その道 のプロに聞 く わたしのしごと道 «第14回»
弁護士
太田 啓子 さん
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太田 啓子 さん - 国際基督教大学を卒業。2002年に弁護士登録。離婚、相続などの家族関係事件や、雇用、セクシャルハラスメント、性犯罪などの民事事件を多く取り扱う。「明日の自由を守る若手弁護士の会」メンバー。13年より憲法を気軽に勉強するための「憲法カフェ」を開催し、多くの子育て世代を対象に出張講師をしている。湘南合同法律事務所所属。
- 弁護士って、主にどんなことをするお仕事でしょうか?
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弁護士に欠かせない法のバイブル「模範六法」。「憲法」「民法」「刑法」「商法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」など日本の法律の中で重要とされる法令集が、いわゆる「六法全書」。法令や判例をよりすぐった判例付きの六法全書が「模範六法」です
弁護士の仕事は具体的に挙げきれないほど幅が広いのですが、共通しているのは「法律を使って仕事をする」ということです。世の中に起きている社会問題や紛争などを法律で解決していきます。弁護士というと刑事裁判で犯罪の容疑をかけられている被告人を弁護する姿を思い浮かべるかもしれませんが、刑事事件だけをやっている弁護士は日本ではごく少数です。弁護士によって得意分野が違い、私の場合は離婚や家族間の紛争など民事・家事事件が多いですね。
「とにかく困っているが、どうすればいいかわからない」という依頼者に、どんな権利があるかを考え、権利はあるはずなのに実現されていなければ、権利を実現するための証拠として気づいていないものはないか、「録音」「日記」「写真」など今から役立てられる証拠はないか、などを探っていきます。依頼者の言っていることが真実だとしても、裁判で認められるかどうかは別問題なんです。
こうして誰かがやるべき義務を怠っていれば、その義務を果たすように主張して、どうやって実現させるかを考えていくわけです。
- 弁護士を目指すようになったきっかけは何ですか?
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模試では徐々に成績が上がり、「絶対受からない試験ではない」と手応えを感じました。1997年の夏に勉強を始めて、受かったのは2000年(司法修習5 5期)。当時は法科大学院の制度はなく、他学部卒業でも予備校で勉強すればなんとかなりました
初めて弁護士という言葉を知ったのは小学生のころ。父が仕事でM&A(企業間の吸収・合併)に弁護士が関わっているのを知って、私に「弁護士になったらいいんじゃない?」と助言してきたのがきっかけです。高校生になると、弁護士は将来の選択肢の一つではありましたが進路を絞りきれず、大学でいろいろ勉強してから将来を決めたいと、学科にとらわれないリベラルアーツ教育の国際基督教大学に進みました。
3年生のときに大学の勉強もなんとなくイヤになり、司法試験の勉強をしてみたら法律自体が面白くなってきました。性差別や性暴力というテーマに取り組んでいる弁護士の存在を知り、自分がずっと興味を持っていたジャンルと弁護士がリンクしてますます興味を持ちました。
本格的に予備校に通い始めたのは3年生の夏休みから。法律に関してゼロからのスタートでしたが、全く未知で縁がないと思う世界もコツコツ勉強すれば分かるんだ、という面白さがありました。
- 弁護士という仕事をする中で、やりがいを感じることは? 逆に、大変だと思うことは何ですか?
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弁護士バッジ。バッジ全体のヒマワリは、正義と自由。中央の秤(はかり)には、公正と平等の意味が込められ、弁護士がこれらを追い求める姿勢を表現している(写真/朝日新聞社)
依頼者の紛争が解決できて、人の役に立てたと思うときにやりがいを感じます。例えば離婚事件なら、「夫との苦しい生活から解放された」など、依頼者が希望する解決を得られたときはうれしいですね。
弁護士は紛争やトラブルに向き合う仕事なので、大変なことが日常茶飯事。みんな1日1回は辞めたいと思っているんじゃないかしら(笑)。依頼者は、普段どんなに冷静で穏やかな人でも、不安や緊張を抱え動揺しやすくなっています。そんなときに普通は遠慮して聞かないような話を細かく聞かざるを得ないのですが、不用意に傷つけたり、「せっかく弁護士のところへ行ったのに」とがっかりされたりしないようにとても気を使います。それも紛争を相手にする弁護士の仕事のうちです。
依頼者の思い通りではない結果になるリスクもあるので、事前にできるだけリスクとそれを避けるために考えられる方法を伝えます。その上で、不安を抱えた依頼者に「一緒に頑張りましょう」と手をとる気持ちになれるときは、やはりやる気が出ます。
- 弁護士はクールに事件を裁いていくイメージでしたが、依頼主との人間関係が深く関わるお仕事なんですね。
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女性の弁護士は業界全体の18%(2015年度)。「女性の弁護士が3割を超えてほしいと思って十何年たちますが、なかなか超えられない。女性が働きやすい現場かというと、まだそうではないんです」
本当に依頼者との信頼関係は仕事の基礎で大事なことなんです。多くファンがつく弁護士は、「リスクは怖いけれど、この弁護士となら一緒に闘っていきたい」というような信頼関係を築ける人です。
いろいろな弁護士を調べた上で私に依頼したいという方は女性が多いですね。特に離婚はその後の人生を自分で支えていくという気構えが必要です。「生活設計ができていないのに離婚したら大変ですよ」「保育園には簡単には入れませんが大丈夫ですか?」など、法的なこと以外も話します。
自分に子どもができて、家庭生活をリアルに想像できるようになったことは大きいです。依頼者の「夫が保育園の送迎を全くやらない」という話を聞くと「そんなのあり得ないですよね!」なんて声に力が入る具合が、「すごく通じた、分かってくれる」となるようです。まだ女性弁護士が少ない今の状況で、「女性の弁護士がいい」という強いニーズがあるなら、それに応えていきたい。自分の属性で求められるものがあると気づくようになりました。
- 裁判などの業務以外でも幅広い活躍をされていますが、2013年から続けている「憲法カフェ」はどのような活動ですか?
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「憲法カフェ」の勉強会(写真提供/太田啓子さん)
東日本大震災で原発事故が起こり、当時2歳の長男の尿検査でセシウムが検出されてショックを受けました。公的な機関に伝えても全く相手にされず。「おかしい。でもどうすればいいんだろう」と同じ悩みを抱えている仲間と勉強会でつながって行政へ働きかけました。
これをきっかけに、「子育て世代は、子どもの将来への思いをきっかけに社会に目を向ける」と感じるようになりました。そこで憲法改正の議論が不十分なことに危機感を抱いて始めたのが「憲法カフェ」です。堅苦しい勉強会ではなく、身近なカフェで「そもそも憲法ってなんでしょう」という話をします。子連れもOK。
ツイッターやフェイスブックでも法的なリテラシーを広げたいと思っています。自分の活動は微力ですが「こういう社会であってほしい」という思いを伝えることで共感してくれる人もいて、弁護士という肩書に裏付けられた信頼もあるのだろうと責任も感じます。
- 小・中学校でも、いろいろな問題を抱えている子どもがいると思います。そんな子どもにどんなアドバイスしたいですか?
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何かルールがあるときに「ルールだから従う」ではなく、納得できなければ、「従わない選択肢はないか」「ルールを変える方法はないか」を考えてほしいですね
日本は法治国家で法律の元で人々は暮らしています。法律を知ることで社会を生きていく怖さや不安が減るので、ぜひ法律に興味を持ってほしいですね。
その入り口として、なんとなく当然のことのようになっているけど「ちょっと不便だな、困るな」ということを、「変えられないかな」と疑問に思ってみることです。例えば、「ランドセルが重いけど教科書を教室に置くのはダメ?」「部活の時間が長すぎるから休みをとれない?」というように。「どうせ変えられないよね」と初めからあきらめてしまいがちですが、同じ思いを持つ仲間を探して解決策を考えてほしい。周囲から浮くことを恐れない気持ちも必要です。
法的な思考力というのは、自分を守る手段であり、生きる力にもなります。腕力よりも法律を使いこなせる方が強い。「どんな権利があるか」「根拠はどこにあるか」「実現するための手段はあるか」という法的な論理的思考力は、どんな道に進んだとしても大事です。
- 弁護士とは:
- 弁護士は国家資格を持つ法律の専門家。司法試験の合格後に司法修習を受け、修了時に行われる試験に合格すると弁護士資格を得ることができる。その上で各地の弁護士会および日本弁護士連合会(日弁連)に登録すると弁護士として活動ができる。司法試験を受けるには法科大学院(ロースクール)を修了するか、司法試験の予備試験に合格する必要がある。国家資格の中でも難易度が高く、合格率は25.8%(2017年度)。
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