。

 その隣でセリアはさりげなくリオの表情を窺っていた。


「セリア先生、夕飯ができたみたいなので頂きましょう」

「あ、うん。御馳走になるわ」


 リオに声をかけられ、セリアがサッと笑みを浮かべて答える。

 その時、チラリとセリアと美春の視線が重なった。

 ニコリと笑みを浮かべる美春。

 それに応えるようにセリアも笑みを浮かべる。

 そんな二人のやり取りを見て、何か通じ合うものがあるのかとリオは思った。

 僅かに首を傾げると。


「じゃあ御馳走になりますね、美春さん。セリア先生、行きましょうか」


 リオは小さく笑みを浮かべて二人をダイニングへと促した。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
2019年8月1日、精霊幻想記の公式PVが公開されました
2015年10月1日 HJ文庫様より書籍化しました(2020年4月1日に『精霊幻想記 16.騎士の休日』が発売)
1zz3kkd355xpm5bweihom0enh4oy_2od_1ki_ei_
精霊幻想記のドラマCD第2弾が14巻の特装版に収録されます
1zz3kkd355xpm5bweihom0enh4oy_2od_1ki_ei_
2019年7月26日にコミック『精霊幻想記』4巻が発売します
dhfkla18gzzli447h146gycd5dkb_171g_b4_fs_
h111hou33vapjf5pqob65l1a6q5_jen_wh_mz_61
「読める!HJ文庫」にて書籍版「精霊幻想記」の外伝を連載しています(最終更新は2017年7月7日)。
登場人物紹介(第115話終了時点)
ネタバレありの書籍版の感想はこちらへ

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。