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最終更新: 2018年4月5日

コンタクトレンズと目の病気

はじめに

若い人たちの間でコンタクトレンズに起因する角膜感染症が増えています。
コンタクトレンズを使用している人は、今や1,500万人ともいわれています。
すでに私たちの生活では、なくてはならない存在となっているのですが、同時にコンタクトレンズに伴うトラブルもじょじょに増えていることもわかってきました。
以前は、角膜感染症は高齢者の病気でしたが、最近は、20代や30代の若い人たちにも同じぐらいの頻度で生じていることがわかってきました。しかも、若い年代におこる感染症のほとんどは、コンタクトレンズに起因し、しかも2週間タイプの頻回交換型コンタクトレンズを使用していたこともわかっています。そして、通常の細菌による感染ばかりではなく、真菌やアメーバといった特殊な微生物が原因である場合もあり、この治療には非常に苦慮すること、そして時に重篤な視力障害をきたしてしまうこともあります。
コンタクトレンズは、屈折異常に対して、眼鏡に変わる矯正方法として非常にすぐれた手段の一つですが、間違った使い方をすると、とんでもない問題も起こしかねないものとも言えます。とても身近になっているものだからこそ、正しい知識をもって対応しなければならず、私たち眼科専門医がしっかりと経過観察をしていかなければならないものの一つであると考えています。そこで、コンタクトレンズに関係する周辺をわかりやすくまとめて解説していくことにしました。

 

角膜に対する涙の役割

コンタクトレンズは黒目(以下、角膜)にのせて使用します。
角膜は、厚さが約0.5mmの透明な膜で、目にとってはレンズの役目を果たしている大事なものです。
角膜は涙によって潤されることにより乾燥せず、光をきれいに目の中の導くことができます。また、涙は角膜を含めて目の周りのバイ菌をよける働きも持っています。
更に、角膜に対しては酸素などの必要な要素を供給し、角膜についた傷の修復にも役立っています。

ソフトコンタクトレンズを装着している目の断面図▲

 

コンタクトレンズ使用によるリスク

コンタクトレンズを使用することは、見方を変えると、角膜と涙の複雑で良好な関係の間に割って入っているともいえます。ですから、使い方を誤ると目に障害をきたすこともあります。コンタクトレンズを長い時間、目に入れっぱなしにしてしまったり、使い捨てのコンタクトレンズを所定の期間を過ぎて使用したり、レンズを水道水で保存したことはありませんか。このようなことをすると角膜に傷をつけたり、その傷から細菌だけでなく、カビやアメーバなどによる感染症を引き起こしたり、角膜が濁って視力が落ちてしまうことがあるのです。
また、コンタクトレンズは目の上での涙の循環を妨げて、花粉などのアレルギーの元を目のまわりに滞留させてしまいます。そのため、かゆみを伴うアレルギー性結膜炎を起こしたり、遷延させたりすることがあります。涙の蒸発を増加させるので、ドライアイの原因になることもあります。
コンタクトレンズが目の中で触れているものとして、もうひとつ「結膜」があります。結膜は白目の上だけでなく、まぶたの裏にも存在します。この結膜にコンタクトレンズが常に触れることにより、ときには結膜にブツブツとした増殖(巨大乳頭結膜炎)を引き起こすことがあります。そして、充血、かゆみ、目やに、コンタクトレンズのズレなどの不快な症状をもたらします。このようなことを起こさないために、次のことに注意しましょう。

 

正しくコンタクトレンズを使用しよう

1.
自分の角膜のカーブに合ったコンタクトレンズを眼科専門医に選んでもらう。
2.
レンズの保存ケースや保存液の常態を清潔に保ち、レンズの洗浄を含めた手入れを決められたとおりに正しく行う。
3.
コンタクトレンズの種類を、より目に優しいものと交換する。
4.
人工涙液(薬)の点眼などで、角膜に水分の補給をする。

万一、病気になってしまったときは、コンタクトレンズの装用を一時中止し、抗アレルギー剤やステロイド剤、抗生物質などの点眼治療を行います。

 

コンタクトレンズは人工呼吸器と同じ「高度管理医療機器」に分類されるもの

コンタクトレンズは、近視や乱視などの屈折異常を治す非常にすばらしいものです。しかし、目の中に異物を入れているということを忘れないでください。
目の健康のために、コンタクトレンズは購入時から定期的な検診まで、眼科専門医と相談して使用してください。上手にコンタクトレンズと付き合っていくことが大切です。

シリコンハイドロゲル

シリコンハイドロゲルの登場

従来のソフトコンタクトレンズは、HEMAと呼ばれる素材でできていました。この素材は、角膜への酸素の供給を多くするために、含水率をあげるか、コンタクトレンズの厚みを薄くすることで対応してきました。しかし、酸素の透過性は、水の酸素透過係数を限界として、それ以上にすることができませんでしたし、より多くの酸素を供給しようとして含水率を上げると、汚れやすくなったり、乾燥しやすくなることが問題となっていました。
新しい素材であるシリコンハイドロゲルでできたソフトコンタクトレンズは、含水率を低く保ちながら、HEMAよりもはるかに多くの酸素を透過することができるとして、期待されています。
このレンズが登場した当初は、1ヶ月間、目の中に入れっぱなしができるとされるものもありましたが、実際には、なかなか難しく、現在では、2週間での交換型として使用されるタイプが多くなっています。それでも、従来の素材に比較して多くの酸素を透過するので、角膜におこる感染症や、角膜へ入ってくる血管の抑制、角膜の内側の細胞(角膜内皮細胞)の減少の防止などに役立つのではないかと期待されています。また、治療用コンタクトレンズとして、角膜の病気の時や、レーシックの術後などに、治療効果をあげることを狙って、わざと入れっぱなし(連続装用)にする方法で利用します。

HEMAの素材と違い、含水率を下げるほど、酸素をよく通すシリコンハイドロゲルですが、含水率を下げすぎると装用感が悪くなるようです。
チバビジョン株式会社は当初O2オプティクスという名前でシリコンハイドロゲルの素材のコンタクトレンズを登場させました。これは含水率が24%と比較的低く作成されたため、乾燥感や、形状記憶に優れていると期待されました。しかし、硬い装用感になじめない方も見受けられました。新しく発売された、エアオプティクスは含水率を33%に引き上げ、レンズの直径を少し大きくしたことで、装用感が改善されています。

シリコンハイドロゲルの素材は、表面に脂の汚れが付きやすいという難点があるようです。
そこで、メニコン社のプレミオや、チバビジョン株式会社のエアオプティクスは、それぞれにメタンプラズマコーティングなどのコンタクトレンズの表面処理を行い、脂汚れが付きにくい工夫をしています。

 

リピジュアについて

クーパービジョン・ジャパン株式会社から出ているレンズでMPC(リピジュア)をレンズの素材に組み込んだものがあります。
リピジュアはバイオミメティックテクノロジーというものから開発されたそうですが、ヒアルロン酸の2倍の保湿力を持つそうです。
HEMA素材で同じ含水率をもつコンタクトレンズに比較して乾きにくく、汚れが付着しにくい、細菌も付きにくいということから、ドライアイやアレルギー性結膜炎の人へ適していると考えられています。
シリコンハイドロゲル素材に向きがちな中で、このようにユニークで優れた技術を持つものにも目を向けていく必要がありそうです。FDA分類のグループⅡに属します。

 

FDA分類について
従来のHEMA素材のコンタクトレンズの性質の評価は、FDA分類を基本としています。
ワンデイタイプのコンタクトレンズや、トーリックタイプのコンタクトレンズの中には、まだHEMAの素材があり、2週間タイプのコンタクトレンズでも、すべてがシリコンハイドロゲルに変わったわけではありません。
そこで、従来のHEMAの素材のコンタクトレンズについて、その性質や性能をどのように考えているのかについて説明していきます。
HEMA素材のソフトコンタクトレンズは、含水率の違いと、イオン特性の違いによって4つのグループにわけられています。

Ⅰ 低含水・非イオン性

メダリストプラス

Ⅱ 高含水・非イオン性
メダリストワンデープラス
フォーカスデイリーズアクア
ワンデイアクエアプロシー
Ⅲ 低含水・イオン性
Ⅳ 高含水・イオン性
ワンデーアキュビュー
ワンデーアキュビューモイスト
ツーウィークアキュビュー
ロートi.Qアスフェリック
Ⅴ シリコーンハイドロゲル
アキュビューアドバンス
アキュビューオアシス
エアオティクス
ツーウィークプレミオ

一般的には、含水率が高い(高含水)ほど、酸素透過性が高く、角膜への酸素の供給にすぐれ、長時間の装用にむいているといえます。しかし、レンズの厚みが薄ければ、含水率や酸素透過係数が低くても、角膜への酸素透過性がよい場合もあるので注意が必要です。また、含水率が高いと、レンズの耐久性が落ちたり、乾燥感が増加したり、汚れがつきやすくなります。高含水のレンズは煮沸消毒ができません。
逆に、含水率が低い(低含水)レンズは、レンズの厚みが薄くないかぎり、酸素透過性が低いことが多いのですが、レンズの耐久性に優れ、形状保持が良好で装用感がよい場合が多く、また、汚れが付きにくく、乾燥感が強い方へは良い場合があります。
イオン性のレンズは、帯電した汚れが付きやすいという欠点がありますが、実は、ジョンソン&ジョンソン社製のレンズを中心とした2週間タイプの頻回交換型のソフトコンタクトレンズのほとんどは、イオン性のものになっています。

 

レンズ選択の考え方
私たちは、以下を基準としてコンタクトレンズの処方を考えていきます。
今までのレンズで調子がよい場合は、レンズの属しているグループを変えないほうがよいと考えています。

今までのレンズで調子が悪い場合は、どのような不具合があるのかを詳細に分析しながら、レンズの属しているグループを変えることを考えていきます。

乾燥感を和らげるためには、レンズの厚みを厚くしたり、含水率を下げる方向で考えていきます。しかし、どちらも酸素透過性を低下させるので、注意が必要です。一般的には、低含水で酸素透過性が高いシリコーンハイドロゲルレンズが有効のことが多いようです。

汚れやすい人には、シリコーンハイドロゲルレンズは避けたほうがよさそうです。
従来の素材のなかから選択する場合は、親水性・イオン性・高含水(Ⅳ)のレンズを考えていきますが、2週間で白濁してしまうなどのタンパク汚れが強い場合は、低含水・非イオン性(Ⅰ)のものを考えていきます。

アレルギーがある人には、シリコーンハイドロゲルは避けたほうがよい場合が多いようです。油汚れがレンズ表面に付着して、結膜乳頭増殖がなかなか改善されない場合があります。このような症例には、ワンデータイプが一番よく、とくに、リビジュアを採用したレンズの選択などを考慮していきます。

乱視について

乱視は、角膜あるいは水晶体の湾曲が完全な球面でないときに生じてしまいます。


視力の記載の仕方とその意味

「眼科では視力を測定するときに、以下のように記載しています。
1.2×S-4.50D C-1.25DAx180°
このように記載したときは、近視成分として-4.5D(“マイナス4.5ジオプター”と読みます)のレンズと、乱視成分として-125Dのレンズを180度(垂直方向の光をまげて、水平方向の光は曲げない円柱レンズのこと)の方向に入れると、1.2の視力がでてきますよ、という意味になります。」

ここでちょっと難しい話になってしまいますが、角膜と水晶体のそれぞれが作る乱視について説明していきます。


角膜の乱視と水晶体の乱視

前述で紹介した症例(1.2×S-4.50D C-1.25DAx180°)をさらに詳しく調べてみると、この乱視には、角膜からの乱視として、同じ方向(180度)で-1.75Dの乱視があり、水晶体からの乱視として、逆の方向(90度)に(角膜の乱視を相殺する方向として)-0.5Dの乱視があることがわかりました。
すなわち、角膜には、目玉全体の乱視(-1.25D)よりは少し大目の乱視(-1.75D)があり、それを一部水晶体の乱視(-0.5D)が弱める働きをしていて、結果として、-1.25D(=-1.75―(-0.5D))の乱視が残って、目の中へ届いている、という状態でした。

この症例に対するコンタクトレンズの処方はどのようにすべきなのでしょうか。


水晶体の乱視に対して

ハードコンタクトレンズでは?
ハードコンタクトレンズ(HCL)は、その素材が硬いために、乱視用のものでなくても、角膜に存在する少しぐらいの乱視は矯正してしまいます。したがって、このような目にHCLを載せると、角膜の乱視が無くなって(矯正されて)しまい、逆に、水晶体の乱視が自覚されてしまうことが予想されます。しかも、残ってしまった水晶体の乱視は90度の方向の乱視ですから、この方がいままで角膜の乱視のためにマスクされて経験したことのない方向の乱視(90度方向の乱視を倒乱視といい、180度方向の直乱視よりも、より見づらく感じられます)であるために、コンタクトレンズを載せることでかえって見づらくなってしまい、矯正方法としては成功しないことが予測されます。

ソフトコンタクトレンズでは?
ソフトコンタクトレンズ(SCL)は、その素材が柔らかいために、このような角膜に乱視のある目の場合は、乱視用のコンタクトレンズでないかぎり、乱視に対する矯正はできません。
そこで、結論として、この症例の場合は、眼球全体の乱視(-1.25D)を矯正するように狙って、乱視用のソフトコンタクトレンズを選択することが、よく見えるレンズ選択の近道であると考えます。

このように、単純に乱視があるからといって、乱視用のコンタクトレンズを載せればよいというものでもなく、私たちは、症例ごとに、適切なコンタクトレンズを選択しています。

乱視用コンタクトレンズのしくみ
乱視を矯正するしくみ
乱視用のコンタクトレンズは、どのように乱視を矯正しているのでしょうか。
レンズの一部(上下もしくは、左右)が厚くなることで、乱視を矯正しています。最近のレンズのほとんどは、“後面トーリック”といって、角膜に接する面の側に厚みをもたせることで、コンタクトレンズの目の上での安定感や、装用感をよくすることを狙っているようです。
コンタクトレンズは、目の上で、常にある方向(軸)に厚くなった部分が位置していないと、乱視を上手に矯正することができません。すなわち、コンタクトレンズが目の上でくるくると回ってしまっっては、矯正することができないのです。
では、どのようにレンズが回転しないようにしているのでしょうか。

ダブルスラブオフとプリズムバラスト
その方法には、大きくわけて、ダブルスラブオフとプリズムバラストという2通りの方法が考えられています。

ダブルスラブオフ
レンズの上下が薄く、逆に左右が厚くなることで、瞬きのたびに薄い部分が瞼の下へもぐりこもうとする作用を利用して、レンズの回転を防ぐ方法です。
一般的には、装用感がよいのですが、瞼の間の形によってはうまくいかないことがあるので注意しています。レンズの左右に厚みがあるので、構造上乱視の軸が90度である(倒乱視)の方の矯正に適していることが多いようです。

プリズムバラスト
レンズの片方を厚くし、重力を利用してコンタクトレンズの回転を抑えて安定させる方法です。反対側が薄いために薄いほうから瞼の下へもぐりこむ性質を利用しているとも考えられています。
一般的には、瞼の間の形に影響されにくく、直乱視(Ax180°)に対しては、上下方向にレンズの厚みを厚くすることから、プリズムバラストの方が軸の安定がよいと考えています。

ダブルスラブオフとプリズムバラストのミックスへ
さらに、最近では、上述のダブルスラブオフやプリズムバラストのそれぞれのよいところをとったデザインのレンズも出てきているようです。例えば、メニコン社からでているプレミオトーリックレンズは、基本的な形がダブルスラブオフでありながら、左右の厚みの領域を上のほうで少なめに、下のほうで大目にすることでプリズムバラストのよさもあわせもっています。チバビジョン株式会社から出ているエアオプティクス乱視用レンズは、プリズムバラストの形を基本として目の上のレンズの安定性を維持しながら、時計の針の6時の位置のレンズの厚みを薄くすることで装用感をよくしたデザインに工夫しているようです。このようにすばらしい発想のレンズが続々と登場していますので、最新の情報を取り入れながら、さらによりよいものを目指していきましょう。


トーリックレンズの適応

トーリックレンズのよい適応は、眼球全体の乱視が-1.00D以上であったり、乱視の軸が180度や90度に近いものが、比較的良好に矯正できるようです。最近の乱視用コンタクトレンズの性能はすばらしくよくなっていますので、今お使いのコンタクトレンズとご自身の目の乱視をしらべてみて、適応がありそうでしたら、相談してみてください。

最後に、代表的なレンズの性質と分類をご紹介します。

商品名
1dayAVトーリック
フォーカスデイリーズトーリックアクア
i.Q14トーリック
メダリスト66トーリック
AVオアシストーリック
素材
シリコーンハイドロゲル
含水率
58.8
69.0
55.0
66.0
38.0
酸素透過係数
28.0
26.0
19.6
32.0
103.0
DIA(mm)
14.5
14.2
14.4
14.5
14.5
中心厚(mm)
0.09
0.10
0.09
0.195
0.08
軸安定方法
ダブルスラブオフ
ダブルスラブオフ
プリズムバラスト
プリズムバラスト
ダブルスラブオフ

素材:FDA分類を示します。素材がシリコンハイドロゲルかHEMAかで分類され、後者はさらに、含水率とイオン性の有無でⅠからⅣまでのグループに分かれています。
酸素透過係数と酸素透過率について:一般的には、レンズの厚みが同じであれば含水率が高いほど、酸素透過係数は高くなり、レンズの厚みが同じであれば角膜に酸素をより多く運ぶことができると考えられます。しかし、酸素透過係数が低くても、レンズの厚みが薄くデザインされていれば、酸素透過率はよくなり、酸素を十分に透過することができるので、汚れにくく乾燥しにくいレンズになります。

遠近両用コンタクトレンズ

以前よりコンタクトレンズを使用してきた人たちが、老眼年齢に入り、今までのコンタクトレンズの使い勝手をそのままに、近くも遠くも見えることへの希望が増えてきました。
そのような人たちに対して、あまり知られていないのですが、遠近両用のコンタクトレンズは、ハードとしてもソフトとしても製品がそろってきていて、利用されています。
しかし、遠近両用とはいえ、どちらか一方をよく見ようとすると、反対側の見え方は同じように精度よく見えるわけにはいかず、さらにさまざまな考え方により、各社デザインが異なることから、眼科医師としてもその処方には苦慮することが多いものとなっています。
遠近両用コンタクトレンズを成功させるためには、患者さん側からの熱意のある協力が不可欠で、医師と一緒になって、ベストな方法を選択していくというスタンスが必要になってきます。
ここでは、遠近両用のコンタクトレンズにはどのような種類が出ているのかを簡単に説明し、当クリニックにおいて、大変喜ばれた処方例を挙げてみようと思います。


遠近両用コンタクトレンズの分類

素材の面からの分類
 ソフトとハードがあります。

屈折形状の面からの分類
  セグメント型;上下で屈折が分かれるタイプです。
  同心円型;同心円状に屈折がわかれているタイプです。→中心が遠用のものと近用のものが存在します。また屈折の分布も各社それぞれに工夫がされています。

光学的機能の面からの分類
  交代視型;視線を上下に動かしてレンズの遠用と近用の部分をそれぞれ利用して見る方法です。
  同時視型;常に網膜(目の奥で光を感じる膜)には近くと遠くの景色が同時に焦点を結んでいるものの、頭の中で必要な情報のみを取捨選択してみる方法です。

焦点の面からの分類
 2重焦点型;近用と遠用がはっきりと区別されているタイプです。
  累進屈折型;連続に加入度数が変化するタイプです。

 

レンズ選択における基本的な考え方

1.
これまでハードコンタクトレンズを使用してきた者へはハードコンタクトレンズを、ソフトはソフトを薦めていきます。初めての人には、装用感のよいソフトコンタクトレンズから薦めていきます。
2.
老眼になりたての方や、眼鏡が嫌いな人、コンタクトレンズが好きな人には向いていると考えます。
3.
両眼での見え方を重視して加入度数を調整していきます。
4.
どこの距離を見たいと希望されているかを十分に聞き取りながら、ある程度の妥協も必要であることを理解していただくことも重要です。
5.
軽度の遠視眼で遠くの見え方に不満のない人には向かないことが多いです。
6.
同時視型の場合は、コントラストが落ちるので、使い方に注意が必要であることを十分説明していきます。
7.
近くの作業を長時間にわたって行なったり、近くの視力の精度を要求される職業や趣味を持っている方へはお薦めしにくい場合が多いです。


症例の紹介
症例1
53歳 女性
ソフトコンタクトレンズを使用していたときに目に傷をつけたことから、10年前より通常のハードコンタクトレンズに換えて使用してきました。メガネはやや弱めに作成されていました。
初診時の視力検査の結果
メガネをかけない視力 右 0.1 左 0.04
近視の程度 右 -5.5D 左 -6.0Dと比較的強めの近視でした。
乱視の程度 右 -1.0D 110度 左 -1.0D 90度

そこで、いままでハードコンタクトレンズを使用してきているので、メニコン社のメニフォーカルZを提案しました。

メニフォーカルZを目の上に載せた状態での視力検査の結果
コンタクトレンズをつけた遠くの視力 右 1.2 左 1.2
コンタクトレンズをつけた近くの視力 右 0.8 左 0.8

今のところ、コンタクトレンズ1枚で遠くも近くも不自由を感じることがないようです。

 

症例2
53歳 女性
いままでソフトコンタクトレンズを25年、ハードコンタクトレンズを10年、その後メガネで5年ほど生活してきたそうです。スポーツをするのに遠近両用コンタクトレンズを希望されて受診しました。
初診時の視力検査の結果
メガネをかけない視力 右 0.02 左 0.04
近視の程度 右 -6.75D 左 -6.5Dと比較的強めの近視でした。
乱視の程度 右 -0.75D 180度 左 ―1.0D 10度

スポーツをなさるということでしたので、ロート製薬株式会社の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(i.Q.14:Type N)を試していただきました。左目が効き目だったために、右目に遠くの視力を重視してTypeDを、左目にTypeNを試しました。
i.Q.14目の上に載せた状態での視力検査の結果
コンタクトレンズをつけた遠くの視力 右 1.2 左 1.0 両眼 1.2
コンタクトレンズをつけた近くの視力 右 0.6 左 0.7 両眼 0.


患者さんより、スポーツをするのにはよいが、パソコンの文字がみにくいとのことでしたので、左右にTypeDとTypeNを入れ替えたりして試しましたが、うまくいかず、今度はハードコンタクトレンズでメニコン社 メニフォーカルZを試していただきました。
メニフォーカルZを目の上に載せた状態での視力検査の結果
コンタクトレンズをつけた遠くの視力 右 1.2 左 1.0 両眼 1.2
コンタクトレンズをつけた近くの視力 右 1.0 左 1.0 両眼 1.0

結局、この患者さんは、メニコン社 メニフォーカルZのほうが、パソコンがすっきりと見えるとのことで、こちらを選択され、良好な経過となっています。

 

i.Q.14:Type Nの紹介
2週間の頻回交換型ソフトコンタクトレンズで、FDA分類はグループⅣに属する高含水型のレンズになります。Type Dは、中央に遠く用、その周辺に近く用のレンズが配置され、移行部がつなげる構造をしているようです。主に遠方の見え方を重視する方に向いています。TypeNは中央に近く用、周辺に遠く用のレンズが配置されています。主に近方の見え方を重視する方に向いています。用途に応じてレンズタイプを選びます。

メニコン社 メニフォーカルZの紹介
ハードコンタクトレンズで、交代視型のレンズです。同心円状に中央が遠くを見るためのレンズで、その周辺に移行部が存在し、そのさらに周辺が近くを見るためのレンズになっています。近くを見るときには、目線を下へずらすことで、周辺のレンズを使用します。
レンズが目の上で極端に上下に動く状態だと、成功しないことと、患者さんが目線をずらして近くを見る見方に慣れていく必要がある点が、このレンズを成功させるポイントになります。

フィッティングについて

フィッティング検査とは、レンズの目の上(角膜の上)に載せたときに、レンズが安定しているか、という検査になります。一般的には、トライアルレンズ装用10分後、涙が落ち着いた頃にチェックをします。

ソフトコンタクトレンズのフィッティング
チェック項目について

レンズのセンタリング:レンズが常に角膜全体を覆っているか、という検査です。
正面視で瞬目後、レンズが元の位置に速やかに戻ること。
上方視・下方視・側方視などの眼球運動を行っても、レンズが角膜の中心に位置し続けること。
 
瞬目時のレンズの動き:上方視で瞬目したときのレンズの動きが0.5~1.0mmあること。正面視をしているときに、下眼瞼縁を指で押し上げレンズを上方に動かすとスムーズにレンズが動くこと。

私たちはこれらのレンズのフィッティングの検査を行い、正常でない状態を以下の二つの言葉(タイトとルーズ)と使用して表現し、レンズの大きさやレンズのカーブを変更したりして適切に対応していきます。

タイト:上方視で瞬目したときのレンズの動きがほとんどない。正面視で瞬目したときのレンズの動きがほとんどない。正面視したときに、下眼瞼縁を指で押し上げ、レンズを上方に動かしてもレンズが動かない。

ルーズ:上方視で瞬目したときのレンズの動きが2mm以上ある。レンズのセンタリングが悪い。レンズ周辺が浮いたり、めくれたりする。


酸素透過性ハードコンタクトレンズのフィッティング
ハードコンタクトレンズは目の表面にある涙の液体の膜の上に浮いている状態で安定します。ですから、ソフトコンタクトレンズと違い、瞬きのたびに目の表面で上下に大きく動きます。
ハードコンタクトレンズと涙の液体の膜が、どのような関係になっているのかについて、検査のときに判りやすくするために、特殊な染色をしていきます。ですから、ハードコンタクトレンズの検査のときには、目の周りが少し黄色になってしまいますので、後でふき取っておいてください。

フィッティングパターン検査
角膜のカーブとレンズのカーブの関係がどのようになっているのかによって、私たちは、以下の二つの言葉(フラットとスティープ)と使用して表現し、レンズの大きさやレンズのカーブを変更したりして適切に対応していきます。

フラット:角膜のカーブに対して、レンズのカーブが弱いパターン。

スティープ:角膜のカーブに対して、レンズのカーブが強いパターン。

ケア用品について

SCLケア用品 -さまざまな洗浄・消毒液-
SCLの洗浄・消毒液には以下の3つの種類があります。

1.
MPS(マルチパーパスソリューションといって洗浄、消毒、すすぎ、保存のすべてが1液でできるタイプです)
2.
過酸化水素(過酸化水素を消毒剤の主成分としたもので、中和が必要なものの、上記MPSよりも消毒効果は高いことが特徴になります。)
3.
ヨード系(手術で術野の消毒にも使用するヨード系を消毒剤の主成分とする製品で、現在考えられるなかでもっとも消毒効果が高いと考えられています。)

1.MPS
MPSに含まれる消毒成分には大きく分けて以下の2つがあります。
1.塩酸ポリヘキサニド系
コンプリート、レニューなど、ほとんどすべてのMPSが採用しているようです。
医療用消毒剤、プールの消毒剤としても用いられています。
分子が大きいのでレンズ内に取り込まれないという特徴があります。 
2.ポリクウォッド系(塩化ポリドロニウム)
オプティフリー、オプティーフリープラスに含まれているものです。
シリコンハイドロゲルレンズとMPSには相性のよしあしがあるようで、ポリクウォッド系は比較的どのレンズに対しても相性がよく、角膜上皮障害をきたさないという報告があります。

MPSに含まれる消毒剤以外のその他の成分として、以下のものが含まれています。
ポロクサマー、ポロキサミン(界面活性剤)⇒ 脂質洗浄成分
ヒドロキシポリメチルセルロース(HPMC)、リピジュア ⇒ 潤い成分

MPSは1剤で、洗浄、消毒、すずぎ、保存ができるとされていますが、現在市販されているほとんどのMPSは、つけておくだけで消毒効果が十分といえるものはなく、「こすり洗い」をすることを前提として設計されています。細菌などの微生物を必要な基準以下にするためには、「こすり洗い」を忘れないで徹底してください。

2.過酸化水素
中和液を必要とします。中和方法には、カタラーゼ(錠剤・液)を使用するものや、白金ディスク、チオ硫酸ナトリウムなどの触媒を利用するものがあります。
消毒効果はMPSより強いと考えられています。
中和後は過酸化水素(H2O2)が水(H2O)になるので刺激が少なく、そのまま装用できますが、中和が完了しないと、残っている過酸化水素が目に障害をきたすので注意が必要です。
虹彩付きレンズには使用できません。
こすり洗いが不要なので、こすり洗い苦手な人や、過去に角膜感染症など問題を起こした既往のある人に勧めています。

3.ヨード系
あまり種類がありませんので、そのうちのひとつを紹介します。
バイオクレンファーストケア(オフテクス):以下の2つから構成されています。
ファーストケアⅠ:消毒顆粒(ポピドンヨード)
中和錠(乾燥亜硫酸ナトリウム、洗浄剤、タンパク分解酵素、発泡剤など)
ファーストケアⅡ:すすぎ液
シリコーンハイドロゲルにも使用できますが、臭いが強いようです。