@chablis777
シャブリ

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♪~(歌声)
(ドアの開閉音)
(華)聴かせてよ~。
(音)恥ずかしいの。 練習してないから。
お父さん よかったね。
そうね…。どうしたの?
お父さんは行きたかったみたい。
お国のため?う~ん…。
もっと複雑な…。
まあいいや。 お父さんがいるなら。
そうね。
ねえ お母さん。うん?
私のために… 歌をやめたの?
んっ。(床をたたく音)
私が選んだの あなたを。
それに 夢は諦めてない。
お父さんに預けてある。
夢って預けられるの?うん。
2人でかなえるの。
2人で?うん。
そっちの方が楽しそうだね。フフフ…。
華 いいこと言うね。 フフッ そうね。
いつか見たい。 大きな劇場のお母さん。
うん…。
華も大きくなったし 戦争が終わったら私も始めたい。
ねえ…。うん?
その前に聴きたい。 歌って。え~?
お願い。
♪「君を思えば はるかなり」
♪「浪のかなたを はるかなり」
♪「たよりをよめど かすかにて」
♪「涙のうちに はるかなり」
いい歌!
でしょ?うん。
この曲で お父さんと恋に落ちたの。
いや~ 聞きたくな~い。どうして?
華だって 弘哉君のこと…。
えっ? 違う… 違うよ!何が違うの?
えっ 違う 違う…。えっ 何が違うの?
えっ 違う~!アハハハハ…。
♪~
♪「泣いて 生まれて 響く命」
♪「きっと嬉しくて 笑っているんだ」
♪「僕らはきっと 出逢うでしょう」
♪「手を引き 背を押し 出逢うでしょう」
♪「きっといつか今日の日も意味を持って ほら」
♪「耳をすませば」
♪「星の見えない日々を 超えるたびに」
♪「互い照らすその意味を知るのでしょう」
♪「愛する人よ」
♪「親愛なる友よ」
♪「遠くまで 響くはエール」
(三隅)こちらになります。(裕一)はい。
「若鷲の歌」。
すばらしい詞です。でしょ!?
西條さんも とても苦労されてたのですが実際に予科練を見学して頂きましてそうしましたら そこで いきなり最初の2行が浮かばれましてもう それからは一気でした!いいですよね~! 特に 僕は その「七つボタンは桜に錨」ってところが何とも詩的で…。
ただ…。はい?
あの… この「ハア ヨカレン ヨカレン」がちぐはぐかなと…。
そうですかね~?ここは聴かせどころですし…。
いや そうなんですけど…この部分 なくしてもいいか西條先生に聞いてもらえませんか?
いや~…。
最後の一番盛り上がるところですよ?
♪「ハア ヨカレン」あっ 違うか?まあまあ それは先生に任せるとしてえ~ みんなが歌う場面浮かびますけどね~。
いや… 最後は この「でかい希望の雲が湧く」で締めた方が力強くなります。
では3日後上野待ち合わせでお願いします。
よろしくお願いします。
これだから音楽家は…。
んっ!
彼らのような若者のおかげで…今 この国はもってるんだ。
頑張らないと…。
礼拝も厳しく監視されるようになった信徒たちはひそかに集まって対応を話し合いました。
(柿澤)殺されたんだわ。(瓜田)ほだほだ! 許せんって!
(光子)声 抑えて。
(梨本)光子さん あんたず~っと黙っとるが どう思っとるだ?
私は…私の信仰は捨てたくない。守りたい。
ほだらあ…。だからといって危険を冒すくらいなら 今は…。
あんた戦争に協力するっちゅうことかん?
どうしようもないことはある。
都合がよすぎるわ。まあ それも しょうがないわ。あんたら 軍のお金で ごはん食べとるで。
そのおかげで 兵役逃れの人もおるし。
(梅)ひどい…。 取り消して下さい!
違っとる? 違っとるなら謝るわ。
ともかく こういう集まりは危険だで。しばらくは やめとこまい。
「聖書」読んどるの?
(五郎)何か眠れなくて。
みんなが危険を冒してまで信仰してるものを僕も もっと知りたくなって。
そっか… 本当 不自由な時代よね。
本も自由に書けんし…。
でも 書いてんでしょ?まあね。
すごいな~ 梅ちゃんは。
本のアイデアは どこから来んの?
昔ね 裕一さんが突然 うちに来たの。
先生が?フフ… お姉ちゃんを奪うためにね。
あの先生が そんな大胆な行動を?そう 意外でしょう。
…で その時 言われたことがあって。
音さんいないと 曲 書けないんだ。
ものを作るには 何かのきっかけとかつながりが必要なんだ。
ほら 梅ちゃん 今自分の中から出そうとしてっけど書けないなら ほら…外に 目 向けてみっといいかも。
その言葉が突破口だったんだ。
僕だけじゃなく 梅ちゃんまで。
先生は偉大だ。うん。
(くしゃみ)
つまりね 五郎ちゃんあなたがいるから 書くことができるの。
梅ちゃん…。
梅って呼びん。
えっ?
う う…。
梅。
♪~
(五郎のすすり泣き)(梅)フフフ…。
よし… じゃあ 行ってきます。
気を付けて。いい子でね。
うん。 行ってらっしゃい。行ってきます。
お父さん どこ行くの?予科練。
よかれん?兵隊さんになる訓練をするところ。
そこで作った歌を披露するんだって。ふ~ん。
海軍飛行予科練習生いわゆる予科練の制度は海軍の航空機 搭乗員育成のため10代の志願者に厳しい基礎訓練を施すものでした。
その採用試験は大変に狭き門であり練習生の七つボタンの制服は少年たちの憧れの的でした。
(三隅)先生がおっしゃるとおりでした。明るくて力強い! これ いけます!
そうですか。完璧ですよ~。
西條先生は詞のこと 何か言われてました?
いいえ… というか「なるほど! そこは削った方がいい」とおっしゃってました。
そこをなんとか! ひとつ!
(西條)う~ん…。
そうですか。 よかった。 ただ…。はい?
何か違う気がするんです。
三隅さん…。先生 そんなことありません!
「若鷲の歌」は最高です!史上最高の映画主題歌です。いや…。
気のせいです。訓練する若者を勇気づけます。でも…。
何ですか?まだ何かあります。
何か?明日って 朝一番で曲の発表ですよね?
はい… その手はずです。それ 待って頂けませんか?
へっ?もっと彼らのことを知りたいんです。
はい?3日… いや…1日だけでもいいです。とにかく 彼らのことを知りたい。
つまり… 見学したいと?
予科練の若者の気持ちをもっと こう 熱く… もっと深く こう表現できるんじゃないかって。
何か こう… この辺りまで来てるんですけど 引っ掛かってて。
ここですか?こ… この辺です。
あっ それ 魚の骨じゃありませんか?
ご迷惑なのは承知してますが どうか…。
う~ん…僕は これで十分だと思うけどな~…。
何か… この心の内をまだ昇華できてないんです。
三隅さんも おっしゃいましたよねこの作品に懸けると。
そのお気持ちは ありがたいですが…うちにも予算と予定がありまして。
三隅さん!はい…。
もう一曲だけ書かせて下さい!お願いします! どうか お願いします!
お願いします…。
分かりました!
ありがとうございます。
うん… うん…。
(戸の開閉音)
・(三隅)んんっ! ああっ!もう 何なんだよ 何なんだよ! ああっ!・(じだんだを踏む音)


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