第22話 謝罪
リオはアースラ達にラティーファを引き連れていた事情を説明した。
リオがヤグモへと旅をしている途中であったこと。
ラティーファが人間の奴隷として育てられてきたこと。
リオが旅の途中でラティーファと出会ったこと。
リオがラティーファを奴隷から解放したこと。
ラティーファを精霊の民に引き渡そうとしていたこと。
「やはり全面的にこちらが悪いようじゃな。すまなかった……」
全てを聞き終えると、アースラが沈痛な表情を浮かべて深く頭を下げた。
証人であるラティーファは、疲れたのか、小難しい話を理解するのを放棄したのか、途中でリオの膝の上で眠ってしまったが、彼女のリオへの懐き具合が何よりの証拠であった。
「ウズマよ、お主の先走りがこのように事態を複雑にしたと言っても過言ではないわけだが、何か申し開きがあるとでもいうのなら聞いてやってもよいぞ?」
アースラが精霊の民の言葉でウズマと呼ばれた翼獣人の女性に尋ねた。
「その、ラティーファ嬢に何やら深い眠りにつくようなオドの乱れと虐待の跡が見つかったとオーフィア様から聞きまして、そこの……彼が彼女に行ったのかと勘違いしてしまい……つい激昂してしまいました」
ウズマが有無を言わせずにリオに襲い掛かった理由を供述した。その額には大量の冷や汗が浮かんでいる。
「話を聞く限りその子が夜泣きをしないように深い眠りにつかせたんじゃろうな。だいたいお主はいつも早とちりがすぎるのじゃ。いつも言っておろうが、もう少し思慮深くに物事を考えよ、と。後先考えずに殴ってしまうとはこの馬鹿者が。戦士長たる者が何というざまじゃ。大半がお前の責任ではないか。色々と不自然だとは思わなかったのか? ん?」
「さ、最長老様。申し訳ありません!」
ウズマが委縮してアースラに謝罪をする。
「謝るのは儂じゃなかろうに。今日の長老会議で此度のお前の罰が決まるだろうが心して反省するがよい。きちんとリオ殿に謝罪をするのだ。わかったな?」
「はい……」
「それにサラ、オーフィア、アルマ、お前たちもじゃ。いずれはお前たちも里の運営に関わってくる者達なのじゃぞ。それをウズマ一人の暴走を止められんとは、修行中の身とはいえ嘆かわしい」
「は、はい」
狼獣人、エルフ、ドワーフの少女の順に名前を呼ばれてそれぞれビクッと反応する。
「お前たちに罰が下されることはないだろうが深く反省しておくように」
「しょ、承知しました!」
三人の少女達は深く頭を下げた。
「すまんな。リオ殿、こやつらの説教に少々熱くなりすぎてしまった」
説教を終えたアースラがリオに向き直って再度頭を下げる。
リオとしては怒られている四人が気の毒とは思ったが、会話の内容がわからないので黙って見ていた。
「それはそうとリオ殿、ひょっとして風邪を引いておりゃせんか?」
と、リオの顔色の悪さに気づいたアースラが指摘する。
「ええ、少し肌寒くて……」
リオは、ちらり、と毛布の下の肌着姿を見せた。その姿を見てアースラがため息を吐く。
「……それもこちらの落ち度じゃな。すぐにエルフ特製の薬を用意させよう。夜が明けたら長老会議が開かれる。その後に精霊の民全体から正式に謝罪をすることになるじゃろう。その時までそこのベッドで眠っていてくだされ」
「ありがとうございます」
アースラが指差したベッドを見て、リオが礼を言う。
その時、ウズマが、青ざめた表情を浮かべて、狼獣人の少女サラに何かを話しかけた。サラがウズマの言葉を翻訳するために口を開く。
「その、リオ様、ウズマが貴方に謝りたいと……」
ウズマは畏まって正座をして、必死な様子で地に頭をつけていた。
いわゆる土下座である。
「それと私達からも謝罪をさせてください。同胞を保護してくれた恩人に対してする仕打ちではありませんでした」
サラがそう言うと、オーフィアとアルマも謝罪を口にして、三人そろってリオに土下座をしてきた。
「……気にしていない、と言えば嘘になりますが、謝罪を受け入れます。こちらからウズマ殿に怪我をさせる可能性もあったわけですし」
土下座文化がこの世界にあることに驚きを覚えつつも、年上の女性と同年代の少女達に土下座をさせている事態に居心地の悪さを感じる。
リオとしては思うところがないわけでもないが、今後の関係を考えれば徒に事を荒立てるのも好ましくないだろう。
そう考えて、リオは謝罪を受け入れることを表明した。
それから運ばれてきたエルフの薬を飲むと、リオは眠りにつき、目が覚めた時は既に昼となっていた。
身体を起こそうとすると、隣でラティーファがリオにくっついて眠っていることに気づく。
身体の肌寒さはすっかりとれていた。
どうやらエルフの薬の効果は人間族の薬とは比較にならない程に優れているようだ。
ラティーファの頭を撫でたまま横になっていると、部屋の扉がノックされた。
「はい。起きていますよ」
外に聞こえるように返事をすると、ゆっくりと扉が開けられた。
入ってきたのは、狼獣人の少女サラ、エルフの少女オーフィア、ドワーフの少女アルマだった。
「おはようございます」
部屋に入ってくると三人が目覚めの挨拶をしてきた。
「どうかしましたか?」
ゾロゾロと入ってきた三人にリオが尋ねる。
「臨時に私達がリオ殿の世話をするようにと仰せ付けられましたので、再度挨拶を思いまして参りました」
と、三人を代表してサラが言った。
三人の中ではサラが年長であり、何かと姉的な役割を務めることが多かった。
「この精霊の民の里にいる間は基本的に私たち三人の誰かがリオ様のお側にいることになると思います。以後、よろしくお願い致します」
精霊の民の中でも人間族の言葉を話せる人物は非常に少ない。
一部の指導的立場に立つ者だけがそれを可能としている。
それゆえ、リオの世話をできる者も限られ、オーフィア、サラ、アルマは、既にリオとも面識があり、人間族の言葉を喋ることができることから、臨時の世話役として任命されたのである。
「それはご迷惑をおかけいたします。どうぞよろしくお願いします」
と、リオは礼儀多正しく頭を下げながら言った。
「い、いえ、こちらこそ」
それぞれ雰囲気は異なるが、どこか恐縮したように、三人も頭を下げ返した。どこか固い印象がある。
どうやらリオに対して罪悪感というか苦手意識のようなものがあるようだ。
「早速なのですがお知らせがあります。先ほどまでこの里の長老達が集まって会議が行われていました」
気持ちを入れ替えたのか、引き締まった顔をすると、サラが話し出した。
「そこでリオ様に対する謝罪と御礼をお伝えすることが決定しました。予定では本日の夕方に行うことになっております。もしリオ様がお目覚めのようならば昼食を摂るついでにお知らせするようにとのことです」
「承知しました」
正式な場で謝罪をされるというのもどこかむず痒いものがあるが、必要なことだと割り切り受け入れる。
それよりも今は精霊の民の食事に興味があった。
「それでよろしければ食事をお持ちいたしますが、どういたしましょうか?」
「それはありがとうございます。是非お願いします」
願ってもないことなので即答する。
「はい。では、ラティーファちゃんの分もお持ちしましょうか?」
「そうですね。じきに起きるでしょうから」
すやすやと眠っているラティーファを見て、リオがそっと微笑する。
「かしこまりました。ではすぐにお持ちしますね。オーフィア、アルマ、お願いしますね」
「うん!」
「はい」
オーフィアは天真爛漫な笑みを浮かべて、アルマは畏まった様子で、それぞれ返事をし、部屋を出ていく。
残ったのはリオとサラ、後は眠りについているラティーファだけだ。
しばらくの間、二人の間に沈黙が落ちた。
「その、ラティーファちゃんは奴隷だったんですよね?」
ある時、何か言いたそうな表情を浮かべていたサラが徐に口を開いた。
「ええ」
短くリオが頷く。
サラが話題にしたのはラティーファのことだ。
「リオ様はラティーファちゃんが奴隷だったころのことを御存じなのでしょうか?」
「いえ。どのような扱いを受けていたのか想像はつきますが、奴隷だったころのことを思い出させたくはなかったので特に聞くことはしていません」
「そうですか……。あの、もしよろしければリオ様のわかる範囲でお聞かせいただけないでしょうか」
「決して面白い話ではありませんよ?」
興味本位で聞く話ではない。言外にそう匂わせる。
「……はい。ですが、それでも知りたいのです」
強い意思を秘めた目で、サラはリオを見つめた。
「わかりました」
その意思が伝わったのか、リオは自分の推測も踏まえてラティーファがどのような扱いを受けていたのかをサラに教えることにした。
当初は感情が希薄だったこと。
身体中に虐待の跡が見受けられること。
戦闘訓練を受けさせられていたであろうこと。
暗殺者のようなことをさせられていたこと。
碌な食事も食べていなかったであろうこと。
極度のトラウマを抱えているであろうこと。
と、ラティーファについて自分の知る、およそすべてのことを、サラに教えた。
ラティーファが任務でリオを殺しに来ていたという事情を説明するとサラが戸惑ったような表情を浮かべたが、すべてを話し終えたころには、身体中の血が沸き立つような怒りを覚えたのか、サラの身体が小さく震えていた。
「彼女は物なんかじゃありません! それをっ……!」
やり場のない怒りを発散させるかのように、サラが声を荒げた。
「ええ」
リオとしても抱いた感情だ。
同胞意識の強い種族である彼女ならば、より一層強い感情を抱くのは当然だろう。
「それにしても……、立ち聞きはあまり良い趣味とは言えませんよ」
扉の外に向けてリオが声をかける。
「……むぅ、気づいておったか。鋭いのう。すまない」
そう言って部屋の中に入ってきたのはアースラ、そして二人分の食事を持ったオーフィアとアルマの三人だった。
話を聞くことに集中していたサラは三人の接近に気付かなかったようだ。
「その子の話じゃがな。リオ殿に伝えたいことがある」
と、アースラが神妙な顔を浮かべて言った。
「おそらくなんじゃがな。その子は儂の曾孫かもしれん」
その言葉に、リオの目がわずかに見開く。
「儂の孫娘は十年以上前に失踪していての……。もともと自由奔放だった子じゃ。当初こそ里での暮らしに飽きてそこら辺をうろついているのかと思ったが、ついぞ帰ってくることはなかった。消息も分からぬまま、魔物か獣に襲われたとも思っておったが……」
リオの服を掴んで眠りに就いているラティーファへと、アースラは視線を送った。
「その子の顔に妙に懐かしい面影があってのう。その子の母の名を聞きたくも思うが怖くもある……。その子の母は既に生きてはいないのだろう?」
「ええ、既に死んでいると聞いています」
「そうか……」
アースラは沈痛な面持ちを浮かべた。
「ん……お兄ちゃん……」
その時、繰り広げられている話し声に反応したのか、ラティーファが薄っすらと目覚めた。
「起きたのか。おはよう、ラティーファ。ご飯だそうだ」
「うん。おはよう。ご飯、食べる……」
と、ラティーファが眠気眼で甘えるような声を出して言った。
「リオ殿、そなたに感謝するぞ」
リオに懐くラティーファは一見するとただの甘えん坊な少女だった。
その様子を見てアースラが深く頭を下げる。
「いえ、自分は礼を言われるようなことは何も……」
アースラの礼にリオが僅かに顔を顰めた。
そもそもリオはラティーファを救おうと思って一緒に行動してきたわけではない。
たしかに、ラティーファの事情を知るにつれて保護者に近い役割を担うようにはなった。
だが、それで素直に感謝を受け入れられるような、面の皮の厚さをリオは持ち合わせていなかった。
僅かな表情の変化に気づきながらも、熟練のアースラも今のリオがどのような感情を抱いているのかは理解することはできなかった。
「ふむ、せっかくの食事が冷めてしまうの。ほれ、どうぞ食べてくだされ」
場の雰囲気を変えるようにアースラが食事を促した。
それから完全に目を覚ましたラティーファが明るく屈託のない笑顔を浮かべて食事を開始する。
遅れてリオも食べ始めた。
どれこれも初めて食べる料理ばかりだったが、ラティーファの口には合ったようだ。
リオとしても満足のいく味だった。
食事を終えるとサラ、オーフィア、アルマ達がラティーファと親交を深めていく。
その様子をリオがアースラと離れて眺めていた。
歳の近い少女達との会話は新鮮なようで、最初はリオが傍にいないと恥ずかしがって何も喋らなかったが、ラティーファもすぐに彼女達と仲良くなった。
そうしてあっという間に夕方を迎えた。
ラティーファをサラ達のもとに残し、アースラに案内されて、リオは精霊の民の長老が集う部屋へと案内された。
長老達が集う部屋は一際大きな木に建てられたツリーハウスの最上階にあった。
移動の最中に精霊の民の里の暮らしぶりをリオは知る。
彼らの生活は完全に自然と一体化しており、森の中に粘土や石を使った家屋やツリーハウスを建築していた。
なかなか幻想的な光景にリオは興味深く建築物を眺めている。
木の周囲を囲むらせん状の階段を上っていると、圧倒的な存在感を放つ大樹が視界に入ってきた。
おそらくあれがリオ達が目指していた大樹だったのだろう。
奇しくも精霊の民たちの居場所に自ら突っ込んでいたことにリオは内心で苦笑した。
やがて最上階へとたどり着くと、長老達がいる部屋の中へと入る。
部屋の中では三十人近い精霊の民がコの字型に並べられた木の椅子に座っていた。
入口の正面奥には齢をとったドワーフとエルフが座っており、一つだけ空席ある。
「ではリオ殿はこちらにお座りくだされ」
アースラは入り口付近にある椅子にリオを座るように促すと、入り口の正面奥にあった空席に腰をつけた。
「人間族の子よ。此度の件について話は聞いている。奴隷として捕えられていた同胞を解放してくれた件、そして、勘違いにより同胞がそなたに多大なる迷惑をかけた件について、厚く謝意を表する。有難う」
アースラの隣に座るエルフの老人がそう言うと、その場に座っていた長老達が一斉に立ち上がりリオに頭を下げた。
その行動と真剣な声色からリオは彼らの誠意を感じとった。
だが、これだけの人達に一斉に頭を下げられて少し居心地の悪さも覚えた。
「まずは、感謝の御言葉、確かに承りました。人間族と精霊の民の間には拭うことのできない黒い歴史があると聞いております。貴方方の同胞がとった行動はそういった哀しい歴史に引き起こされたものでしょう。今までに積み重ねてきた私の同族の行いが悪かったとも言えます。取り返しのつかない被害を受けたわけでもありませんし、私としては誤解が解けたのなら問題はありません。どうぞ頭を上げてください」
と、礼を尽くした態度でリオが返答する。
その言葉に長老達は戸惑ったように頭を上げると、意外そうな表情を浮かべてリオを見つめてきた。
「うむ。そう仰っていただけると我々としても助かる。だが、我らが恩を受け、それを仇で返すようなことをしたことも事実だ。そこで君から何らかの願いを聞き入れようという話になったのだが……」
どこか困ったように、だが厳かな表情を浮かべて、エルフの老人が言った。
「願い……ですか?」
「リオ殿。シルドラ……、この男が言っていることは、要するに、ラティーファを助けてくれた礼をしたい、そして勘違いしてリオ殿に迷惑をかけた慰謝料を支払いたい、そういうことじゃ。じゃが、儂等では人間族のリオ殿が何を欲するのかがわからなくてのう。何か願いはないか? こやつらは何を要求されるか恐れているんじゃよ」
アースラの言葉に、エルフの老人、シルドラを始めとして長老達はバツの悪そうな面持ちを浮かべた。
そしてアースラの言葉にリオは得心がいったという表情を浮かべる。
精霊の民からすれば同胞を奴隷として扱う人間族は醜悪な生き物に見えるのだろう。
そうであるならば彼らの心配も頷けるものがある。
人間族が何を欲するのかがわからないが、礼はしなくてはならない。
いっそのこと何が欲しいかをストレートに聞いてしまえというのがアースラの考えのようだ。
なかなかに豪胆である。
「なるほど……。では、ラティーファを引き取っていただきたいです」
リオは最初から考えていたことを口にした。
その言葉を聞いて、長老達は、困惑した表情を隠そうともせずに、リオの顔を見つめてきた。
「それだけ……か?」
と、シルドラが呆気にとられたように口にした。
「うむ、薄々とリオ殿が無欲な人物だというのは儂も察しておったがな。リオ殿、我々は最初からそのつもりなんじゃ……、それじゃ願いになっておらんぞ」
と、少し呆れたような声でアースラが言った。
「わかっています。ですがいきなりこの里に住んでもあの子が馴染めるとは思えないものですから。可能な限りあの子を大事にしてあげて欲しいというのが私の願いです」
室内に一瞬の静寂が訪れる。
「くっくく。こいつは傑作だぜ! あの人間族が、自分の利益をそっちのけで、他人のことを、それも他種族のことを優先しやがったぜ!」
するとシルドラの隣に座っていたドワーフの老人が愉快そうに大声を出して笑い出した。
「ドミニク、儂の言った通りじゃろ。リオ殿は非常に理性的な人間じゃ。人格的に何の問題もないから、そう大したことを要求されるとは思えんとな」
「そりゃアースラが実際に面と向かってあの小僧と話したからだろ。見知らぬ奴、それも人間族を警戒するのは当たり前のことだぜ」
と、ドミニクと呼ばれたドワーフの老人が愉快そうにアースラに言う。
「気に入ったぜ! 小僧! なんならうちの曾孫娘のアルマが望むなら嫁に差し出してもいいくらいだ! 遠慮することはねぇよ。何でも願いを言ってみろ」
ドミニクは大見得を切ってそう言った。
「そうじゃな。もう少し欲のある願いを言ってほしいのう。こちらとしても受けた恩、そしてそれを仇で返した詫びに相応するだけのことはしなければならん」
アースラもドミニクに賛同する。
「そうだな。何か欲しいものはないのかね?」
ドミニクとアースラの様子に、ため息を吐いて、シルドラが言った。
「……そうですね。と言っても、この里の食材が欲しい、精霊の民が有する知識について教えてほしい、後は精霊の民の言葉について少し興味がある。それくらいですかね。後はラティーファがこの里に慣れるまでの間でいいですから、私をここに住まわせていただければ」
考えるような仕草をしながらリオが願いを口にする。
「本当に欲のないお方じゃのう……」
感心したようにアースラが言う。
「いや、別にそう言うわけでは……。物欲はそれなりにありますよ」
「そう言う意味じゃなくての。人間族に特有の俗な欲求が少ないといった方が正確かのう」
「はぁ……」
よくわからない、といった表情をリオが浮かべる。
「基本的にはどれも問題はなさそうだが、知識というと?」
と、シルドラがリオの願いについてその詳細を尋ねる。
「精霊術の使い方、それと精霊の民が知っている日常生活で役立ちそうな知識全般そういったものですね。もちろん無暗に口外するなと言われればそれを第三者に教えることはしません」
「特に問題のある内容ではないと思うが異論のある者はいるか?」
シルドラの言葉にその場にいる全員が首を横に振った。
「ふむ、では今言った内容の願いを聞きいれるということでよろしいかな?」
異議がないことを確認してシルドラがリオに最終確認をとる。
「はい。お願いします」
そう言ってリオが軽く頭を下げる。
「では、続いて戦士長であるウズマの罰についてだが、我らの掟でな、その内容はリオ殿にも伺わなければならない。リオ殿は何か意見があるかね?」
シルドラの言葉を聞いて、リオが咀嚼して考える。
部屋の隅にはウズマが畏まったように立っていた。
「いえ、特には……。個人的に罰は必要ないとも思っていますが、そうはいかないのであればそちらの慣例に従います」
「……本当に我らの心配は杞憂だったようだな。すまぬ。リオ殿、貴殿の誇りに泥を塗るような疑いをかけていた。重ねて謝罪せねばなるまい」
どんな罰をウズマに科すと思っていたのであろうか、とリオは少しだけ引きつった笑みを浮かべた。
「いえ、特に気にしていませんから」
「うむ、本当に感謝する。ではウズマにはこちらで取り決めた処罰をするということでよろしいだろうか?」
「ええ」
結局、ウズマにはしばらくの間の謹慎生活が言い渡されることとなった。
その後、長老達の自己紹介を受け、そのまま細やかな宴が行われ、リオは精霊の民の長老達と親睦を深めた。