三章
第六話 友として、ヒーローとして③
近くに自販機が無くて少し歩いてようやく見つけ、お茶かジュースか迷った末にお茶を買ってやっと戻ってきたら変なピエロってか、マジシャンみたいな格好をしたおっさんがセレーネを踏みつけていた。
こいつ、誰だ? というか何女の子の手を踏んでるんだお前。
「お、おやおやお嬢さん。どうしましたか?」
「どうしましたか、じゃねぇよ。おい、その足を退けろよ」
「は、ははは。おかしなことを言いますね。この女は――――」
「退けろって言ってんだよ。潰すぞ、三流マジシャン」
「ッ!」
そろそろイライラが頂点に達してきたので睨みながら告げると、おっさんは慌てた顔をしてセレーネから離れた。
それを見て俺は、地面に倒れて涙を流しているセレーネに駆け寄って口の猿轡を取ってやる。
「セレーネ、大丈夫か? あいつに何をされた?」
「龍華、ちゃん……どうして、ここに……?」
「いや、普通に戻ってきただけなんだが」
服に付いた土を払いながらセレーネを立たせ、おっさんを睨む。
周りの遊具が壊れてて地面がめちゃくちゃ……もしかして、セレーネとこのおっさんはこの場で戦って、セレーネが負けたのか? 仮にもセレーネはウチのクラスの連中に無双できるほどの実力を持っている……ってことは、単にあのおっさんがセレーネよりも強いってことか。
「これはこれは。お嬢さん、あなたは何者ですか? 人払いをしたこの場に来るなんて……普通は無理ですよ?」
「人に名前を尋ねる時は自分から名乗ったらどうだ? 見た目通り、礼儀も弁えてねぇのかよクソピエロ」
「おっと、これは失敬。私はハーロック――――」
「ごめん、興味無いから名乗らなくてもいいわ。おっさんの名前とか覚える価値ねぇし」
ハーロックとか言うおっさんが名乗った瞬間、バーカと煽りながらそう言ってやる。
美人とか美少女の名前だったらしっかりと名前を聞いて覚えるけど、何が嬉しくてこんな40くらいのいい年したキモいおっさんの名前なんか聞かないといけねーんだっつの。紳士気取ってるつもりだけど所詮は似非だな。
しかもなんだよそのキモい顔のペイント。軍隊とかのフェイスペイントのつもりか? 全くと言っていいほど似合ってねぇな。まるでピエロだな。
「まぁ、いいでしょう。お嬢さん? その女を渡してくれますか?」
「は? アンタ、ヒーローか何か? え、その顔で?」
「いえ、違いますよ。私はその女がいた世界の……まぁ、この世界で言う警察みたいなものです。本日はその女を捕まえに来たのですよ」
「つまり……どういうことだってばよ」
さっさと要点を話せや。
というか、捕まえに来た? え、セレーネって何かやったの? どうしよう、人を殺したとかって言われたら流石に擁護できそうにないんだけど。
弁護士! 弁護士を呼んであげて!
「その女と、他三名は我々の国の宝具を盗み出した大罪人なのですよ」
「宝具って?」
「これです。見覚えがありませんか? カルマ様が持っている剣、そしてその従者が持っている武器です」
「違う! お前らが……お前らが、カルマの……!」
そう言いながらおっさんは鎌の形をしたキーチェーンを俺に見せてくる。
ああ、そういやナンバーズの皆がそれぞれ武器を持っていたっけ。えっと、カルマの絶刀に、クレアの片刃の剣、ファイの戟か。んで、おっさんの手にはセレーネの大鎌、と……。
「まったく、困ったものですよ。というわけでお嬢さん、分かったでしょう? その女をこちらに渡していただけませんか? そして知っているのであれば、カルマ様たちの居場所を教えていただけませんか?」
「だ、駄目だ龍華ちゃん……お願い……」
「……」
えっと、よーするにセレーネ達は自分たちの世界の宝具とやらを盗み出して、指名手配されちゃったからわざわざこっちの世界に逃げ出してきたってことでいいわけ?
チラッとセレーネを見ると、絶望したかのような顔で俺を見上げている。その表情から察するに、本当の事なんだろう。多分、おっさんが言っていることが正しいんだろうな。
「お嬢さん。もし協力していただけたら十分なお礼を差し上げますよ」
「え? マジ?」
「はい。なにせ国の宝を盗んだ連中ですからね。その女を渡してくれたのであれば、20年は遊んで暮らせるお金と、望むものを何でも差し上げましょう」
「うっそ……そんなに?」
「龍華、ちゃん……?」
「そして残りの三人ともお知り合いのご様子ですし、一人捕まえるたびにさらにお金を差し上げましょう。四人合計で80年分は遊んで暮らせるお金と、そして望むものを差し上げ、素敵な男性も紹介して差し上げます!」
「マジでか! やっだぁ! ワタシ、ちょー嬉しい~! ウフフー☆」
すげぇ! もうそれって、働かなくてもいいってことじゃないですかー! 異世界ってお金持ちなんだな!
男はいらんけどな!
「ほ、本当に一生遊んで暮らせるお金をくれるの?」
「はい! ですので、その女を渡していただけますか?」
「だが断る」
「……は?」
けどいらねーや、そんなもん。
俺が二つ返事でオーケーを出すと思っていたのか、嬉しそうな顔をしていたおっさんにそう告げてやると、訳が分からないという顔で俺を見てくる。当然、腕の中にもいるセレーネも同じように目を見開いて見上げていた。
「あ……ああ! そうですよね! 金額が少なかったんですね! ではキリのいい、100年分でどうでしょう!」
「いらね。そもそも、どんな条件を出してもセレーネは渡さねーよ」
「な、何故ですか!? そいつらは大罪人なんですよ!? 国の大切な宝を盗んだ、犯罪者です! いわば悪なんですよ! そしてそれを捕まえる私達は、正義なのです!」
「まぁ、そうなんだろうな。俺はおたくらのお国……じゃなくて、異世界事情なんてこれっぽっちも知らないんだけどさ――――女の子を泣かせておいて、正義もクソもあるわけねぇだろうがよ」
カルマ達が宝具とやらを盗んだ。それは分かる。こいつらに出会ってたった一ヶ月ほどで、別に毎日会っているわけでもないし、今はお互いに敵同士という立場だ。数回戦ったが、手加減なんてしないで、いっつも全力で叩き潰してきた。
だけど、それでも……こいつらが意味も無く宝を奪ったりするわけがねぇ。
「おいおっさん、一つ聞くぜ? 宝が盗まれた時の話を最初から、正確に、そして全部話してみろよ。もしそれで、俺が納得するような内容だったらセレーネを渡してやる。だが、納得しなかったら渡さねぇ」
「ぐ、ぐぐ……そ、それは……」
「言えないのか? それとも、嘘の内容も言えないのか? なら、友達を渡すことはできんな」
そう言いながら、俺はバッグからベルトを取り出して腰に回す。そして、ブレードライザーを顔の前に持ってきて構える。
「そ、それは……まさか、ベルト!?」
「おっさん。セレーネが欲しかったら俺を倒してからにしな。――――変身!」
ブレードライザーをベルトに装着し、俺は構える。
このおっさんの実力がどれだけあるかは分からない。だが、腰に装着されているのは見て分かる通り、ベルトだ。だけどなんだか質素な感じだな……もしかしてあのベルト、オリジナルとかじゃなくてプロトタイプとか、量産型のベルトか?
ま、だからどうしたって話だけどな。ウルさんが作ってくれたこのベルトが負けるなんてこと、あるわけがない。