タイ反政府デモ 強権改め沈静化させよ

2020年10月17日 06時43分
 タイの反政府デモで、首都に非常事態宣言が出された。プラユット首相の退陣や王室改革など、学生らの要求は一顧だにされておらず、デモは今後も続くとみられる。政権側が歩み寄れないか。
 初日の十四日は、一九七三年に学生と国軍が衝突し、学生ら七十七人が死亡した「血の日曜日事件」が起きた日。この時は、軍事政権の打倒に成功しており、学生は今回、象徴的なこの日を選んだとみられる。
 同日から十五日にかけて、首都バンコクの首相府前を一万〜二万人のデモ隊が占拠し、政府はバンコクに非常事態宣言を発令した。五人以上の集会が禁じられたため、警官隊はデモ隊を強制排除してリーダーの弁護士らを逮捕したものの、事態の先行きは不透明だ。
 タイでは戦後、軍政と民政が入れ替わる政変が頻発。昨年は総選挙で軍政から民政へ表面的には平和的に移行したが、首相には軍政のトップだったプラユット氏が就任した。「軍政の続き」との印象を内外に与えた。今年二月には、若者らに支持された野党が憲法裁判所から解党を命じられ、反政府運動が本格化。学生らは、首相の辞任や軍政に有利な憲法の改正、解散・総選挙実施などを訴える。
 夏ごろから、王室改革の要求も加わった。十三世紀から王室があり、最高刑が禁錮十五年という不敬罪が設けられているタイでは、型破りな主張である。背景には、王室を取り巻く意識の変容があるとみられる。
 かつて、政敵同士を跪(ひざまず)かせて仲裁するなどカリスマ性を誇り、有事には国王が乗り出す「タイ式民主主義」を確立した前国王は、四年前に死去。跡を継いだ長男の現国王は、国を空けてドイツで過ごすことが多いなど、存在感の薄さを指摘される。不敬罪の適用を手控えるよう政権に命じ、イメージの向上に腐心している。
 コロナ禍もある。国内の感染者は多くないが、世界的な旅行自粛でタイ経済を支える観光業が不振に陥り、国民は生活苦にあえぐ。その中で王室は四兆円とも六兆円ともいわれる資産を有し、国庫から年間三百億円近くを得ている。学生らは不敬罪の廃止や王室予算の削減なども求めている。
 要求は幅が広がりすぎた感もあるが、いずれも「民主化を求める叫び」だろう。政権は強権的な手法を改め、先延ばしにしている憲法改正の審議に着手するなど、何らかの形で要求を受け入れることが必要ではないか。

関連キーワード

PR情報