金融緩和 を含む記事

2016年04月17日

浦和高校に「分断社会」解消の答えが「本当に」あった話

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東洋経済さん、いい加減な記事を載せるのはホドホドにしたほうが良い

浦和高校に「分断社会」解消の答えがあった!

という記事が結構読まれているらしいですね。最近、筆者はこの手の「ためにする」議論に食傷気味であるため、「また言ってるわ、ははは」って感じでしたが、今回は某所から読後感想を依頼されたのであえてコメントしてみます。

最初に言っておきたいことは、佐藤優さんも井手英策さんも一つの主張としては尊重したいということです。そして、悪いのは「東洋経済」であると断言しておきます。なぜ悪いのかというと、対談者による新自由主義への定義が曖昧な単なるプロパガンダを堂々と掲載しているからです。

同対談のテーマが「格差社会・分断社会が新自由主義によってもたらされた」であるにも関わらず、実際の対談内容が「新自由主義批判として成立していない」ということを理解せず、有名な識者が述べていることだからと恥ずかしげもなく掲載していること、を経済誌として反省するべきなのです。

アベノミクスを新自由主義だと述べる人は馬鹿か確信犯のどちらかである
 
筆者は以前に下記のような記事を書いてみました。

大人の教科書(15)日本一分かりやすいポリティカル・コンパス解説
大人の教科書(21)「新自由主義批判」という様式美

この2つの記事を要約すると、「新自由主義を批判すると日本の知識人の仲間入りできるが、実は何を批判しているかすら認識できていない言論に耳を傾けてはならない」ということです。

少なくとも安倍政権、そしてアベノミクスは「新自由主義」ではありません。現政権の経済政策は典型的なケインジアンであって「新自由主義からかけ離れた」ものです。財政拡大を繰り返しながら中央銀行に意図的に大規模な金融緩和を強いる行為は、新自由主義の経済政策とは正反対のものです。

アベノミクスを新自由主義と批判する人々は、モノを知らないのか、それとも意図的な確信犯なのか、の二択に当てはまります。今回対談されている二人は日本を代表する識者の方ですから当然に後者であることは明らかです。

そして、東洋経済は日本を代表する経済誌の一つです。したがって、用語の誤用によるプロパガンダに気が付かないわけがないので、同対談の掲載を許可した編集者としての識見や矜持を疑わざるを得ません。

縁故資本主義を新自由主義に偽装する人々の頭の中身について

新自由主義批判を行う際に多用されるプロパガンダは「新自由主義と縁故資本主義を混同する」というものです。これは日本における左派が採用する「自民党政権批判」のプロパガンダの手法の一つです。

上記で述べた通り、本来、新自由主義とは「肥大化した政府の機能を小さくする」思想であり、財政拡大・金融緩和を大規模に推進する自民党政権とは似ても似つかないものです。

むしろ、安倍政権の経済政策は「これでもか!」というくらい大きな政府のケインジアンなので、左派系の大きな政府を求める人は本来は大満足するべき政権なのです。

外国では新自由主義は「小さな政府」(減税・規制緩和)を求める政策は主に保守政党によって実行されています。しかし、日本では同じ保守政党である自民党が世界の潮流を一切無視して巨大な政府路線をエンジョイし続けています。

そのため、保守政党・自民党の小さな政府路線に対峙するはずだった左派系の人達は「あれれ、困ったなーどうしよう。自分で何を言っていいのか分からないので、外国の真似して新自由主義批判したいんだけども・・・」となるわけです。

そこで、大きな政府に付き物の「縁故資本主義」を「新自由主義」にでっち上げて語るというプロパガンダ戦術が展開されることになります。

日本の格差は市場ではなく政府が人為的に作り出したものだと認識するべき

縁故資本主義の下では、政権と癒着する大企業らが利益を上げることができます。そして、縁故資本主義の具体的な政策とは、財政拡大・金融緩和という大きな政府を実現する政策なのです。

政権に近しい人々が利益を上げる財政出動、金融資産保有者が利益を上げる金融緩和、アベノミクスは縁故資本主義の教科書のような政策です。

そして、左派は縁故資本主義に基づく大きな政府の政策によって人為的に発生した格差を「まるで自由市場が作り出したかのように偽装する」ことで自らの存在意義を日本の世間にアピールしているのです。

つまり、現状の自民党と新自由主義批判者との争いとは、「限られた政府財源」を「大資本と貧困者」が争っているだけなのです。佐藤優さんと井手さんが述べているように、あちらから引きはがしてこちらに回す、という実に醜い奪い合いですね。

生活水準の向上に必要な市場経済による富の拡大は語られることなく、タックスイーター同士のコップの中のつまらない争いを「壮大な政治思想の争い」のように演出することで多くの知識人はご飯を食べています。彼らは知識人という名のプロレスラーでしかありません。

アベノミクスでトリクルダウンが起きないのは当たり前です。市場による健全な形での経済成長を実現しないアベノミクスで全体のパイが増えるわけがありません。

なぜなら、アベノミクスは新自由主義政策ではなく縁故資本主義であり、左派が求めている社会主義的な政策の親戚だからです。したがって、左派の政策でもトリクルダウンやボトムアップも起きません。そこにあるのは麻薬の切れたアベノミクスと同じような経済衰退だけです。

飼いならされたブロイラーは自分が食用肉としての運命を義務付けられていることを知らない

最後に、彼らは「小さな政府になると自由が失われる」と主張しています。

なるほど、それはそうかもしれないと思います。小さな政府は「政府によって設計された人生劇場の台本通りに生きたい」という自由を侵害していることは確かです。

ただし、その際に彼らが想定している自由とは「食用ブロイラーの自由」、「牢屋の中の自由」、「予め設計された自由」を意味しています。食用ブロイラーは自分たちの運命が生まれた瞬間からすべて決まっているとは夢にも思わないでしょう。

残念なことに、彼らは他人が作った人生設計図を他者に強要することに何ら疑問も持たないのでしょう。実に素晴らしい自由主義者です。まさに、1984のビックブラザーも真っ青なダブルスピークです。「ゆりかごから墓場まで設計通りに生きることは自由なことだ」とは知りませんでした。

そうはいっても私は知識人を批判するつもりはありません。なぜなら、知識人はビジネスマンと比べて自由市場では役に立たないため、他人の人生を政府と一緒に設計することでご飯が食べられるからです。そのため、経済合理性の観点から彼らの言動は理解できます。全体のパイが減っても自分の懐が温かくなることが重要なので。

東洋経済などの経済誌の責任は非常に重いと思います。日本の代表的な経済誌として、新自由主義批判というプロパガンダ祭りはそろそろ終わりにして、もう少しマシな話題を読者に提供してほしいと思います。

ちなみに、東洋経済の中で述べられている「浦和高校のOBによる寄付」は新自由主義による民間の共助(≠政府)の話であって、富裕なOBによる愛校心の賜物であり、彼らが否定する強者による慈善行為そのものです。

まさに、タイトルの通り、答えのうちの一つはそこにあるわけです。タイトルからしてダブルスピークなんですね。その徹底したプロパガンダぶりに感心したことを付け加えてコメントを終了したいと思います。





yuyawatase at 09:00|PermalinkComments(0)

2016年02月08日

鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である

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wikipediaより引用

鴻海がシャープを買収することは自然の摂理である

台湾企業の鴻海がシャープを買収する方向でほぼ決まりそうなことは非常に望ましいことです。鴻海がシャープブランドを活用した世界戦略を採用することは一つの考え方だと思います。まさに買収すべくして買収した自然の摂理のようなものであり、新興国で資本力を蓄えた企業として「歴史を買う」妥当な戦略だと思います。

それに比べて、産業革新機構は「再生」という名称で何をしようとしたのか全く不明です。シャープは経済産業省の天下り実績がある企業であり、「技術流出の防止」という大義名分を掲げて、更なる天下り先確保&過去の不透明な巨額投資の意思決定過程の記録を隠そうとしたんじゃないかと邪推もしたくなります。

むしろ、経営危機にあるシャープを買収するために7000億円も拠出する企業が現れたことについて、日本人であれば喜ぶべきところであり、本来はベンチャー投資に充てるべき血税を「大企業の再生案件」として投資しようとした政府系の官民ファンドから資金の引き上げを直ちに実行するべきです。

世界に対して日本が自由主義経済国であるメンツを辛うじて保つ形に

産業革新機構がおかしな行動をした上に、シャープの経営陣が鴻海の好条件に即決できない姿をさらしたせいで、日本は依然として自由経済の国ではないかのような印象を他国に与えるところでした。しかし、結果としてシャープが鴻海を選んだことで自由市場が機能していることを世界に示せたと思います。

現在の国際競争はグローバル企業からの投資をどれだけ惹きつける都市・企業・人材を創り出すかということが重要です。シャープという一企業の事例を通じて、日本は政府系ファンドが市場原理に反する不可解な行動を行う国であるという印象を与えることは中長期的に見て決定的にマイナスです。

先発資本主義国である日本は他国企業をM&Aしていきながら、更に付加価値を高めた都市・企業・人材への投資を集め続けるというスパイラルな上昇過程を続けることが大事であり、その流れを自ら断ち切ってしまうことこそが敗北への道ということになります。

今回の一件でも分かることは、国策の産業政策というものは「保護主義」を根幹に据えており、発展途上国の政策モデルであるということです。このような政策モデルを根本から転換させていくことが必要でしょう。

金融政策で景気が浮き沈みするのであれば「産業政策」は不要ではないか

筆者は政府と中央銀行を肥大化させるアベノミクスを支持する者ではありませんが、しかし安倍政権がアベノミクスの成果を強調することをそのまま認めるならば「産業政策」は根本的に不要だということになります。

安倍政権になる以前から、政府は大量の予算を産業政策に投資してきているのに、それらはアベノミクスが行われるまで何ら経済活動を好転させる成果を生み出さなかった、ということになるからです。したがって、金融緩和によって景気が浮揚するなら産業政策は不要と言えるでしょう。

筆者はアベノミクスによる景気浮揚効果は極めて限定的であり、リーマンショックからの景気循環による経済活動の好転のほうが大きいのではないか、と思っていますが、その場合であっても産業政策はやはり不要ということになります。

今回の産業革新機構のシャープの買収失敗は、日本の産業政策の必要性について根本から見直す良い機会になるのではないでしょうか。その大半は日本の産業構造の新陳代謝を遅らせるものであり、産業政策を極小化することが実は最大の産業政策であることに気が付くことでしょう。




日本の競争戦略
マイケル・E. ポーター
ダイヤモンド社
2000-04

1940年体制(増補版)
野口 悠紀雄
東洋経済新報社
2013-05-02





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2016年01月17日

民進党勝利、中国民主化に向けて「日本の魅力」を取り戻そう


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wikipediaから引用 

民進党の蔡英文女史が台湾の総統選挙勝利へ

台湾の総統選挙で、民進党が勝利し、8年間続いた国民党政権に終止符が打たれました。台湾住民の政治的な勇気に賛意を送るとともに、今までよりも親日的な政権が誕生したことを大いに祝いたいと思います。

元々の民進党は台湾独立派でしたが、過去の選挙で対中経済関係を重視する台湾財界の離反により敗北し、長らく政権の座から離れていました。その結果、民進党は現状維持というマイルドな路線に舵を切ることで、台湾住民からの現実的な支持を獲得しています。

中国が民主化しない理由は「日本」の成長が停滞しているから

民進党が独立に関して消極的な姿勢に転向した理由は、日本の経済力が相対的に衰退する一方で、大陸の経済的な魅力が増加しているから、ということが言えるでしょう。

日本が失われた20年を経験している間に、台湾を取り巻く経済環境は大きく変わってしまいました。中国の一人あたりGDPは沿岸部を中心に飛躍的に増大しており、中国との貿易量は日本との取引量を圧倒する状況になっています。

また、大陸においても著しい経済発展を経験した結果として、中国共産党独裁体制に関する問題は先送りまたは不問にされています。アジア最大の経済力を誇る民主主義国である日本経済が実質的に停滞した状態にあり、中国から見た場合に魅力的な政治体制のモデルとは思えないことが少なからず影響を与えているものと想定されます。

民主国家の日本が経済的に停滞している現状に鑑み、中国共産党政権下で高度経済成長を経験した中国人民は民主化という冒険的な選択肢をあえて取らないでしょう。また、台湾も日本の強力な後ろ盾が無ければ現状維持以上の選択を選ぶことは困難だと思います。

今回の台湾の政権交代は行き過ぎた国民党政権からの揺り戻しとして正しいものですが、台湾の独立、中国の民主化という見果てぬ目標からは依然として遠い状況となっています。

日清戦争後の変法運動と辛亥革命をもう一度起こすための裏付けが必要

日清戦争は、日本と中国の力関係が逆転した歴史的な事件でした。清朝側は日本よりも早く洋務運動などの経済・軍事の近代化に取り組んでいたものの、自分たちよりも遅れて改革(明治維新)に着手した日本に軍事的に敗北することになりました。

これらを受けて、清朝内では政治体制の変革そのものが必要ということになり、康有為が主導した変法運動という体制変革運動が発生しました。康有為が目指した変革とは、西欧や日本の強さを政治体制に求めるものであり、特に日本の明治維新に倣って清朝を立憲君主制国家に移行させようというものでした。もしも、康有為が改革に成功していたならば、清朝は立憲君主制に移行し、日本と同様にアジアの最大級の民主主義国になった可能性も否定できません。

その後、辛亥革命に至る過程で、日本は清朝から大量の留学生を招き入れて、清朝を打倒する中核となる結社を構成する人々を生み出しました。そして、彼らによって清朝の打倒と漢民族による共和制が掲げられて活動が行われることになりました。同じアジアに存在した新興かつ強力な日本という魅力的な国家が存在したことが同革命に与えた影響は大きかったと推量します。

政治体制は米国やソ連のように積極的に輸出しなくとも、世界各国では同時代で最も望ましい体制を模倣しようという動きが出てくるものです。現在、中国国内で民主化の動きが力を持ち得ていないことは、アジアにおける日本の停滞に起因するものと言えるでしょう。これでは、中国人民が政治的なリスクを冒してまで日本の制度を模倣しないのも無理からぬことです。

むしろ、日本側では太子党支配のような与野党の世襲支配が横行し、中国の政治の有様を日本側が模倣しつつあると言っても過言ではない状況が生まれています。日本国民は自国の民主主義の変質に対して危機意識を持つべきです。
 

日本の構造改革による再成長が東アジアに民主化をもたらす

アジアに民主化と安定化をもたらす最も良い方法は、日本が経済成長を再び取り戻して、中国人民から魅力的な国家として再評価されることです。

私たちは中国の軍事的な脅威に対して自衛力を充実させるだけでなく、お互いの国が政治体制の優劣を競い合っているという自覚をもつべきでしょう。そして、その政治体制の優劣とは経済成長の優劣によって測られるものであり、中長期的には経済力で勝利した陣営の政治体制が両国で選択されることになります。

日本人は自らの生活にのみ汲々とした政治意識の中で、金融緩和だ、財政出動だ、などと、モルヒネ経済で目の前の問題を誤魔化すことを続けています。しかし、失われた20年を続けた反省を真摯に生かし、現実の問題への対処に取り組むべきときが来ているのではないでしょうか。

アジアの人々が中国共産党のような独裁・世襲体制で過ごすことになるのか、それとも自由で民主的な国で過ごすことになるのか。日本はアジアの未来に大きな影響を及ぼす影響力がある国です。

台湾が自らの勇気を出して民進党という選択を行ったことを受けて、日本も甘ったれた経済・社会の在り方を捨てて、もう一度アジアに冠たる国家を目指して努力をすることが望まれます。






 

yuyawatase at 13:48|PermalinkComments(0)

2015年12月28日

日中限定戦争への道、慰安婦・日韓合意の真意を探る

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日韓の不可解な慰安婦に関する合意、突然の年内決着の思惑とは何か

タカ派で知られる安倍政権が年の瀬に突如として実行した岸田外相の訪韓と慰安婦問題における大幅な妥協は何を意味するのでしょうか。そして、慰安婦問題の立ち合い人として米国を据えた意味はどこにあるのでしょうか。

安倍政権の日韓合意に込めた意図は米国などの国際世論に「日本の正当性」をアピールすることにあります。

同政権は米国議会における演説などでも歴史修正主義的な内容を一切含まず、夏の談話についても文言を工夫して戦後民主主義・自由主義陣営に属するイメージづくりに励んできました。そして、従来までの慰安婦に関する政府主張を顧みない今回の日韓合意は安倍政権の対外的なイメージを決定付けるものです。

安倍政権が国内から一定の失望を受けながらも国際的にタカ派のイメージを放棄する理由は何でしょうか。能あるタカは爪を隠すという諺もありますが、筆者は安倍政権の真の狙いは全く別のところにあると予測します。

真の目的は「日中限定戦争」のための環境整備ではないのか?

筆者は安倍政権の真の目的は、日中限定戦争のための環境整備、ではないかと推測します。国際的な世論環境において、発足当初の安倍政権は中韓の宣伝によって非常にタカ派色が強い政権として認知されていました。

しかし、安倍政権の対米配慮姿勢の徹底、そして中国を取り囲むような対外援助増加を実行してきた結果、安倍政権に対する国際的な世論の風当たりは弱まり、むしろ中国の海洋覇権主義に対する懸念が高まりつつあります。

米国本国は東アジア・東南アジアの政治情勢、特に対中関係は関心が強くない状況ではありますが、全体的な空気感として米国の中国側に傾いていた国際世論の流れをかなり押し戻したものと思います。

仮に日中による尖閣諸島などで限定的な戦争(紛争)が発生した場合、日本が中国に対して優勢な状況を形成できれば米国が日本側で仲裁に入る環境が既に整備されてきています。その中で今回の日韓合意によって日中が限定的な戦争状態に突入するためのツメの作業に入ったと言えるでしょう。

憲法改正のための限定戦争という本末転倒な事態が発生する可能性

筆者が日中が限定的戦争またはそれに近い状態に突入する可能性が高いと見ている理由は、安倍政権の政策目標が「憲法改正」にあると看做しているからです。

大規模な金融緩和や消費増税の先送りなどの経済政策は支持率上昇のためのものであり、安倍政権にとってはそれ以上のものではないものと推測します。そのため、第三の矢である最も重要な規制緩和は現在までほとんど実施されておらず、円安による株高誘導や企業業績のかさ上げなどのモルヒネ的な経済政策が実行されている状況があります。

安倍政権が長期政権を目指す場合、安倍首相が本年行われた日本会議に送ったビデオメッセージの内容通り、憲法改正を政治日程に組み込むことが自然な流れとなります。

来年の参議院議員選挙において、消費増税の先送りを掲げて民主党などの改憲反対勢力を一掃した上で、日中の限定戦争ないしそれに近い状態を創り出すことができれば、憲法改正に向けた世論環境を創り出すことができます。

戦争というものは憲法が改正したから発生するものではなく、両国の指導者が意思を持って軍事力を行使することで始まります。来年11月米国大統領選挙の後の2017年が極めて危険だと思います。

筆者は上記の状況が発生することを支持するものではありせんが、安倍政権の一連の不可解な外交政策の積み重ねを総合的に鑑みるに、一つのシナリオとして十分な妥当性があるものと予測します。




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2015年12月25日

放たれたアベノミクス第3の矢!菅官房長官の日本を変える一手

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アベノミクスの第3の矢を放った菅義偉官房長官の慧眼

私はアベノミクスに関してかなり辛い評価を行ってきました。しかし、今回の菅官房長官の一手を見せられてアベノミクスへの評価を大幅に修正する必要を感じています。

アベノミクスは、金融緩和、財政出動、規制改革の3つの矢で構成されており、第1の矢・金融緩和と第2の矢・財政出動については成功したと評価するには成果が乏しい状態です。

なぜなら、第1矢と第2矢ともに日本経済の改革を遅らせる行為であり、旧態依然とした産業構造の延命措置に過ぎないからです。そして、進まない第3の矢である「規制改革」について業を煮やしてきました。

しかし、本日付けで発表された官房長官大臣補佐官の人事は、アベノミクス「第3の矢そのもの」であり、同人事を実行した菅官房長官の慧眼に大いに感服した次第です。

公共インフラのPPPがアベノミクスの成否を決めることに

菅義偉官房長官の大臣補佐官に抜擢された福田隆之氏は国内における公共サービスの改革の第一人者であり、インフラ関連のPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)については国内で右に出る者はいない人物です。

現在は、新日本有限責任監査法人エグゼクティブディレクター・インフラPPP支援室長を務められており、菅官房長官も記者会見で同氏の知見について厚い信頼を寄せている旨を述べられていました。

真の改革である第3の矢が実行されることになったアベノミクスは、まさに最終局面として真の成果が問われる段階に入ったと言えます。

今回の人事でアベノミクス「第3の矢」が空港などのインフラの民営化・PPPの推進であることが明らかになった意味は非常に価値があることです。

日本が大きく生まれ変わる方向に舵を切った歴史的な日に

公共インフラの民営化・PPPは経済的なインパクトが大きいものであり、同時に国や地方自治体の財政再建にもつながる画期的な手法です。
 
同改革によって日本経済のボトルネックが解消されることで、民間市場・資本市場が大いに活性化し、新たな経済成長の軌道に乗ることが期待されます。

今回の抜擢人事は安倍政権における最大の成果であり、2015年12月25日は日本が生まれ変わる方向に舵を切った歴史的な日となりました。

消費増税などで景気に暗雲が立ち込める日本経済にとって、菅官房長官による国民に向けた最大級のクリスマスプレゼントが送られたことに謝辞を申し述べたいと思います。

入門インフラファンド
野村総合研究所公共経営戦略コンサルティング部
東洋経済新報社
2010-09-17






改正PFI法解説―法改正でこう変わる
福田 隆之
東洋経済新報社
2011-09




 

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2015年12月21日

山井和則議員・高橋洋一さんのアベノミクス論を切り捨てる

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衆議院議員と経済学者の議論の内容についてかなり疑問を持っている

最初に断ってきますが、自分は経済や雇用の専門家ではありません。しかし、統計上の数字くらいは読めるので世の中の疑問な論説について気が付くことも多少はあります。今日の材料はこちら。

<現代ビジネス・ニュースの深層(12月21日)高橋洋一>
民主党は雇用政策のキホンすら知らないのか…安倍政権批判のつもりが、自らの経済オンチっぷりを露呈

高橋洋一さんの議論は、財政分析のテクニカルな部分に面白みがあるものの、マクロ経済学の記事については中身に絶句するようなものが多く、そろそろ止めておいたほうが良いのではないかと他人事ながら思っている次第。

まず、山井和則議員と高橋洋一さんの的外れな論評について確認する

二人の議論がおかしな前提で成り立っていることを論証するために、上記の記事から2人の主張を引用及びまとめていきたいと思います。

<山井和則議員の主張> 山井議員のTwitterから

(1)「私の質問に対し政府から回答(添付)が来た。2009年9月~2012年12月まで(民主党政権3年間)の実質GDPの伸びは5.7%。2012年12月~2015年9月まで(安倍政権3年間)の実質GDPの伸びは2.4%。(だから)アベノミクスは失敗」(https://twitter.com/yamanoikazunori/status/676429958089084928)

(2)「実質賃金の変化に関する私の質問に対し厚労省から回答(添付)。民主党政権3年間(2009年9月~2012年12月)は1.4%減、安倍政権3年間(2012年12月~2015年9月)は3.7%減と、減少幅は2倍以上。生活は苦しくなりました」(https://twitter.com/yamanoikazunori/status/677029865804062720)

(3)「なお、名目賃金の伸びは、民主党政権が-2.4%、安倍政権が+1.4%ですが、これは物価が上がったためであり、国民生活に直結する実質賃金は、安倍政権で2倍以上下がっています」

<高橋洋一さんの主張>

(1)民主党政権と安倍政権で実質GDPの伸び(上図の傾き)をみれば、民主党政権のほうがいい。しかし、民主党政権誕生の前に、リーマンショックがあり、大きな落ち込みがあれば急落後に急回復するのでその時の伸び率は大きくなる。

(2)民主党政権時代は、安倍政権に比べて、実質賃金は低下しなかった。安倍政権と相対的にみれば、民主党政権時代のほうが実質賃金は高かった。民主党政権時代は、まず最低賃金の引き上げを図った結果として失業は増えた。

(3)雇用を確保したい場合、まず金融緩和で実質賃金を下げ、就業者数を増やすことが大切。そのうえで人手不足になれば、実質賃金は自ずと上がる。金融政策が雇用に効く理由は、一般物価の変動を通じて実質賃金に作用するから。

ということです。山井議員は実質賃金の低下の話、高橋洋一さんは実質賃金低下後の就業者数の話をしているわけです。両者の議論はアベノミクスの金融緩和の是非に直結して行われています。

就業者数増はアベノミクスではなく労働人口年齢と社会保障費増加による福祉系雇用の問題でしかない

ここでは両者がいかに的外れな議論をしているか、そして本当に必要な処方箋とは何かについてまとめたいと思います。

まず、政府が発表している労働力調査を見れば明らかな事実は下記(1)~(4)の通りです。興味がある人は自分でも調べてみると良いと思いますが、民主党政権から安倍政権になっても基本的な傾向は変わりません。

(1)近年の就業者数の減少は定年による労働市場からの退出などであり、直近の就業者数増は一度退出した高齢者の出戻りと女性による低賃金の就労が増加したことが要因。

(2)民主党政権・安倍政権でも福祉・医療関係の就業者数の増加が大きく、新たな働き口の大半は社会保障費の芋づる式の増加によって生まれたもの。アベノミクスによる就業者数増の正体は社会保障費を増加させているだけのこと(2009年からの雇用増の約60%は福祉・医療系雇用)

(3)福祉・医療関係と非正規労働者の増加は産業構造の質的な環境変化であり、政府が社会保障費増加を少しでも抑制するために福祉・医療関係の賃金を圧縮する限り大幅な増加を見込むことは不可能。

(4)したがって、山井議員と高橋洋一さんは二人とも経済論は雇用の質的変化を無視したものであり、日本経済の深刻な状況について正しく認識した上で議論するべき。

民主党も自民党も経済改革の能力無し、日本経済の真の構造改革が求められている

以上の分析の結果、就業者数と実質賃金の変化は定年・再雇用と社会保障費の増加の結果であることが分かると思います。

そして、旧態依然としたビジネスモデルを維持するために安価な非正規労働者が投入されるとともに、社会保障費増加によって賃金を抑えられた福祉・医療関係の従事者が増えています。つまり、景気との連動性が低い就業者数が主に増加していることになります。

民主党政権・安倍政権でもほとんど上記の傾向は変わらず、更にアベノミクスによる金融緩和は古いビジネスモデルの産業の延命装置として機能しており、日本経済の構造改革を更に遅らせる結果を生み出しています。

民主党・安倍政権のいずれも現実の日本経済の問題を解決できず、既存産業向けのモルヒネを打ちながら徒に時を過ごしているのです。

特に、情報通信業、学術研究,専門・技術サービス業などの高付加価値サービスである可能性が高い産業については民主党政権・安倍政権のいずれも就業者数の伸びが不十分であり、規制緩和・構造改革を加速化させて就業構造全体の変革を起こすことが急務と言えるでしょう。VCによる投資を加速してスタートアップ企業が活躍しやすい環境を促進し、根本的に新しい雇用を創り出すことが望まれます。

非正規労働者や福祉・医療関係の労働者が増加したところで低賃金から抜け出すことはできず、日本経済のビジネスモデル全体を変革していくことが働く人が幸せになることにつながります。





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2015年12月07日

アベノミクスはモディノミクスを見習うべき(3本目の矢の飛ばし方)

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「消えた・アベノミクスの3本目の矢」 という真の改革

アベノミクスの3本の矢は、「金融緩和」(1本目)と「財政出動」(2本目)が放たれたまま、「規制緩和」(3本目)の矢は忘れ去られた状態となっています。

そして、新3本の矢として「GDP600兆円」「出生率1.8」「介護離職ゼロ」というバラマキと社会保障が新たに掲げられた結果、タックスイーターが予算取りに向けた陳情祭りを繰り広げています。

しかし、日本経済にとっては「3本目の矢」である規制緩和こそが最も重要な改革であり、これらが実施されない状態のままでは、円安による国富流出、財政出動による産業硬直化、のみが行われることになり、日本経済は更なる苦境に立たされることになります。

3本目の矢としての「規制の廃止」と「中央から地方へ」

規制緩和の中身としては国家戦略特区があるのかもしれませんが、一部の農業などの事例を除いて目を見張るようなものは見当たりません。そもそも日本再生に必要なものは全面的な「規制廃止」であり、規制緩和を一部分実行するような中途半端な改革ではありません。

もう一つ重要な視点として、経済政策の重点を「中央から地方」に移していくことが重要です。全国一律の規制・税制を施行している現在の国の制度は極めて非合理です。そのため、中央から地方に権限を移しつつ、所得税・法人税などの地方税化を実施して経済・雇用の責任を地方に移すべきです。

そして、地方自治体側で経済に関する規制廃止の競争を促進し、良いものに関しては国全体で採用・展開する状況を創り出すべきです。ポイントは地方に全て自発的に先行させて実施させることにあります。

「100規制廃止リスト」、インド・モディ政権が大統領選で用いた選挙キャンペーン

安倍政権には規制改革については何ら期待できないため、次回の参議院議員選挙では非自民政権側から2つのリストを提出して選挙争点を創り出していくべきだと思います。

(1)100規制廃止リスト(中央省庁で廃止すべき法律の規制100個の公表)
(2) 100事業移譲リスト(中央省庁から地方自治体に移譲する規制100個の公表)

です。つまり、どの規制を廃止・移譲するのかということを明示して選挙を戦うということになります。そうすることで、初めて「失われた3本目の矢」の形が国民に見える形ではっきりするのです。

ちなみに、不要な法律を100個廃止する、というアイディアはインドのモディ政権が選挙キャンペーン(Repeal of 100 laws Act)で用いた手法であり、その選挙でモディ率いる人民行動党は圧勝することになりました。

これらの規制廃止・規制移譲をリスト化するためには、非自民政権側は「政策のための調査・研究」にまともに予算をかける必要が出てきます。これらは普段は政治活動・選挙活動にしか使われていない、政党助成金の正しい使い方なので是非とも実行したら良いと思います。

これらのリストが出揃ったとき、国民は真の改革ができる政党はいずれか、ということを明確に認識することでしょう。そして、これが作れないなら所詮は政党助成金漬けの公務員政党ということであり、国民生活とは乖離した政党ということになります。

来年の参議院議員選挙までにいずれかの政党が同様のリストを創れるかどうか見物です。



 

yuyawatase at 07:00|PermalinkComments(0)

2015年12月06日

政党助成金を廃止すれば「失われた20年」を取り戻せる

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「政党助成金」は日本経済の失われた20年の原因だ!

政党助成金は300億円超の税金を政党運営のために議席数などに応じて各政党に配布する仕組みです。1994年の政党助成法制定以来、1995年~2015年の間に合計で6000億円程度が支出されています。

同助成金は企業・団体からの影響力を排除するために企業・団体献金を禁止する目的で導入されたものです。その後、現在でも企業・団体献金は禁止されることはありませんでしたが、自民党の2014年政治資金収支報告書の内訳によると、資金全体の約70%は政党助成金から支払われています。

企業・団体からの資金を受ける傾向が強い自民党ですら、実質的に税金によって運営されている状況にあり、日本政府の経済成長への感度が鈍ることは当然だと言えます。

国民と苦楽を分かち合わなくなった国会議員に経済成長は実現できず

政党の運営が税金に依存することは、政治家が国民世論や政治献金の影響を受けなくなることを意味しています。

直近の事例でいえば、維新の党が東京・大阪で分裂したときに起きた国民世論を全く無視した政党助成金の奪い合いのようなことが発生したり、政党助成金の受け取りを確定させるための年末の駆け込み新党結成などを挙げることができます。

政党助成金の深刻な問題は、国会議員に国民の社会生活・経済生活から遊離して政治活動を行うことができる環境を整備してしまうことです。

政治家が昔から行っている活動内容は表面的には変わらないですが、しかし政治活動の大半の費用を税金で賄うようになった国会議員は、国民よりも官僚に近い存在になっています。国民と会合の席を伴にして意見交換を行っても、それは役人のヒアリングに近しいものであり、国民と苦楽を共有する存在ではないのです。

そして、企業・消費者の意見は参考意見でしかないため、国会議員が規制緩和などに真剣に取り組むことはなく、官僚側を向いた政治家らの取り組みによって日本経済の失われた20年がもたらされました。

政治献金の全面的な解禁、政党助成金の廃止こそが経済成長の切り札に

日本を経済成長に導くためには、国会議員の政治活動資金が景気と連動して調達される形にする必要があります。

今年は金融緩和・財政出動によって自民党が大企業からの献金額を増加させましたが、見せかけ&紛い物の経済改革ではなく真の経済成長(減税・規制緩和)がもたらすことができれば、中小企業の景気が回復するので自然と献金の総枠も増えていくことになります。

政党助成金を廃止することができば、各政党は税金・大企業に依存するだけでは資金が足りないため、新たな成長を求める中小・ベンチャーに資金提供を求めるようになります。そのことを通じて、日本経済全体のビジネスモデルが変革し、新産業が次々と生まれて雇用も確保されるようになります。

政治家の当落は政治の良否によって選挙で判断されるだけでよく、企業・団体からの政治献金を全面的に解禁することで、国民の生活を支える経済成長を促す方向に持っていくべきです。





yuyawatase at 12:03|PermalinkComments(0)

2015年11月28日

「アベノミクス」、全ての矢が折れた後に(金融政策編)

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アベノミクス、つまり安倍政権の政策は、弱肉強食、格差拡大、福祉切り捨てなどの色々な名目で批判されます。そして、アベノミクスを「新自由主義的な政策で小さな政府だ」と総括する人々もいます。

しかし、アベノミクスの本質は「弱肉強食・格差拡大」ではあるものの、「反自由主義的で巨大な政府」であるということ、そして超巨大な政府を創りだした金融緩和・財政支出・規制不緩和による経済停滞による不都合な事実こそが問題だということをお話ししていきます。

アベノミクスの金融緩和は「庶民」にも「大企業」にも無意味だった

金融緩和とは「日本円」という通貨価値を意図的に引き下げる政策です。そして、日本円を安くすることによって輸出を増加させること、人為的にインフレを生じさせることでお金を使わせて景気を浮揚させることを狙うことを目的としています。

しかし、現実に起きたことは輸出数量はほとんど増加せず、デフレからの脱却も行うこともできませんでした。実際に金融緩和によって発生した「メリットはほとんど無いということ」です。

つまり、何となく日本円がジャブジャブになったような印象があるだけで肝心のGDPへの影響があまりなかったということ、要は庶民にも大企業にもほとんど関係がないことが行われただけだったのです。

輸出も増加しなければデフレからも脱却しなかった異次元緩和


まず、輸出面ですが、ドルベースで日本からの輸出額を見た場合、円高で苦しんでいるとされた2009年のほうが中国市場の過熱から輸出総額が高い状況でした。

アベノミクス以前の2011-12年のほうがアベノミクス以後の13-14年よりも輸出額が多い状況となっており、輸出は買い手の経済の影響を大きく受けるので、日本の金融政策の影響は微々たるものであることが明らかになっています。

また、目標とした物価上昇2%というデフレからの脱却も達成できておらず、実際の食品と原油を除いた消費物価指数は直近の数か月でも1%未満の上昇率で推移しています。人口減少によって総需要が縮小を続ける日本で金融緩和によるインフレ効果は限定的だからです。

2年以内で目標不達成なら辞めると明言した黒田日銀総裁がしどろもどろの言い訳を実施していますが、潔く辞任したらよいのではないかと思います。

企業業績の回復は「人件費を減らしたこと」と「為替による見せかけ」の複合現象

ここからが重要なのですが、アベノミクスの本質を知るにはドルベースで企業業績に注目するべきです。

2011-12年から日本企業のドルベースの売上は大幅に減少しているにも関わらず営業利益は横ばい・微減程度になっています。営業利益を維持できた主要因の一つはドルベースの人件費は2011-12年段階から2015年現在で約3分の2に減少しているからです。

円安によって円ベースの見かけ上の企業収益は改善していますが、ドルベースの実際の収益状況を見た場合の重要な一つの要素として人件費を減らしたことのインパクトは大きいです。

これが日本企業の実態であり、本当の日本の実体経済だと思います。人件費を削って利益を出しているので働く人の間で景気回復の実感が無くて当たり前です。

また、円安に推移している原因は金融緩和の影響もあるとは思いますが、経常黒字の内容の変化による構造問題が影響しております。海外資産からの所得収支の黒字を貿易赤字が侵食し始めていることに注目すべきです。むしろ、円安は金融政策だけではなく産業競争力の低下という日本経済の構造上の問題です。

従って、日本企業は付加価値の向上によって競争力を高めたわけではなく、コストカットと為替で収益を出している虚構の業績改善を達成しただけなので、企業が日本市場への再投資や賃金アップを実施しないことは必然なのです。

政府から企業への賃上げ要請は完全にお門違いの議論でしかない

アベノミクスは効果が無かったどころか、アベノミクス時代に行われたことは人件費の大幅な削減と為替の構造調整だけだったのです。

たしかに、株価は上がりましたが、それは世界経済の回復に日本経済も便乗したこと及び過剰な人件費を急激に削減して利益を維持したことを好感したものだと推測します。

株価の上昇の主要因は2012年末頃に実施された欧米の政策による世界同時株高の影響であり、日銀による株価上昇は2014年末の国債大量購入の発表によるものくらいのはずです。

そのため、安倍政権発足後の株価が上昇した理由をアベノミクスに求めることは明らかな間違いです。

現在、安倍政権は労働組合のように大企業らに対して賃金アップを政治力を用いて交渉していますが、アベノミクスで実質的な業績回復が実行されたわけではなく、あくまでも「人件費削減」と「為替効果」での業績改善であるため、企業側は政権に恩に着せられる覚えは全く無いはずです。

ただし、現政権のもう一つの柱であった財政支出によって利権に浴した企業群は、安倍政権への政治献金の増額を決定しています。これこそがアベノミクスの本質的な姿と言えるでしょう。まあ、一党支配状態の政権に政治献金の増額を求められたら断る気概がある経済人がいると思えませんが。。。

「大企業が儲けているのにトリクルダウンが起こらない」という認識が間違っている

アベノミクスでは、経済的に豊かになれる人から豊かになっていき、その後社会の隅々まで順番に豊かになる、というトリクルダウンが発生しない理由は明白になったと思います。

トリクルダウンが起きない理由は日本全体が豊かになっていなからです。ドルベースの日本のGDPも2013年以降には激減しており、日本の国際的な中での競争力自体も著しく低下しています。アベノミクスとは少なくなっていくパイの取り合いをしているだけなのです。

大企業であっても自衛を実行するだけで精一杯の状態であり、まして中小企業やそこで働く従業員にまでお金が回るわけがないのです。つまり、簡単に言うと、実体経済の状況は悪化しているのです。GDPが2期連続でマイナスに陥っているにも関わらず景気が良いわけがありません。

2009年リーマンショック後から安倍政権まで続く失業率の低下は、高齢化による労働量人口の減少と比較的賃金が安い福祉関連の就業者が増加したことが原因であり、少なくなった労働者向けのパイを薄く広く分け合ったに過ぎないのです。

このような状態になっている理由は、アベノミクスの2本目・3本目である財政政策と規制緩和政策が「ゴミ」のようなものだったからであり、さらには本当に必要な4本目の矢は議論すらロクにされなかったからです。

左派なら労働法制の強化などを打ち出すのでしょうが、上記で見てきたように問題は日本全体の経済停滞または衰退状態にあるため、本来は新しいパイを創り出していくことが必要です。

それらについても追々とりあげていこうと考えていますが、今回はここまでにしてきおきます。

戦後経済史
野口 悠紀雄
東洋経済新報社
2015-05-29




yuyawatase at 12:35|PermalinkComments(0)

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