「デマです」と橋下徹氏のツイートに批判 学術会議問題で誤情報が拡散

2020年10月15日 20時44分
 日本学術会議が推薦した候補者6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題をめぐり、学術会議に関して誤った情報が、著名人や記者らによって次々とインターネットやTVを通じて発信され、あたかも事実のようにとらえられて拡散している。専門家は「発信者側が正確な情報を事実に基づき発信するよう努力するとともに、受け取り側も真偽を見極める力をつけていく必要がある」と指摘する。(望月衣塑子)

10月6日の橋下徹氏のツイート

◆「税金は投入されていないようだ」

 約262万人のフォロワーを持つ、元大阪市長の橋下徹氏は、10月6日午前のツイッターで「学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ。学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ。年1500円ほどの会費で、今の予算は確保できる」などとつぶやいた。
 このつぶやきは、ネット上で拡散し、15日午後3時半現在で2405件のリツイート、8424件のいいねが押されている。「橋下徹さんに全く同意します。いいこと言うなあ!」「すごいさすが橋下さん」と賛同が寄せられた。

◆米国、英国も公的資金を投入

 しかし、学術会議や米国の資料によると、米国では1997年の時点で、科学者団体「全米科学アカデミー」の年間の運営費が2億ドル(約210億円)で、うち8割が連邦政府との契約という形で公的資金が投じられている。具体的には政府から頼まれたプロジェクトを行ったり、中立的・客観的な行政レビューの作成や答申などを行っている。
 2017年時点では、運営費は3億ドル(約315億円)を超えたとされ、内訳の発表はしていないが、学術会議によると、全米アカデミーへの税金の投入額はさらに増えているとみられるという。
 英国でも、英国王立協会が2013年4月~2014年3月の1年で収入7060万ポンド(97億円)のうち67%の4710万ポンド(約65億円)が公的資金として支出されている。優れた研究者や研究機関への支援のほか、海外や国際的な研究機関との協力・連携、政府への助言、市民の公共的問題への関心を高める試みなどが行われている。

◆「説明不足だった」

 橋下氏のツイッターのコメントには、次第にこうした事実関係を示す日本人の研究者のつぶやきや、「デマです」「アメリカの実情はこのようになっている……」などの反応が寄せられるようになった。
 橋下氏は、発信から6日後の12日午前、6日のつぶやきを引用する形で「これは説明不足だった。アメリカやイギリスでは、日本のように税金で学者団体を丸抱えすることはないが、学者団体に仕事を発注して税金を投入する」などとツイートした。

「説明不足だった」とした10月12日の橋下徹氏のツイート

 橋下氏に6日のつぶやきの根拠などを問い合わせたが、橋下氏の事務所は「現在は一私人としての立場なので、無償でのインタビューには応じていない」と回答した。

◆年金250万円もらえる?

 5日昼のフジテレビの情報番組「バイキングMORE」では、同局の上席解説委員の平井文夫氏が「欧米は全部民間。日本だけが税金でやっている」「民営化して、自分たちで会費を払って提言すればいいんじゃないですか。だってこの人たち6年、ここで働いたら、その後、学士院というところに行って、年間250万円年金もらえるんですよ。死ぬまで。皆さんの税金から。そういうルールになっているんです」などと発言した。
 だが、日本学士院の担当者は「日本学術会議の会員やOBが学士院会員になるという規則はない。選出は、学士院の選定規則にそって年一回、候補者の推薦を募ると公示して、総会での選出を経て選ぶ」と説明。「推薦者は大学の学長や研究機関の所長、学士院会員、学術会議の会員の3つで、候補者の所属団体は問われていない」と話す。 
 学士院会員は、定員150人で現在は130人。現在の学術会議の会員は、梶田隆章学術会議会長だけで、学術会議の会員でなくても、学士院会員になる人もたくさんいるという。
 学士院の担当者は「平井氏の発言がテレビに出てから市民からの苦情電話もあり驚いた。発信者はきちんとした事実を確認してから発信してほしい」と話す。

◆「放送を訂正」と謝罪

 フジテレビは、6日昼の放送で、アナウンサーが「昨日の放送について補足と訂正がある」として「学術会議の会員全員が学士院の会員になって、年間250万円の年金を受け取れるといった誤った印象を与えるものになりました」と謝罪したが、「欧米は全部民間。日本だけが税金でやっている」との事実と異なる発言への言及はなかった。

日本学術会議

 ツイッターに約3万7千人のフォロワーがいる平井氏は、問題となった発言を行った日の直前に「今日も『バイキングMORE』です。お題は日本学術会議の任命問題。しかし既得権益を奪われる人達の抵抗ってスゴイな。まあ僕らの税金ですから。とっとと民営化して欲しいものです」とつぶやいた。15日午後9時現在、それ以降の更新はなく、発言に関する訂正や謝罪は行われていない。
 平井氏の発言の根拠となった情報や平井氏の見解を求めたが、フジテレビ広報室は「6日の番組でお伝えした通り。取材の詳細についてはお答えしておりません」と回答した。
 こうした不正確な情報が発信されていることについて、学術会議の担当者は「誤った情報が、ネット上にあふれ、抗議や苦情の電話が市民から来たり、マスコミの問い合わせが来たりして対応に追われる。発信者側は、自分が知った情報が、事実に基づくものか否かを、発信する前に確認してほしい」と話す。

◆「発信者の態度を見極める必要」

 NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」理事の立岩陽一郎氏は、「言論活動に携わる人たちが事実に基づく発信を心掛けるのは当然。メディアはあくまでも事実に基づく冷静な発信を心掛け、報道を行う必要がある」と語る。
 さらに「影響力のある人々の発言について、ファクトチェックをたえずしていく仕組み作りが重要だ」とし、「市民は、発信者が根拠を示しているか、間違いを指摘された時、その事実を明示した上で謝罪するなど、誠実に対応しているかなど、発信者の態度を見極めていく必要がある」と言う。
 その上で今回の学術問題については、「学術会議への公的資金投入の可否ではなく、首相が学術会議が推薦した6人の任命を拒否したという点だ」と指摘。
 「橋下氏は『自立しろ』としているが、米国は法人が寄付すれば大幅な減税措置が受けられる税制になっており、全く日本と異なる。米国の科学アカデミーなどは、使途が義務付けられない多額の寄付を受け運営できる仕組みがある。単に『自立しろ』と言う前に科学者を育てるために、日本の税制の見直しを含めた指摘や議論が必要ではないか」と提案した。

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