米国の「自国第一主義」がまた、世界を混乱させる火種となっている。日本を含む137の国・地域が進めてきた、法人税の新しい国際課税のルールが、目標の年内にまとまらず、結論は来年半ばに先送りされた。
新ルールの目玉は、デジタル取引への課税の見直しだ。
これまではモノの取引を前提にしており、工場や支店などの拠点が無ければ課税できなかった。だが、いまやGAFA(ガーファ)と呼ばれる米巨大IT企業が、拠点を構えずにネットを使って国境を越え、音楽や映像、広告などのサービスを提供し、巨額の利益を稼ぐ時代である。
そこで経済協力開発機構(OECD)は、巨大IT企業などへの課税の新しいルールを示した。こうした企業の利益を「通常の利益」とそれを「超過する利益」に分け、超過分の一部に対し、サービス利用国が売上高などに応じて課税するというものだ。基準となる利益率など細部を詰め、年末に最終合意する予定だった。
ところがGAFAを抱える米国は、新ルールの「骨抜き」に躍起だ。新旧どちらのルールで納税するかを、企業の選択に委ねるよう求めている。日本や欧州連合(EU)は当然、反対の立場だ。
結論がまとまらないなか、英仏などは続々と独自課税を打ち出している。EUは、デジタル課税を新型コロナウイルス対策の財源に充てる方針だが、トランプ政権は、実際に課税されれば報復関税で対抗する構えだ。コロナ禍による世界経済の混乱に拍車をかけかねない。
もともと国際課税は、各国が限られた税収を奪い合う側面があり、対立が先鋭化しやすい。しかし争い続けては、どの国の利益にもならない。妥協点を見いだすよう、日本は各国に働きかけるべきだ。
新ルールでは、法人実効税率の最低水準も決める。水準を下回る国にある子会社の利益に対し、親会社のある国が、最低税率まで課税できるようにする。日本を含む先進各国は、企業の海外流出を防ごうと税率の引き下げを競ってきた。不毛な競争の阻止にむけ、前進と言える。
ただ、効果は限られそうだ。最低税率の水準は決まっていないが、関係者によると、低税率国として知られるアイルランドの12・5%と同程度にする方向で調整中という。日米独の20%台後半より著しく低い。
OECDの試算をもとに計算すると、一連の新ルールが日本の法人税収を増やす効果は、年間で数千億円にとどまる。新ルールを導入できても、より実効性のある制度に改めていく努力を続けねばならない。
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