脚本を手がけた、#性暴力を見過ごさない 動画が公開された。
動画を見た人に「性暴力を目撃した時、被害者でも加害者でもなく、傍観者として何ができるか?」を考えてほしい。そして、男性には女性が日常的に加害されている現実を知ってほしい。
という思いを「あなただったら、どうしますか?とJJは質問したい」に綴っている。
お陰さまで動画は爆速で拡散されて、沢山の感想をいただいた。
「この動画をキッカケに、性暴力についてパートナーと話し合えて嬉しかった」「こういう時はどうする? こんな助け方もあるのか! とお互い勉強になってありがたかった」という感想もあって、わたし泣きましたわ(回文)
一方、女友達から「夫に見せたら『本当にこんなのあるの? 都会の話でしょ』と言われた、私もさんざん被害に遭ってるわ(号泣)」と感想をもらって、おいらも号泣(体言止め)
性暴力や性差別について、夫婦でどう話し合うか問題。
夫婦の形はそれぞれで「これが正解」というアンサーはない。あくまで1つの例として、うちの夫婦について書いてみる。
我が夫はフェミニズムのフェの字も知らない人物である。なのでフェミ的な話をする時は、相手にわかるように説明する。
たとえば、#KuTooについては「これは石川優実さんという女性のツイートから始まった、『職場でのヒールの強制をなくそう』という運動である。無論、ヒールを履く女性を否定しているわけではない。ヒールとぺたんこ靴、どちらでも選べる権利を求める運動なのだ」といった具合に。
すると夫は「俺もネクタイの強制をなくすために運動しよかな」と言っていた。
ここで「男も我慢してるんだから、女も我慢するべき」的な返しをされたら、ブッコロ助に変身していただろう。
世の中には「ルールだから従うべき」と思考停止している人間と、「有害なルールなら変えるべき」と思考する人間がいる。我々はそこの価値観が一致しているから、話が通じやすいのだろう。
とはいえ、説明もせずにわかれというのは無茶なので、いちいち説明する努力はしている。
自分で説明するのが面倒な時は「これ読んどいて」とネットの記事をLINEで送る。自分が書いたコラムを送る場合もある。
「ミソジニー? それどんな汁物?」みたいな夫だが、性差別的な発言や性犯罪者を擁護するような発言はしない。
むしろ夫は「日本は性犯罪に甘過ぎる、痴漢はマシンガンで撃ち殺せばいい」「俺もマシンガン買いに行こかな」と言っている。
ちなみに彼はコロナ給付金の10万円で巨大ヌンチャクを購入していた。
もし前回のディオニス王くんのように、性暴力をエロネタやギャグ扱いする夫だったら、マシンガンで撃ち殺していただろう。
とはいえ、男である夫が女である私とまったく同じ“感覚”を持つのは無理だと思っている。
性被害に遭った苦しみや怒り、加害されるかもという不安や恐怖を“実感”はできないだろうと。
夫は性被害に遭ったことは一度もないそうだが、私は子どもの頃から何度も性被害に遭っている。
また夫と一緒にいる時に怖い目に遭ったことはないが、私1人で歩いてる時におっさんに怒鳴られたり、卑猥な言葉をかけられたり、胸や尻に触られたりしたことは数えきれない。
男と女では見えている世界が違うことを、男性に理解してほしい。自分が経験してないことを実感するのは難しくても、想像することはできるだろう。
「俺は男だからわからない」じゃなく、妻の気持ちに寄り添い、真摯に耳を傾ける姿勢があるか? それが夫婦が理解しあって歩み寄るための鍵だと思う。
「うちの夫は『俺は男だからわからない』と開き直るのよ」
「うちの夫はろくに話も聞かず『でも』って反論してくる」
「痴漢の話をしてる時に『でも冤罪もあるよね』と返されて、ぶっ殺しそうになった」
と嘆く友人たちもいる。
交通事故の被害者に「でも当たり屋もいるよね」と返したら、ぶっ殺されてもしかたないだろう。
「目の前にいる私は被害者なのに、なんでそんな他人事なの?!」とバチギレる気持ちはめっさ、げっさわかる。
けれども「妻も深い傷を抱える被害者なのだ」ということを、夫はマジでわかってなかったりする。
今回の動画の性暴力シーンに対して、女性からは「超あるある」「リアルすぎて泣いた」と共感の声が寄せられた。一方、男性からは「本当にこんなことあるんだ」と驚きの声が寄せられた。
ここまで男女では見えている世界が違うのだ。
だから夫婦で話し合う時は「女は」じゃなく「私は」という主語で、自身の性被害について語る方が伝わるんじゃないか。
「そこまで言わなきゃわからんのか、キエエエーッ!!」と暴れたい気持ちは、がっさわかる。私もそのへんにエレキギターとかあったら壊したい。
私自身、とある出来事がキッカケで、トラウマが爆発してしまったことがある。
「なぜ女というだけで、性暴力や性差別に傷つかなきゃいけないの?」「なぜ傷ついた側が、傷ついてない側に丁寧に説明しなきゃいけないの?」「そんなの理不尽すぎるじゃないか、キエエエーッ!!」
という怒りを夫にぶつけてしまったのだ。
私の初めての性被害は4歳の時で、それからも被害に遭い続けてきたこと。道を歩いてたら車から二人組の男が出てきて、必死で逃げたこと。その時の恐怖を今でも忘れられないこと。女性が殺害されたニュースを見るたび、それは自分だったかもしれないと思うこと……
そんな痛みをわかってほしくて「レイプされて殺されていたのは、私やったかもしれんのやぞ!!」とギャン泣きしながら「エシディシみてえだな」と我ながら思った。
だがエシディシみたいに「スッとしたぜ」とはならず、夫に向かって爆発したことを反省した。
でも今では「爆発してよかったのかもな?」と思う。
それ以来、夫婦で性暴力や性差別の話をしやすくなったから。夫は今まで以上に私の気持ちに寄り添って、真摯に耳を傾けてくれるようになった。
自分の妻や娘じゃなくても、全ての女性が被害に遭うのは許せない、と男性には思ってほしい。
でもやっぱり「自分の大切な存在が傷つけられたら」と想像することで「絶対許せねえ!!」と強く思うだろう。
私もうちの猫が傷つけられたら犯人を地獄の果てまで追いつめるし、「復讐王に、俺はなる!!」と思う。
なので現状、男女の意識のギャップを埋めるには、このやり方は効果的かもしれない。
とはいえ自身の性被害を語るのはしんどいし、トラウマの蓋を開けたくない気持ちはごっさわかる。
それにJJ(熟女)になると、感情を爆発させる体力がない。私も夫に向かって爆発した後は三日間ほど床にふせった。
立ち上がる時は「ヨッコイショー!」と祭りのような声を上げ、「ラッセーラー!」と気合いを入れなきゃ階段を上れないJJだもの。
なので文章にしてLINE等で送るのもおすすめだ。その際は前回考えたテンプレも活用してほしい。
「あなたを責めたいわけでも、批判したいわけでもありません。
ただ私自身、過去に性暴力や性差別を受けて、何度も傷ついてきました。
だからこそ、一番信頼するパートナーに理解してほしいのです。
それによって、2人の関係は今よりもっと良くなると思うから」
また、男性には具体的な要望を伝える方がわかりやすい。
「私はあなたと議論がしたいわけじゃない。私のつらい気持ちや許せない気持ちを聞いてくれて、理解してくれると嬉しい」「それで『うんうん、わかるよ』と共感してくれるだけで救われる」みたいな感じで。
なんでここまで懇切丁寧に言うたらなあかんねん! と、私もキレてますよ?
キレてますけど、こんなふうに伝える方が相手に響くんじゃないか。それでもスルーする夫であれば、殺していいんじゃないかな。
まあ殺すとポリス沙汰になるので、離婚していいんじゃないかな。そう簡単に離婚できない場合は「離婚するぞ」と脅して、家出とかするのもアリだろう。
弁護士の太田啓子さんが話していたが、男性が変わるのは「妻に捨てられる!」と本気でビビった時らしい。「妻や子が離れてしまう」という危機感をもたないと、自分の問題に向き合わない男性が多いそうだ。
向き合えよ(向き合えよ)
しばくぞ(しばくぞ)
書きながらムカムカしてたら体がポカポカしてきたので、ありがたい(冷え性)
当連載の担当女子は「うちは結婚6年目ですが、ケンカのネタは全てジェンダーや性差別についてです」と話していた。
「でも諦めずに対話を続けたこともあって、夫のジェンダーイコールレベルは爆上りしたと思う」とのこと。
私はやる気も根気も五木のセレットもない人間なので、その粘り強さを尊敬する。五木のセレットの意味がわからない人は、西日本出身の年寄りに聞いてほしい。
「諦めたらそこで試合終了ですよ」と言われても「諦めた方が楽なんだよ!」としばきたくなる女性は多いだろう。
「こいつと話し合っても無駄だ」と諦めた方が、その時は楽かもしれない。でも諦めポイントが貯まっていくと、そのぶん愛情が目減りしていき、「こいつと一緒にいる意味なくね?」状態になってしまう。
私はやっぱり、パートナーとは率直に話し合える関係でありたい。
我が家では「ウンコが漏れた」「股間がかゆい」など率直に話しているが、フェミ系の話は普段はあまり話さない。
なぜなら、私にはフェミニズムの話ができる仲間がいるから。
主催する大人の女子校のオフ会でも、同世代のJJたちと集まった時も、いつもフェミトークに花を咲かしている。
同性のフェミ仲間と話す方が話も早いし、得るものも多いので、私は夫と話す必要性をあまり感じていないのだ。
無論、夫婦でフェミトークをしたい人もいるだろう。「女友達とシェアすればいいや」というのは、あくまで私の場合である。
ちなみに、我が家では仕事の話もあまりしない。
だが、今回の動画については「性暴力に関する動画なので、誹謗中傷や嫌がらせを受けるかもしれない。悪質な行為に対しては法的に対処するつもりだ」と事前に夫に話した。
すると夫は「わかった」と頷いて、「もっと武器をそろえないと」と日本刀のサイトを見ていた。
この斜め上のリアクションに、なぜか私は癒されるのだ。
「維新の会ってどうよ?!」と私がバチギレていた時も、夫が「坂本龍馬フリーメイソン説」を話し始めて、ほっこりした。
こんな噛み合わない二人だが、夫婦の形は人それぞれ。みんなが自分たちに合った形を作っていけるといいなと思う。
アルテイシアの59番目の結婚生活
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