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 終わりの見えない軍主導の政治を変えたい。そんな若者らの要求に真剣に耳を傾け、改革への道を考えるべきだ。

 東南アジアの主要国タイの首都バンコクに先週から、非常事態宣言が出ている。3カ月前から大規模な反政府集会が続き、緊張が高まっているためだ。

 宣言により、5人以上の集会が禁じられた。首相府前を占拠していたデモ隊を警官隊が強制排除し、リーダー格の弁護士ら多数が逮捕された。

 プラユット政権の強硬姿勢は社会を動揺させている。集会は絶えることなく、首都から地方へも広がっている。

 この動きを力で抑え込むことは許されない。いま政権がなすべきは、謙虚に国民との対話を図り、真の民主化に向かう姿勢を示すことである。

 タイでは6年前にクーデターが起き、軍が実権をにぎった。昨年春に総選挙を経て民政に移ったが、首相には軍政トップだったプラユット氏が就いた。実態は軍政のままに等しい。

 それを可能にしたのは軍政下につくられた憲法だ。軍寄りの政党に有利な選挙制度や議会の仕組みが盛り込まれた。

 名ばかりの民政の内実は今年2月にもあらわになった。軍政に反対する野党が、憲法裁判所により解党させられたのだ。

 いまの集会は、政権の退陣や議会の解散・総選挙とともに、憲法の改正などを求めている。この間の政権の強権ぶりを顧みれば、無理もない要求と言えるだろう。

 タイでは農村と都市部が対立する構図の政争が長く続いていたが、今回はやや様相が違う。中高生を含むネット世代の若者らが運動を引っぱっている。

 新たな政治意識を反映するように、タブーとされてきた王室批判にも踏み込んでいる。コロナ禍での経済悪化への不満に加え、4年前に即位したワチラロンコン国王が1年のほとんどを国外で過ごしている現状も、拍車をかけている。

 不敬罪の廃止や財産管理の透明化などを求めるデモに対し、王室と近い軍の対応が懸念される。もし万一、流血の事態になれば、タイの国際的信用は失墜し、政情は長期にわたり不安定化することを政権は自覚せねばなるまい。

 タイには多くの日本企業が進出するなど、日本と結びつきの深い国である。

 「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日本としては、東南アジアとの経済交流とともに、人権や民主主義などの価値観重視を貫く必要がある。

 菅首相はその原則を踏まえ、プラユット政権に平和的な変革を働きかけるべきだ。

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