「素掘りトンネル」が多数存在する房総半島 特徴的なトンネルを効率よく堪能する
千葉県・房総半島の南部には、人力で掘られた「素掘りトンネル」が数多く存在しています。とくに珍しいトンネルが集中するエリアをバイクで巡ってみました。
タイプの違う素掘りトンネルが集中するエリアを巡る
千葉県・房総半島の南部には、人力で掘られた素掘りのトンネルが数多く存在しています。じつはツーリングスポットとして“素掘りトンネル巡り”を楽しむライダーも多いようです。でも「どこから回ればいいんだろう?」という人のために、入門編にふさわしいエリアをご紹介しましょう。
圏央道(首都圏中央連絡道路)を「木更津東IC」で下り、県道160号線を東へ向かいます。最初に訪れたのは、房総半島の真ん中付近を走る小湊鐡道「月崎駅」周辺です。ここは近い距離に3つも素掘りトンネルがある密集地帯なのです。
「飯給駅」から「月崎駅」へと南下する線路に絡みつくように走る細い道をたどると、やがて「柿木台第1トンネル」が現れました。中を走っているときから不思議な形(断面)だな、と思ったのですが、通り抜けて振り返ってみるとびっくり。なんとトンネルの断面が将棋の駒のような五角形になっています。脇にあった案内板によると、これは「観音掘り」という日本古来の掘り方だそうで、支柱などを使わず人力で掘るのに適しているとか。このトンネルが出来たのが1899(明治32)年だそうで、当時の人の技術を垣間見ることができる貴重なものですね。
そのまま1本道で次の「柿木台第2トンネル」へつながっているのですが、少し走ると先で道路が崩壊しているらしく、通行止めになっていました。そこで県道を使って迂回し、さらに先にある「永昌寺トンネル」へと向かいます。
ここは出口の一方が県道172号線に面しているので、アクセスはとても簡単です。ところが、先ほどの道路崩落の影響か、こちらも車両は通行止めになっていました。しかし、外から見るだけでも見事な観音掘りの様子が拝めます。すぐ脇は車が普通に往来する県道……ここだけ時間が止まっているような、不思議な雰囲気です。
気を取り直して次の目的地に向かいます。永昌寺トンネルから西へ、わずか数kmの場所にある「月崎トンネル」です。ここは遠めから見ると「短い素掘りトンネルが2つ連続しているのかな?」と思いますが、中に入って驚きました。なんと、天井にぽっかりと大きな穴が開き、空が見えている状態なのです。
素掘りではなくても(素掘りならでは?)、なかなか珍しい光景です。穴の上部から側壁に向かって植物が根付き、まるで古代遺跡の中に紛れ込んでしまったかのような錯覚に……。おそらく天井部分が崩落し、相当以前から穴が開いていたのだと思いますが、この状態で今でも普通に走れてしまうのにも驚きです。
さて、最後のトンネルはさらに10kmほど県道を南下した養老渓谷の温泉街付近にある「共栄・向山トンネル」です。なぜそんな名前なのか? ダブルネームの理由は実際に走ってみるとわかります。
養老渓谷の温泉側(県道81号側)からアプローチすると、道幅は細めながら、トンネル入り口はコンクリートでいたって普通です。上部のプレートには「向山トンネル」の文字が見えます。中は上り勾配になっていてちょっと見通しが悪く、すぐに出口と思われる光が見えます。ところが……本当の出口はその“下の先”にありました。
最初に見えた穴は、まるで窓のように外の景色が丸見えになっていたのでした。そう、ここは内部で2階建てになっているという、世にも珍しい構造のトンネルなのです。通り抜けて振り返ると、反対側の入口には「共栄トンネル」と書かれています。
トンネル上部の窓のような穴がもともとの出口だったようですが、その先にある道路との接続を良くするため、昭和45年に掘り直し、さらに先の下側に現在の出口が作られた、というわけです。
その結果、途中にぽっかりと窓のような穴が残り、なおかつ両方の入り口で名前が違うという、とても珍しいトンネルが誕生したとのこと。ちなみにこのトンネル、構造も面白いですが、写真を撮ると照明の関係で内部が緑色に写るのが、ちょっと異世界っぽくて幻想的です。
今回はコンパクトなルートでタイプの違う素掘りトンネルを巡るエリアをご紹介しました。房総半島の地質は砂岩が多いため、素掘りトンネルが多く掘られたという説があります。ほかにもまだまだ個性的な素掘りトンネルがあるので、ツーリングプランに組み込んで、あれこれ探して訪ねてみてはいかがでしょうか。
【了】
Writer: 野岸“ねぎ”泰之(ライター)
30年以上バイク雑誌等に執筆しているフリーライター。ツーリング記事を中心に、近年はWebメディアで新車インプレッションやアイテムレビューも多数執筆。バイクツーリング&アウトドアを楽しむ『HUB倶楽部』運営メンバーの1人。全都道府県をバイクで走破しており、オーストラリア、タイ、中国など海外でのツーリング経験も持つ。バイクはスペックよりも実際の使い勝手や公道での走りが気になるキャンプツーリング好き。