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File227 「ごはん茶碗(ぢゃわん)」

ごはん茶碗を中心にふだん使いの器を集めた展示会。
大きさ、形、図柄、さまざまな個性を持つ茶碗が並んでいます。
展示会を手がけたクラフトバイヤーの日野明子さんは、これまでいろんな産地を訪ね、魅力的なごはん茶碗を探し歩いてきました。

日野 「大きさも形もかなりバラエティーに富んでいて、一見これでごはんを食べるのか?という不思議な形のものもありますが、毎日使うごはん茶碗ですから納得のいくものを選んで頂けたらと思います。」

ごはん茶碗をより楽しく使ってもらいたい。
日野さんは料理家のたなかれいこさんの協力で茶碗といろんなごはんの、相性のいい取り合わせを試してみました。

たなか 「お茶碗から受けた印象とその組み合わせ、楽しみが倍増するって言うんでしょうかね。」

日本人なら誰もが使うごはん茶碗。
そこには、身近な器ならではの美が隠されています。

壱のツボ 器がまとった吉祥文様

ごはん茶碗を長年にわたり集めてきた大口佐恵さん。
大口さんは、ごはん茶碗の魅力は豊富な図柄にあるといいます。

大口 「一番には柄に合わせて使っています。
お年を召した方をお呼びする時には鶴亀が入っているようなものを選んだり。やっぱり元気で長生きして頂きたい。」

ごはん茶碗には、縁起の良い図柄・吉祥文様が多いのです。
弦が、どこまでも生い茂っていく様を表した「蛸唐草(たこからくさ)」。
繁栄を象徴しています。
ごはん茶碗の柄には毎日使う器だからこそ幸福への願いが込められたのです。

ひとつ目のツボ、
「器がまとった吉祥文様」

伝統的な吉祥文様が、現代的な色やデザインで描き続けられています。
瓢箪(ひょうたん)は江戸時代以来の吉祥文様。
茶碗に描かれた瓢箪は全部で六つ。
「六瓢(むひょう)」と「無病(むびょう)」をかけて、無病息災を願った図柄です。

やきものの産地、岐阜県多治見市の窯元、小泉蔵珍(ぞうほう)さん。

小泉 「自分の好きな物でごはんを食べたい、これは当然ですよね。
人間の願いとか思いとかいろいろあります。
その中で毎日使うお茶碗の文様にこだわるわけですよ。」

新しい吉祥文様も考え出されています。
子ども用の茶碗。
気球が広い大空に上へ上へと昇ってゆく姿に、健やかに育ってほしいという願いが込められています。

昔から今へ、少しずつ姿を変えながら茶碗を彩ってきた吉祥文様。
おいしく食べて日々を健やかに生きてゆきたいという願いが込められてきたのです。

弐のツボ 使い心地が生んだ曲線の美

モダンな食器が好きな吉川智恵美さん岳史さん、ご夫妻。
毎日の食事に欠かせないお気に入りのごはん茶碗があります。

1993年にグッドデザイン賞を受賞した、平たい形の茶碗です。

智恵美 「形とデザインがあまりにもかわいくて、大好きになりました。」

岳史 「手になじみやすいというところと、この広がりで湯気が上がってきやすいのかなって思うんですけど、甘い匂いが前よりしているかな?というイメージがあります。」

佐賀県有田町では江戸時代から現代まで日本中の人々に向けて数えきれないほどのごはん茶碗が作られてきました。


古くからのロクロの技を受け継ぐ村島昭文さん。
かつてこの町の食器メーカーに勤めていた時は、宮内庁に納めるごはん茶碗も作っていた名人です。

村島 「特に手に持って使う器には神経使います。やっぱり口に当てたり握ったりするので。こう握ったカーブは手のひらに収まった時点で、感触というのが違いますからね。」

持ちやすさと口当たりを追求し、ごはん茶碗独特の美しいカーブが生み出されてきました。

ふたつ目のツボ
「使い心地が生んだ曲線の美」


絶妙な使い心地は、どのように生み出されるのでしょうか?
最初のポイント。
土を器の形にしていくとき、ヘラで指先を挟むように進め、薄くても割れにくい器に仕上げます。


ふたつ目のポイントはカーブを整える押しべら。
使い心地を考えたいくつかの曲線パターンがあり、これを使うことで器を洗練された曲線に仕上げます。
何世代にもわたる試行錯誤の末、たどりついた曲線です。


日本人の食文化の変遷を研究する民俗学者の神崎宣武さん。

神崎 「基本的に丸い形を半分に切ったものが手に持ちやすい形な訳です。日本の食生活の作法というのは、今はテーブルで食べておりますが、かつては膳です。床の上から口まで何往復とするので、手に障りの感じがしたら使い勝手が悪い。手に収まりが良く、あまり重量を感じないものが良いのです。」


ごはんの調理の仕方も茶碗の形に深い関係がありました。
明治時代に白い米のごはんが都市部から普及し始めるまでは、ヒエ、アワなどの雑穀中心。
しかも、おかゆや雑炊などにするのが主流でした。
半球形の茶碗は手でしっかり握れて、口に当てかき込むときにこぼれにくい形だったのです。


粘りけのある白いごはんが主流になると茶碗の形も変わります。
ごはんはお箸でつまみ口まで運んで食べるようになります。
お箸でよりつまみやすくするため、口が大きく開き、底の浅い形が登場しました。
日本人のくらしの歴史が秘められたごはん茶碗のカーブ。
何気ない曲線に使い心地を追い求めた日本人の知恵が宿っています。

参のツボ 長いつきあいが育む愛着


東京にある器の専門店。
よりどりみどりの茶碗からどれを選ぶか?
店主の松井信義さんはこのようなアドバイスをしてくれました。

松井 「買う使うというよりも、長くつきあう。
ものと人というよりも、人と人というふうに考えてもいいかと思います。」

3つ目のツボ、
「長いつきあいが育む愛着」


幕末の志士・坂本龍馬にも愛用の茶碗がありました。
描かれているのは、自分の名前にある龍の姿。
焼き継ぎをした跡は、長く愛用したことを物語ります。


大正・昭和に活躍した陶芸家の富本憲吉。
富本が自分や家族のために作ったごはん茶碗が残されています。
富本憲吉記念館 館長、山本茂雄さん。

山本 「これは壮吉用と書いてあります。壮吉というのは先生のご長男です。
特徴はこの高台の大きさですね。お子さんが持たれたときに非常に安心感がある。みんなに持たせたあげたいですね。」


幼い息子がごはんをひっくり返さないよう考えられた形。
染付で記された名前と相まって、温かみのある風情を醸し出しています。


昔も今も、ごはん茶碗は家族の食卓でかけがえのないもの。
大治さん一家。
小学一年の相思君にはお気に入りの茶碗があります。


2年ほど前に買ってもらいましたが、今年の初め、割ってしまいました。
相思君は、直してもらう職人に宛てた手紙に、割れる前のお茶碗の絵を書きました。


相思君の父、大治将典さん。

大治 「彼はこれを見た時、人の形に見えてかわいいとか、継いだ時にお茶碗の風景が全然違うので、すごいきれいだなって、単純に前のお茶碗より本当に倍以上良くなったんじゃないかなと思います。
このお茶碗がなんか自分たちに近くなってくれたような感覚がありますね。」

直して使ったことで、さらに愛着が深まりました。
大切なマイ茶碗があるからこそ、ごはんの時間は一層温かく満ち足りたものになるのです。

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

ご飯茶碗。今は本当にいろいろな素材、形の物がありますよね。
ご飯やその日のおかずにあわせて使い分けるのも良いですし、1つのマイ茶碗を大切にずっと使っても良いし、人それぞれのスタイルがありますよね。
私は今年初めに買った茶碗をほぼ毎日使っていて、しっくりと手になじんできたところです。
ご飯茶碗って、その時その時の自分の思い出や成長の歴史が刻まれているような気がします。
子どもの頃に使っていた人気のキャラクターが描かれた子ども用の物、旅先で買った家族とおそろいの物、初めて1人暮らしをする時に自分で選んで買った茶碗・・・。
その時々の歴代(?)の茶碗を思い出しました。
手のひらの大きさの中に、何気ない日々の思い出がぎゅっと詰まっているんだな~としみじみ思ってしまいました。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
J Blues Anat Cohen 0分53秒
J Blues Anat Cohen 1分25秒
My Favourite Things Grant Green 1分36秒
Five More Art  Pepper Quintet 3分26秒
Bella Notte 寺井尚子 4分36秒
Blues In The Closet Bud Powell 6分36秒
If I Were A Bell Eddie Costa Quartet 7分38秒
Jitterbug Waltz Anat Cohen  8分41秒
I Get Along Without You Very Well Chet Baker 10分27秒
J Blues Anat Cohen  12分10秒
This Time The Dream's On Me Steve Grossman 12分46秒
Winteraire Florian Ross Quintet 14分58秒
Five Spot After Dark 秋吉敏子トリオ 16分49秒
Ganeze 井上銘 18分17秒
The Lady Of Swan 渋谷毅 松風鉱一 19分15秒
In The Hall Of The Mountain King From Peer Gynt Suite No. 1 Ray Kennedy Trio 21分00秒
Chasin' The Bird Charlie Parker 21分49秒
Blues For Sugar Ray 岡安芳明 23分1秒
Nobody Else But Me Gerald Clayton Bond 23分51秒
Central Park West 秋吉敏子トリオ 25分36秒
Jitterbug Waltz Anat Cohen  28分18秒

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