合同葬巡る通知 弔意強制にならぬよう

2020年10月16日 08時06分
 十七日の故中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬当日、弔旗や黙とうで弔意を表明するよう、文部科学省が全国の国立大などに通知していた。弔意の強制にならぬよう、慎重な取り扱いが必要だ。
 亡くなった人に対し、各個人が自らの信条に基づいて弔意を表明することは当然だ。しかし、首相だったからといって国家が弔意を強いることがあってはならない。ましてや教育機関や学校現場に強制と受け取られかねないような手法は避けねばなるまい。
 政府は二日の閣議で合同葬当日に各府省が弔旗を掲揚し、午後二時十分に黙とうすることを了解。同様の方法で哀悼の意を表明するよう関係機関に協力を要望することも決め、加藤勝信官房長官は同日付で萩生田光一文科相にも周知を求める文書を出した。
 これを受けて、藤原誠文科次官は十三日付で、国立大や所管する独立行政法人、日本私立学校振興・共済事業団、公立学校共済組合などのトップに対し、加藤長官名の文書を添付して「この趣旨に沿ってよろしくお取り計らいください」と記した通知を出した。
 事務次官名の同様の通知は、一九八〇年の大平正芳、八七年の岸信介、九五年の福田赳夫、二〇〇〇年の小渕恵三、〇四年の鈴木善幸、〇六年の橋本龍太郎各元首相の合同葬の際も出ており、加藤氏は記者会見で「要望したもので、弔意表明を行うかどうかは関係機関で自主的に判断されることになる」と、強制性を否定した。
 しかし、文部行政のトップである次官による教育機関へのこうした通知は、弔意の強制と受け取られかねず、過去にも反対意見があり、議論の対象となってきた。
 〇七年の宮沢喜一氏の際にはこうした通知を出しておらず、内閣が関わる首相経験者の合同葬だからといって、弔意の表明を求めなければならないものでもない。
 通知が、特定政党を支持するなどの政治教育を禁止する教育基本法や、思想、信条の自由を保障した憲法に反しないか、慎重に見極める必要がある。
 自民党との折半で国から約九千六百万円の予算が合同葬に支出されることへの反対論もある。菅義偉首相が日本学術会議の新会員任命を一部拒否したことも、学問の自由を侵すとの厳しい批判がある。
 教育機関や学校現場への国家による過度の介入に、国民から厳しい視線が注がれている。政権中枢や文部行政に携わる者は、そのことを決して忘れてはならない。

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